第3話 ダンジョン
「ピギャアアアァァァッ!」
レオンが剣をふるえば、鳥の姿をした魔物、コカトリスが悲鳴をあげて絶命した。
「うわっ!」
前世日本人。
命を奪う経験なんて、虫くらいのものだ。
そんな俺からすれば、この成果はすさまじいと思ってしまうが、同時に生理的な嫌悪感も感じてしまう。
「すごいな。さすがは、Sランクの冒険者パーティーだ」
とはいえだ、その思いを素直に吐き出してしまうと、つかえない奴判定を受けかねない。
俺は彼らの背中をじっと見つめながら、努めて、いつも通りの態度を保った。
ちなみにいうけど、俺はサボっている訳ではないからな。
俺の仕事は怪我人が出たときに治療すること。
今、俺が動くべき時ではないというだけのことだ。
はい、すいません。白状します。
実は俺、戦闘能力そんなに高くありません。
いや、一般的な魔法使い寄りは上だという自信はあるよ。
けどね、身体能力だとか、とっさの判断だとかに問題がありまして……。
「そうでしょう、そうでしょう。僕たちライオンハートはいずれ世界最強の冒険者パーティーになるんだからさ」
そうやってこちらに話しかけてくれたのは、俺と同じ公費う待機組ということで。いろいろとよくしてもらっている、付与術師けん、荷物運びのマーサだ。
そんな風に、自分の仲間たちをキラキラとした目で見つめているんだけど。
「よしやったな」
「そうね」
「これからもこの調子で姫様をお救いするんだ」
「ああ、気を緩めるな」
「みんなお疲れ」
「……」
皆が和気あいあいとやっているのに、マーサがねぎらいの言葉をかけても無視。
「荷物運び。これを運んでおけ」
「まったく、あんたはほんとうに役立たずなんだから」
「これくらいしかできないんだから、もうちょっと頑張れよ」
最初、ちょっとした疑問だったのが、今では確信に変わった。
やめてくれ、お兄さん。こういったぎすぎすした雰囲気は苦手なんだよ。
マーサは戦闘の補助と、皆の雑用を一手に引き受けている。
常に動き回っており、新入りの俺から見ても働き者だなぁ、と思う。
でも、戦闘能力がないからか、他のメンバーからの扱いが悪い。
まぁ、冒険者なんてものは力こそが全ての世界だからな。
力がないやつに対して、当たりが強くなるのはよくある話だ。
正直、健全とは言えないので注意したいのだが、どうしても一歩踏み出せないでいた。
いや、だって俺部外者だし。
今回の冒険が終わったら、このパーティーから離脱する、雇われだ。
そんな俺が、こいつらのこれからに影響を与えかねない行動をとるのはどうなんだ?
俺にできるのはせいぜい、時折、あなたも大変だねぇと、その苦労をねぎらうことくらいだった。
「ついたぞ、ここでヴィクトリア様が行方をくらませた、階層だ」
レオンは己の手に握りしめている方位磁石を睨みつけている。
話を聞くと、姫様がいったいどこにいるのかを探知するための魔道具らしい。
さすが王家。
こんな高価なものを、言うならばバイトでしかない冒険者に渡すなんて。
そして、これまでは下方向ばかり示していた方位磁石が、今は一定の方向だけを指示している。
この先に、ヴィクトリア様がいるのだろう。
本当に、何もかもが嫌になるほどに順調だな。
正直な話、この新進気鋭の冒険者パーティーに手柄の多くを取られるのは癪に障るが、こればかりはしょうがない。
さぁ、お姫様を助けて、地上に戻ろう。
と、決心したのだが、こいちら。
ここは危ないから、お前らはここで待機しとけと言いやがった。
こちらを見る口元の笑みにあざけりの色が混じっているのを俺は見逃さなかった。
姫様に直接会うメンバーを限定して、印象を良くしてやろうって作戦だな。
せこ!
でも逆らえない。
こういう時、力のない人間は無力だった。
だが、悲観はしない。
姫様が生きているのだ。
護衛の騎士もまた何人か生き残っているだろう。
そいつらを俺のチート治癒魔法で回復させれば、功績としては十分。
国としては俺のような人材は絶対に欲しい。
そういったことを感情にいれれば。俺は必要十分以上の功績を得られ、王家の庇護を得られるからだ。




