ごちそう
しばらくして、モンジが部屋に入ってきた。
「ミウ」
モンジが呼んだ。ミウはベッドの下から出て来た。
「びっくりしたね。ひどいいたずらだ。ククク」
モンジが思い出したように、また、笑ったのでミウはむっとした。
「でも、ムンキチの時よりはましだ。ムンキチはネズミ捕りに指を挟まれたからね。きっと、痛かっただろうよ。ハハハハ」
モンジが笑った。
「ムンキチモ、オドロカサレタ?」
ミウはモンジの座るベッドに飛び乗った。
「そう。カルリに初めて会った時、驚かされたよ。コタロウもお前と同じ缶でおどろかされた」
「コタロウ モ?」
「そうだよ。二人とも、おれが見つけてここに連れて来たんだ」
モンジがミウをひざの上に乗せて言った。
「ソレ、ホントウ?」
「ほんとうだよ。ムンキチもコタロウもお前と同じような姿で、道端で鳴いていたのを拾ってきたのさ。偶然にも、二回とも嵐の夜だったよ」
ええっ? あの二人もあたしと同じような姿で? じゃあ、あたしみたいに捨てられたり、雨の中をさまよったりしたの? ミウはモンジの顔を見つめた。
モンジはミウが言いたいことがわかったように、うんうんと頷いた。
「さあ、早く行こう。ごちそうがなくなってしまう。おなかがペコペコだ」
モンジはミウを抱き上げ、部屋のドアを開けた。
ミウはさっきの話しを考えていた。ムンキチもコタロウも前はあたしみたいな猫の姿だったんだ。耳もしっぽもあったんだ。それじゃあ、あたしももう少し大きくなったら、二人のように人間の姿になれるってこと?
ダイニングに行くと、みんなはもう、食事を始めていた。
ごちそうが並んでいる。鶏のから揚げ、魚のフライ、フライドポテト、ピザ、サンドイッチ、スパゲティ、おにぎり・・・・。他にもいろいろ。変な色をしたスープらしきものもある。
ごちそうがなくなってしまうなんて、モンジは言っていたけれど、こんなにいっぱいあれば大勢で食べても、食べきれない。
ミウが座る小さな椅子も用意されていた。
ミウは椅子に座ってドキッとした。前に座っていたのはあの夜に会ったヤマンバだ。
ミウがあっと声を上げると、ヤマンバは手づかみでむしゃむしゃやっていた手を止めて顔をあげた。
ヤマンバの口の端から、赤い血が一筋たれている。
ミウは驚いて、隣りのモンジの膝の上に飛び移って、テーブルで顔を隠した。
「アハハハハ。ミウ大丈夫だよ、顔をお上げ。フジエばあさんだ。ヤマンバじゃないよ」
モンジが言うと
「ヤマンバだって~!」
ムンキチが笑った。
「おや、まあ」
アメリとカルリも顔を合わせて笑っている。
ミウはそっとテーブルの下から顔を出した。
「お前さんがミウか。かわいいのう。ウヒヒヒヒヒ」
笑い方も、ヤマンバそのものだ。でも、目はやさしそうだった。
「早く食べろ。なくなるぞ。ほら、このピザ、うまいぞ~」
ヤマンバの口からしたたっていたのは、ピザのケチャップだった。
モンジがミウを自分の椅子に座らせ、お皿にピザと鶏のから揚げを取ってくれた。ミウは辺りを見回す。
ムンキチもコタロウも、食べるのに忙しそうだ。マトマは家政婦らしく横に立っている。その横に知らない男の人が立っていた。男の人はミウと目が合うと、にっこりと笑った。誰だろうとミウは思った。
アメリが背筋を伸ばして、上品に食べていた。でも、そのひと口が大きい。大きなから揚げも、サンドイッチもおにぎりもなんだって、ひと口だ。
カルリもアメリと同じように、姿勢よく食べている。そして、アメリと同じように、ひと口が大きい。
ふたりはまるで競争でもするように、口の中に食べ物を入れていった。山のように積まれていた料理がどんどん減っていく。
ミウは二人のその食べっぷりに見とれて、自分が食べるのを忘れるくらいだった。
すぐに、ほとんどの料理がなくなった。
でも、中央に置かれた、スープのようなものは、ぜんぜん手が付けられず残っている。
フジエが立ち上がって、
「ばあさんが作ったスープも飲んでくれ。栄養満点じゃ」
そう言って、スープを皿によそった。
「はい、アメリ」
そして、それを一人ずつまわすように指示した。
「うへえ~」
ムンキチが舌を出して言った。
「味はもう一つじゃが、効き目は大きいぞ。これのおかげでムンキチもコタロウも早く人間になれたんじゃ。だから、ほれ、ミウも飲め」
フジエがミウの前にスープを置いた。紫がかった黒っぽいスープに油が少し浮いていた。
「コレノメバ ハヤク ニンゲンニ ナレルノ?」
ミウはフジエにきいた。
「そうだ。これを飲めば早く人間になれる」
フジエはにたりと笑った。抜けた前歯の隙間から舌がのぞいている。
フジエはヤマンバじゃない。魔女だ。ミウは思った。




