ムンキチとコタロウ
時間は毎日、同じように過ぎて行く。
子供たちはしょっちゅう、ミウが一人でいる部屋にやってきて、ベッドの下を覗き込み出て来るように言った。
おもちゃのボールで遊ぼうと誘ったり、お菓子をちらつかせたりしたが、ミウは出て行かない。
けれど、子供たちはあの時のように、無理やりミウをベッドの下から追い出そうとしなかった。
アメリはあれから声も聞かないし、姿も見ない。
そんなある日の朝、モンジはいつものように起きてすぐ、作業着に着替えないでねまきのまま、ぼんやりとテレビを見て過ごしていた。
ミウは、仕事に行かないモンジを見るのは、初めてだった。
それで、ムンキチとコタロウはこの部屋にいる。モンジがいれば、ミウはベットの下から出ているから。
「おい、何かしゃべれよ」
ムンキチが、モンジのひざの上にいるミウに向かって言った。まるでいじめっ子の口ぶりだ。
ミウが黙っていると、
「撫でていい?」
コタロウがモンジにきいた。
「いいよ」
モンジはミウを少し前に出す。
コタロウはそっとミウの頭を撫でた。
「ウフフ、フワフワ」
「ぼくも撫でていい?」
ムンキチがきいた。モンジがうなずく。
「ひっかいたり、噛んだりするなよ。そんなことしたら、脳天にチョップをくらわす」
アハハハハとコタロウとモンジが笑った。
脳天にチョップをくらわす、の意味がミウにはわからなかったけれど、楽しいことなんだなとミウは思った。
ムンキチがゆっくり手を伸ばして、ミウの頭に触れた。
「やった」
ムンキチがうれしそうに言った。
ミウもなんだかうれしかった。
「さあ、もうそろそろ時間だ」
時計を見ながらモンジが言った。
子供たちが部屋からドタバタ出て行く。
モンジはベッドから立ち上がると、同じ作業服がたくさん並んだクローゼットから、スーツを取り出した。
そして、引き出しからシャツとネクタイを選んだ。
ピンクのシャツに茶色いスーツ、ネクタイは青で、白の水玉もようだ。
「今日は、アメリの姉さんが来るんだ」
シャツの袖に手を通しながらモンジが言った。
「アメリノ ネエサン?」
「そう、アメリの姉さんだ」
細い体に茶色いスーツがなかなか似合っていた。ネクタイもオシャレだ。
髪に油をぬり、鏡を覗き込む姿はいつものモンジと違って見えた。
玄関の方で声がした。
「おっ、来たようだ。おいで。さあ行こう」
モンジがミウを抱き上げた。
下へ降りると、にぎやかな話し声がした。アメリの姉さんという人が、アメリと話している。
「あんた、相変わらずガリガリね。顔色も悪いわ。口紅の色もいいわね。何ていう口紅?」
「ほめてくれてありがとう、姉さん。つい最近ファンデを変えたのよ。口紅はね、死人の唇っていうのよ」
「うん、うん、似合っているわ。ほんと、まるで死にそうなゾンビみたい」
「あら、姉さん、ゾンビは死んでいるのよ」
「そうだった?」
二人は笑った。
ゴホン、モンジが二人に気づかせようと、咳払いをした。
アメリの姉さんが振り返る。その顔を見てミウは驚いた。アメリかと思うほどアメリにそっくり。服装も髪型も体系も。まるで、アメリの分身みたいに見分けがつかない。
向こうにいる方のアメリが姉さんと言っていたのだから、振り向いた方がアメリの姉さんだ。
「いらっしゃい。カルリ」
モンジが言った。
よく見ると、アメリにはない、ほくろがあごにあった。
「モンジさん、お久しぶり。あら、残念ながらお元気そう。まあいいわ。ああ~、この子がミウね。なかなかいい毛並みね。鼻ぺちゃだけど、目が大きいわ」
ドタバタと階段を下りてくる音がして、ムンキチとコタロウがやってきた。
「いらっしゃい、カルリおばさん」
二人が声を合わせて言った。
「ムンキチ、コタロウ。ああ、二人とも何て憎たらしい顔をして」
カルリがしゃがんで、二人のほほをつねった。
「お土産があるよ。ほら」
カルリはムンキチとコタロウに一冊ずつ、本を渡した。
「わあ~、恐怖全集だ」
ムンキチが本を重そうに持ち上げて言った。
「ありがとう」
コタロウがちょっと恥ずかしそうに言う。
「お互い読み終えたら、交換するといいよ」
カルリが二人の頭を撫でながら言った。
ミウはまじまじとカルリを見た。アメリよりも優しそう。ミウは思った。
「あんたにも、お土産があるよ。」
カルリがかばんから、缶のようなものを出した。缶にはポテトチップスの写真が貼られていた。
ミウは嬉しくなった。写真と同じポテトチップスを、ムンキチがおいしそうに食べていたのを見たことがある。それで、ミウも食べてみたいと思っていたのだ。
「はい、どうぞ」
カルリがミウに缶を渡した。
「ドモ、アリガト」
「あら、お礼が言えるのね。おりこうさん」
ムンキチとコタロウがクスクス笑っている。
「開けてごらん」
みんながミウに注目した。
ミウは喜んでふたを開けた。
その瞬間、チュウーッ! と変な音をたてて、缶から何かが飛び出した。長くてまるでへびのようなもの。
ギャアッ、ミウは悲鳴をあげてモンジの腕から飛び出した。パニックになったミウは床や壁をすごい勢いで走り回った。
「アーハッハッハッハ」
「ギャハハハ」
「ウー、ハハハッ」
みんなが手を叩いて笑った。モンジまでも。
ミウは階段を駆け上がり、いつものベッドの下にもぐった。
下の廊下ではまだ、笑い声が続いている。
「ナニ、アレ、ヘビ? ミンナヒドイ」
ミウは声に出して言った。




