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第5話 2つのコップ

「こちらだ、でか物」



 隠し部屋から出た俺たち。

 ヴィクトリア様が剣を奪われたから、石の柱を思いっきり振り回す。



 俺たちは大慌てで、小さな回廊を走る。




「てやぁあああぁぁぁっ!」



 烈火の如き気合と共に、柱が振るわれる。

 石つぶてが周囲に飛び散る。

 あんなに重い柱なのに、なんて身軽なんだ。



「これが、王国の切り札……」



 その圧倒的な実力に、俺は恐れおどろく。




「何だ、この力は」


 そうおもったのに、なんか、ヴィクトリカも驚いていた。

 もしかしてだけど、こいつの付与魔法の影響か!


 狭い室内なので、暴れまわるわけにもいかずに、これをやるのはぶっつけ本番だったけど、マジですげぇ!




 これならば、ドラゴン相手であろうとも、どうとでもなる。


 実際、俺もまた、風のような足取りで、狭い回廊を走り抜けることができていた。




「姫様はやく」


「こっちにいらしてください!」



 そして、足止めを快く受け入れてくれた姫様に帰って来いと声をかけた。



 向こうも向こうで、これ以上戦うことに意味はないので、あっさりと引いた。



 その背後。

 ドラゴンの口元からは雷鳴の如き光が灯る。



「信じるからな」



 だが、大丈夫、

 俺はマーサを信じる。

 そして、放たれたドラゴンブレス。



 まるでなめるように、炎が通路を部屋を満たしていく。



 もしも、付与魔法がなければ、俺たちは丸焦げになっていただろう。



 しかし、俺たちは火傷一つおっていない。

 もっとも、相手は飛行できるドラゴンだ。

 休んでいると追ってくるかもしれないので、大慌てでその場を後にした。




「はぁはぁはぁ、ドラゴンはもう追ってきていないよな」


「だいじょ……うぶ」


「安心せよ、ドラゴンの気配はどこにもありはしない」



 もはや息もできない俺、ただ息が乱れているマーサさん。

 そして、戦闘したというのに、まったく息が乱れていないヴィクトリア。

 こうしてみると、普段からもっと運動をしていればよかったと思ってしまう。




「あああぁぁぁ!」



 走りに走り、ここまでくれば安心だろうと、全く根拠のない価値基準を信じ、俺たちは休息をとることにした。



 とりあえず、異常はないか、各自、確認すると、マーサさんが悲鳴を上げた。




 一体どうしたと確認すると、食糧や水が入ったバッグが破損していたのである。



 俺もバックを確認すれば、こっちも同様だ。


 熱のせいだろう。




 マーサさんの付与魔術は人体と、鎧や服のたぐいは鉄壁だが、荷物類に関しては穴があったらしい。




「これは……、困ったの。

 ここから、ダンジョンの出口まではどうあがいても3日間はかかる」


「最悪食糧に関しては、4日から5日なら、でも水は……」


「確認したいんだが、この中に水魔法を使える人間はいるのか」



 俺の質問に、全員が首を横に振った。





「くそ、何でこんな時だけ魔物が出てこないんだよ」



 回廊のときは一番出てほしくないタイミングで狼がやって来たのに。

 世の中、上手くいかないものである。



 あれから、俺たちは話し合い。

 もうダンジョンを強行突破するしかないという結論を下した。




「ドラゴンが暴れまわったせいだよ。

 身の危険を感じた低位の魔物が身を隠すっていうのはよくある話さ」



 というのが、迷宮探索の専門家である、冒険者の推測である。




 またしてもドラゴンか。

 最悪、魔物を狩り、肉を食い、血を飲めば生き残れると思ったが、甘い見通しだったらしい。

 途中、寄り道して湧水があるエリアによるのはどうかという話になったが、それはそれで、食糧問題が発生しかねない。

 なので、俺たちはまっすぐ外に向かうこととなった。



 そして、2日目。

 強行軍のつけを俺たちは支払うこととなっていた。




「水が、切れた」


 残りの水が、コップ2杯分。

 体を酷使したせいで、あっという間に水が消えた。



 さらに悪いことに、これまで不健康な生活を長く続けていたせいだろうか。

 ヴィクトリアの体調は酷く悪化していた。



 普通に話すことはできているのだが、時折、身体が痙攣して、歩くこともできない状態になるのだ。



 まぁ、俺たちの状況もいろいろとまずいのだが。

 具体的には、もう疲労で、顔が真っ青になっている。




「水はそなたたちで飲めばいい。妾はこの状況だ。

 はっきりと言おう、もはや魔物と出会ってもまともに戦えるとは思えん」



 脱水症状の後遺症に対して、懇切丁寧に説明しても、姫様はこの反応である。

 まぁ、ヘロヘロの冒険者パーティーがモンスターに出会えばどうなるかって話だしな。


 でも、ここには俺たちは姫様を助けるためにやって来たのだ。


 任務という面では、姫様を優先するのが正解だろう。


 しかし、この状況で水を我慢できるかと言えば否だった。

 俺の手は、半分に分けられた水に伸びていく。




 そして、ヴィクトリア様の前に水が置かれた。


「僕はただの付与術師。直接戦闘能力は持たない。

 ならば、中級冒険者くらいの力を持つ、君と、病人を優先するべきだよ」




「そのいいのか……」


 俺はマーサをじっと見つめた。

 その顔はもともと血色のいい物から、水分不測のせいで土気色になっている。

 身体もフラフラだ。



 ここから先補給があるのか分からない。

 もしも、倒れたら……、誰かをかばう余裕はない。

 今は2人いるから1人の病人を引きずれているだけだと説明した。



 しかし、マーサの決意は変わらなかった。

 少し、水を分けてやりたいとも思うが、それでも、俺は自分の死という可能性があるからこそ、譲れなかった。




 それから半日後。

 俺たちはごくごく普通の冒険者パーティーと遭遇したのだった。


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