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雨が止む前に、君は  作者: ペンネームは無い


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1/1

雨宿りの距離

初めて投稿します!

「雨の日の帰り道って、少しだけ素直になれる気がします。そんな瞬間を書きたくて、この物語を作りました。」

雨の匂いがする夕方だった。

大学の図書館を出た瞬間、ぽつ、と頬に冷たいものが落ちる。

「うわ、最悪……傘ない」

鞄を漁っても出てくるのはレシートと飴だけ。諦めて走ろうとした時、頭の上に影が差した。

「入る?」

振り向くと、同じゼミの朝比奈が黒い傘を少し傾けて立っていた。

「あ、でも悪いし」

「このまま風邪引かれる方が嫌」

さらっと言うから、余計に困る。

朝比奈は静かな人だった。ゼミでも必要以上に喋らないし、笑う時も声を立てない。でも、たまにこちらを見ている視線だけは妙に熱を持っていて、気づかないふりをするのが少し苦しかった。

「駅まで?」

「うん」

「じゃ、一緒」

雨音が傘を叩く。

肩が触れそうで触れない距離を歩きながら、私は意味もなく靴先を見つめていた。

「そういえば」

朝比奈がぽつりと言う。

「この前、好きな人いるって言ってたよね」

心臓が変な跳ね方をする。

「……言ったっけ」

「飲み会で。酔ってた」

終わった。そんなこと言った記憶ない。

「で、いるの」

「……いる」

「そっか」

たったそれだけなのに、雨より冷たい声だった。

駅の明かりが見えてくる。

もうすぐ、この変な時間も終わる。そう思ったら急に焦った。

朝比奈はきっと、私が別の誰かを好きだと思ってる。

それが嫌だった。

「朝比奈は?」

「え?」

「好きな人」

少し沈黙してから、彼は笑った。

「いるよ」

胸がきゅっと痛む。

聞かなきゃよかった、と思った時。

「ずっといる」

雨音の隙間に、その声だけが妙にはっきり聞こえた。

「たぶん、その人は気づいてないけど」

駅前に着く。

人通りも増えて、傘を閉じるタイミングを探すみたいに、私たちは立ち止まった。

言わなきゃ終わる。

でも言ったら、何かが変わってしまう。

怖くて黙っていたら、朝比奈が小さく息を吐いた。

「じゃ、また」

離れていく背中を見た瞬間、勝手に声が出た。

「……気づいてるよ」

彼が振り返る。

「たぶん、私が思ってる人と同じなら」

数秒、世界が止まったみたいだった。

それから朝比奈は、困ったみたいに笑った。

初めて見る、年相応の顔だった。

「それ、期待していい?」

雨はまだ降っていた。

でももう、少しも冷たくなかった。

雨の日って憂鬱なのに、誰かと歩く帰り道だけは少し特別に感じます。

朝比奈の「このまま風邪引かれる方が嫌」という台詞は、個人的にかなりお気に入りです。

少しでも胸がきゅっとしてもらえたなら嬉しいです。

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