嵐を起こす[うるさいファイブ]
西日が差しこむ放課後の教室。
風に当たるために窓際に集まった友達と、輪になってお喋りしていた。
「後藤さんは好きな人、ほんまにいないん?」
それは女子が集まると、時々出る話題だ。
「2年生までは、いたで」
私は下を向いて答えた。
しかもその子とは両想いで、家も近かったからよく一緒に遊んだ。
だけど付き合ってたとかいう感覚じゃない。
そんな考えがよぎった事もない。友達止まりにしないと、クラスで冷やかされるし。
「でも今のクラスになってからは、いない」
クラス替えで、その子とは別のクラスになった。
それだけでその恋はさめた。というか元々友達のままだったんだしね。そんなもんだ。
「今のクラスになって、もうすぐ1年半やん。なのに好きな人できへんの?」
そう言われて、私はうなずいた。
だってだって!今のクラスの男子は…!
みんなで女子をからかってくるし、悪くて、うるさいんだから!
それは、ヤツらがいるからだ。
私のクラスには、[うるさいファイブ]という集団がいる。
それは超うるさい男子5人組。
小学4年生の男子は、みんなうるさいものかもしれない。
だがこの[うるさいファイブ]は、格が違う。
というかヤツらが、ただでさえうるさい男子全体を、更にうるさくしているのだ!
もううちのクラスの男子は、授業中もじっとしていない。給食や掃除当番は女子に押し付けて逃げる。もう誰にも手に負えないのだ。
休み時間や放課後もヤツらの暴走は止まらない。
「わーーっ!」
突然教室のドアが開くと、雪崩のように男子共が走りこんできた。
窓際で語らっていた私たちは飛び上がった。
「何やってるんよ、早く帰ればいいやん!」
私は友達をかばって前に立つと、怒鳴った。
男子共の手には、折り紙で作った手裏剣。私はギョッとする。
一人の男子がそれを投げつける。これが当たると結構痛い。
「やめてっ!」
私はたまらず教室から逃げだした。だが、ヤツらはしつこく廊下を追いかけてくる。
「悔しかったらお前も手裏剣作って反撃すればいいやん」
手裏剣の折り方なんて、女子はほとんど誰も知らないって!
それは明らかに挑発。私はムッとして声の主を見た。
そいつはニヤニヤしながら私を見ていた。
杉原だ。[うるさいファイブ]のメンバー。この春転校してきたばかりなのに、今や自他共に認めるクラスで一番うるさいヤツなんだから、かなりの実力だ。
杉原を睨んでいると、その隙をついて横から手裏剣が飛んできた。
よけようとした私は、思わず転んで、廊下の硬い床におでこをぶつけてしまった。
痛かった。もう10歳になるのに、声を上げて泣いた。あまりにも痛かったのだ。
友達が先生を呼んできて、駆けつけた先生が男子を叱ってくれた。
でも私のおでこの大きなたんこぶは、自分で勝手に転んでできた物だから、それは私の方が注意されてしまった。
紙の手裏剣が当たるくらいじゃ、たんこぶにならないんだから、落ち着きなさいよって。
悔しいけど、確かにその通りだった。
でも次の日からは、手裏剣を投げられる事はひとまず無くなった。
だけど今度は、言葉での攻撃が始まった。
代表的な攻撃方法は、やはりあだ名になる。
しかし、そこはさすがに小学生の男子というか。
どうしても下ネタに走っていく。
私の苗字に余計なアレンジを加えて、[うるさいファイブ]が最終的に決めた私のあだ名は…。
もう、大体お分かりいただけるだろう。
「ゴトウンコ」
これはあまりにもひどすぎる。
休み時間になるとこれを連呼してくるのだから、恥ずかしいったらありゃしない。黙らせるために追いかけるしかない。
残暑厳しい中でサウナのように蒸せ返る教室の中を、走り回ってクタクタになる。慌ただしい毎日が過ぎていった…。