泣きたくなる朝の世界
あたしの心の中で、混沌という名のケモノが暴れている。
そいつはあたしの心を引っ掻き回す、ぎゃーぎゃーと喚き散らす、内側から外に向かってガンガンと蹴りを入れる。
そいつが暴れる度、あたしは顔をしかめる。
そいつとの出会いがいつなのか、あたしには分からない。生まれつきあたしの中に存在していたのかもしれないし、何らかの形で、たまたまあたしの中にするりと潜り込んだのかもしれない……。
あたしの中で暴れているそいつのことは、あたしにしか見えないし、聞こえない。あたし以外にそいつの存在を知るものはいない。
でも一つだけ確かなものは、そいつが暴れると、あたしは無性にイライラする。
それは、この世界の醜さに共鳴しているのかもしれない。
あたしは潜り込んだ布団の中から、枕元の目覚まし時計に目を向けた。針は4時10分を指していた。
カーテンの向こう側にある朝陽の光は、うっすらとあたしの部屋を照らしている。季節は夏だから、4時でも外は充分に明るい。
遠くの方で微かに聞こえる小鳥のさえずり、目覚まし時計が時を刻む針の音、あたしの心臓の鼓動。混沌というケモノが動き出そうとしている音。
あたしはふと窓の外に目を向けた。
外の世界は、怖いくらいに静かだった。
あたしの心の中はこんなにもざわめきはじめようとしているのに、朝の世界は泣きたくなるくらい静かだ。
あたしの心がどんなにかき乱されても、朝は静かにやってくる。たとえあたしがそれを望まなくても、朝はそんなことは気にも留めない。
あたしは深く深呼吸をした。
心の中のそいつが、少しずつ勢いを無くしていくのが分かった。
「あたしの心の中で暴れてたのは、あたしだったんだね」
あたしはポツリと呟いた。
あたしの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。