ミウ捨てられる
ミウはここに来る前は年配の夫婦の家で、三毛猫の母さんと兄弟たちと暮らしていた。
母さん猫がミウの体を優しくなめて、おいしいお乳を飲ましてくれる。兄弟と追いかけっこをして遊ぶのがすごく楽しかった。
よしよしと頭を撫でてくれる、やさしいおじさんとおばさん。ずっとこの幸せな生活が続くと思っていた。けれど、いつの頃からか変わってしまった。
おじさんとおばさんは、ミウだけ他の兄弟のように抱き上げなくなり、兄弟たちからは仲間外れにされるようになった。かわいがってくれた母猫ですら、ミウが近づくとそっぽを向くようになった。
なんとなくわかっていた。自分の姿が母さんや兄弟たちと違ってきたことが。
そして、運命の夜、おじさんが、ミウだけを箱に入れて車に乗せた。おじさんは一言もしゃべらずに車を運転した。普段のおじさんはおしゃべりで、いつも、陽気に歌をくちずさんでいる人なのに。
随分走ってから車は止まった。ミウが入っている箱が地面に置かれる。ダンボール箱のふたが開いて、おじさんの顔が見えた。
「ニャオ~」
ミウはなるべく悲しそうに、みじめそうに、同情をかうように鳴いた。ミウはここにひとりぼっちで置いていかれると知っていたから。でも、もしかして、おじさんの気持ちが変わるかもしれない。ミウは媚びた目でおじさんを見つめた。
けれど、おじさんの表情に哀れみはなかった。
おじさんは水の入った入れ物と少しのキャットフードを箱の中に入れて、すぐにいなくなった。
車のエンジンのかかる音がして、車は行ってしまった。
ミウは、車が戻ってくるかもしれないと、淡い期待をもって待った。けれど、そんな気配はなかった。
あたりが明るくなり始めた頃、ミウはダンボール箱から飛び出て、駆け出した。うっそうと茂る木々の中を夢中で走った。こんな誰もいない寂しいところから早く逃げ出したい。無視されてもいいから、みんなのいる家に戻りたい。
何日も歩いて、やっと街についた。人に姿を見られてはいけない気がして、ミウは夜に歩きまわって家を探した。
家はそう簡単に見つかるはずもない。ミウは疲れきって嵐の夜にとうとう動けなくなった。
そんな時にモンジに助けられたのだ。
モンジに見つけてもらえなかったら、あたしは生きていなかっただろうと、ミウは思う。
そして、この家から追い出されたら、もう行くところはないのだ。誰からも嫌われて死んでいくのだ。
そんなことを考えて、ミウは体が震えた。
早く、モンジが帰ってくればいいのに。ミウはベッドの上にのぼり、窓から外を見た。日射しが眩しい。モンジはまだまだ帰らない。
ミウはモンジが側にいてくれれば、他に誰も必要なかった。この部屋でモンジと過ごす時間がミウに生きる力を与えてくれる。
モンジとベッドに座って、テレビを見ながらのんびりするのが、ミウは一番好きだ。
モンジが見ている映画の説明をしてくれる。
「ほら~、怖いぞ~。次、出てくるぞ~。ほらっ、やっぱり、うわ~、やられた~」
モンジは大げさに膝を叩いて笑った。その横で、ミウも同じように膝を叩いて笑う。
モンジはミウに言葉も教えた。ミウはもの覚えがよく、教える言葉はすぐに覚えて、モンジの口の形を真似て、声を出すと言葉が口から出た。
モンジがいない間、ミウは一人で練習した。
ホウチョウ、クチサケオンナ、カンオケ、ユデタマゴ。
他にも、
デキマセン、スミマセン、イヤデス、テヤンデイ、など。
ミウはテレビと、モンジのおかげで、だんだん話せるようになってきた。




