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油断してはだめ

 黒いビロードのようなつややかな毛並みの黒猫が、優雅に腰を振りながら歩いて行く。

 しっぽを立てているのは機嫌のいい証拠だ。

 黒猫はにゃ~と甘えた声を出して、洗面所で髪をとかすアメリに体を摺り寄せた。

 アメリは髪をとかすのをやめ、髪を団子にまとめた。そして、しゃがんで黒猫の頭を優しくなでた。

 黒猫は目を細めてゴロゴロと喉を鳴らしている。

 ミウはドアの陰から、その様子を見ていた。


 さっき、モンジの部屋の窓から黒猫が家の敷地に、入ってくるのが見えたのだ。

 黒猫がこの家にいると、モンジから聞いていたので、あの猫がそうかもしれない。

 ミウはこの家にいる猫と仲良くなりたいと思っていた。だって、同じ耳としっぽを持つ仲間なのだから。きっと心が通じるものがあるはずだ。


 ミウが階段を降りてみると、やっぱり思った通りさっきの猫が洗面所に入っていくのが見えた。でもまさか、そこにアメリいるとは思わなかったけれど。

 そっと見ていたのに、アメリはミウに気づいたようだ。

「こっちへおいで」

 と、ドアに隠れているミウに手招きした。


 霧の中の路地裏で助けてくれたアメリ。あの時は本当にアメリのことが美しい天使のように見えて、キスしたいくらい好きだと思ったのは本当だ。

 でも、なん日か経つとあれは夢だったのかもしれないと思えた。

 本当は優しい人なんだろうとわかっているけれど、 あの冷やかな目と冷たい話し方が恐いし、油断すると何かされそうに思える。

 ミウが行こうか行くまいか迷っていると、眉の間にちょっとしわをよせたアメリが、今度は無言で手招きした。

 行くしかない。


 ミウが歩き出すと、黒猫は身構えるように体を低くしてから、さっとミウの横を走り去った。

 ミウが黒猫の行った方を見ていると、

「人見知りなのよ。と、いうより私にしか慣れていないんだけどね」

 と、アメリが立ち上がりながら言った。


 ミウがアメリの近くまで行くと、アメリはミウを抱き上げ洗面台の横の棚の上に立たせた。

 そして、緑色の液体の入ったビンを棚から取り出すと、ビンのキャップを開け、そのキャップに緑色の液体を注ぎ入れた。

 それを自分の口に含み、口の中で、クチュクチュいわせてから吐き出した。

「こうやって口の中をきれいにするの。きれいにすると気持ちがいいわよ。あんたもやってみなさい」

 アメリはそう言って、もう一度キャップに緑の液体を注いだ。それをミウにわたす。

 ミウは鼻に近づけて匂いを嗅いだ。ちょっと鼻につんときたけれど、甘い香りがする。

「飲んではだめよ。口に入れてすすいでから、吐き出すの」

 アメリが言った。


 ミウはうなずいてそれを口に含んだ。

 からい!

 ミウは慌てて口の中のものを吐き出して、棚から飛び降りた。

 口の中がひりひりする。

「あらっ、刺激が強かったかしら」

 アメリは舌を出して、クスクスと笑った。

 やっぱり。油断してはだめだ。ミウは思った。



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