アメリと死神
いつもの朝だ。
モンジのベッドはきれいに整頓され、パジャマもたたんでバスケットの中に入れてある。
ミウは目をしばたたかせ、寝床で寝返りを打った。
「まだ、寝るつもりですか?」
モンジのベッドのへりに座ったカエルが、足をぶらぶらさせながら、退屈そうに言った。
「・・・う~ん」
ミウが薄目を開けた。
カーテンのすき間から日が差している。
焼いたパンとスープの匂い。
ミウのお腹がグウと鳴った。
ミウは布団から這い出して体を起こした。
しばらくぼんやりしてから、やっとのそのそとテーブルの前につく。
朝食がテーブルに置かれてから、大分時間が経っている。スープもすっかり冷たくなっている。
「朝ごはん、置いておくわね」
朝のいつもの時間にマトマが寝ているミウに声をかけた。
聞こえてはいたけれど、ミウは眠くて返事をしなかった。
ふうっとミウはため息をついた。
でも、昨夜は無事に家に帰ってこられて本当によかった。
車が空を飛んで、あの世に連れて行かれるのかと思ったけれど、一時間後にはちゃんと家に着いていた。
あの男の人は優しかったけれど、ちょっと恐かった。
ぼんやりする頭でミウは考えた。フジエが言うようにあの人は死神だったのだろうか。
ミウは冷たいパンを一口かじった。
「もう、十一時ですよ」
ベッドに座ったカエルが言った。
「アタシ ジカン キニシナイ。ソレヨリ キノウノ オトコノヒト ノコト ドウオモウ?」
ミウはもうひと口パンをかじりながら言った。
「霊柩車の男ですか? あいつやっぱり死神ですよ。自分でそう言ってました」
「エッ、アンタ フタリガ ハナスノヲ キイタノ?」
「はい。 カエルから抜け出して前の席に行きました。あいつ、ぼくに気づいていたみたいだったけど、気づかないふりをしていましたよ。アメリと色々話していましたが、死神らしいことは話しませんでした。まあ、別に悪い奴じゃなさそうでした」
「イイシニガミ?」
「いい死神かどうかはわかりませんけど、アメリはあの男のことをすごく気にいったみたいでした。死神もまんざらでもなさそうで、今度会う約束をしていましたよ」
「ヘエー ソウナンダ」
ミウは死神とアメリが二人仲良く並んでいるところを想像した。
そして、ゆで卵をかじった。
うん、悪くない。冷たいゆで卵も、死神とアメリも。
二日後の昼過ぎ。
ミウが昼寝から起きて窓からぼんやりと外を眺めていた時、黒い常用車が家の前に止まった。
車はピカピカに磨かれ、太陽の反射が眩しいくらいだ。
車を待っていたようにすぐにアメリが玄関から出て来た。
運転席のドアが開いて、出て来たのはあの時の死神だ。この前と同じ黒いスーツを着て、黒いネクタイをしめ、黒い靴を履いている。
死神は助手席側に回って、ドアを開けた。
立ち止まったアメリと死神が微笑みあっているのが見える。光が射しているせいか、アメリの顔がいつもみたいに骨ばって見えない。それに、自然な優しい笑顔。
アメリを車の中に入れると、死神はミウとカエルが覗いている窓を見上げてにっこり笑った。
「キャッ」
ミウは驚いて窓から離れた。
昼間に見た死神の顔は前に見た時よりも、若々しく見えた。
「アア ビックリシタ」
ミウが胸に手を当てて言った。
「もう、行っちゃいましたよ」
窓の下を見ながらカエルが言った。
「シニガミハ アタシタチガ ミテイルッテ ワカッテタノネ」
「そりゃあ、死神ですから」
「ヤッパリ コワイ シニガミ」
「でも、笑ってましたよ」
「ウン ワラッテタ」
「大丈夫ですよ。アメリがデートする相手ですよ。アメリは危険なやつなんかとデートしませんよ」
「ソウダネ アメリガ デートスル アイテダモンネ」
ミウはほっとして、自分の手のひらを舐めた。そして、その手で耳の後ろの毛づくろいをした。




