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死神?

 モンジは慌ててムンキチを抱き上げた。コタロウも急いで道路の端に横になる。

 車のヘッドライトがモンジの姿に当たる前、モンジは手を上げて大きく手を振った。

 車はまるでタクシーのように、自然な形で、モンジの横に止まった。

 今度こそ!


 モンジは運転席の方にムンキチを抱いて駆け寄った。

 黒い窓ガラスがスルスルと開く。乗っていたのは若い男だった。

「急病人がいるんです。助けてください。ほら、あそこ」

 モンジは倒れているコタロウを指さして言った。余計なことを言うより、倒れている子供を見せる方がいいとモンジは考えた。

 男は体を伸ばしてコタロウの姿を確認すると、無言でドアを開け、車から出てきた。


 細身ですらりと背が高く、黒いスーツに黒いネクタイを締めている。

「病人・・・ですか?」

 男の長い黒髪が風で揺れた。細い目だが、鼻筋の通ったイケメンだ。

「はい。できれば、病院まで乗せてもらいたい。お願いします」

 男は倒れているコタロウの方へ歩いた。

(今だ!)


 モンジが後ろを振り返り、うなずく。

 アメリ、カルリ、フジエ、ミウが草陰から出て来た。

 車の後部のドアを開けようとアメリがやってきた。そして、

「ないわ、ドアが」

 といった。

「こっちも、ないわ、ドアが」

 向こう側に回ったカルリも言った。

 黒い車の車体はとても長かった。けれど、その長い車体には前のドアの取っ手以外、後ろには何もついていなかった。


 男が振り向いた。アメリやカルリを見ても、驚たり怖がったりする様子もなく、口元はうっすらと笑っているように見えた。

 薄目を開けて見ていたコタロウをちらっと見ると、男はつかつかと車の後ろまで歩いてきた。

「開くのはここだけです」

 そう言って、車のバックドアを上に持ち上げた。

 男をだまそうとしていたのがばれているのに、男は怒らないようだ。


 車の中は座席がなく、がらんと空洞になっていた。

「かわった車ですな」

 モンジが車を覗き込んで言った。

「ええ、棺桶を乗せるための車ですから」

 男がすました顔で言った。

「わあ、根桶だって」

「すごい~」

 子供たちが言い、フジエとカルリが口をおさえて笑った。

 男が微笑んだ。


 肌の色は白く、微笑んだ口元は上品で、どこか、西洋人形を思わせた。

「だましたことは悪いと思っています。すみませんでした。でも、本当に車が故障して困っているのです。できれば、近くの駅まででも乗せてもらえないでしょうか?」

 モンジが遠慮がちに丁寧にきいた。

 他のみんなも集まってきて、男を取り囲んで返事を待った。


「こんな車でよかったら、お家までお送りいたしますよ」

 男はたやすく返事をした。

「こんな車だなんて、素晴らしい車ですよ。真っ黒でピカピカで。こんなきれいな霊柩車に生きたまま乗れるなんて、なかかなないことですよ。なっ、みんな!」

 みんなはいっせいにうなずいて、ほんとにねえ~と言い合った。


 ハハハと男はまんざらでもないように笑って、では、どうぞと言って、車に乗るようにうながした。

「それじゃあ、遠慮なく。でも、家までは遠いですよ。いいんでしょうか?」

 モンジが言った。

「大丈夫ですよ。車の運転には自信があります」

 男がカルリに手を貸して言った。カルリはウィンクをしながら靴を脱いで車に乗り込んだ。その後、

「ありがとさん」

 フジエがそれに続く。

「クッションをお使いください」

 男がクッションを指さしていった。

「おお、ありがたい。ほんとに気の利くお兄さんだ」

 フジエもカルリに真似てウィンクした。

 ミウもムンキチもコタロウも乗った。あとはアメリだけだ。


「わたくしは助手席に乗せてもらいますわ。道案内が必要でしょ」

 アメリが助手席側のドアの前に立って言った。

「道案内ならオレが・・・・」

「いいえ! わたくしが案内いたします!」

 モンジの声を遮ってアメリが言った。

「そ、そうか。それじゃあ、よろしくたのむ」

 アメリは助手席のドアを開けて車に乗った。

 男は二人のやり取りを、にやにやして聞いていた。

「そういうことですので、よろしくお願いいたします」

 モンジが車に乗り込みながらいった。

「わかりました」

 バックドアが静かに閉められた。


 車が静かに走り出した。アメリと男の様子は、壁に隔たれているので見えないし、声も聞こえない。

 天井に小さな電気がつくようになっていたので、真っ暗ではなかった。

「いい人でよかったわね。イケメンだったし、紳士だったわ」

カルリが言った。

「この車最高じゃん。体を伸ばして眠られる」

 ムンキチが真ん中で大の字になった。


「だが、何者じゃろ。葬儀屋には見えんかったがな。どこかで、会ったことのあるような・・・」

 フジエがあめを袋から取り出していった。

「でも、まあ、よかった。助かったわけだし、送ってくれるっていうんだし」

 モンジがクッションに寄りかかっていった。


「でも、アメリったら、あんなに助手席に乗るって言いはって、ちょっと変だったわ」

 カルリの言葉にモンジが起き上がって、

「そうだよな。ちょっと変だった」

 と首をかしげた。 

「あの運転手に一目ぼれしたとか」

「恐ろしいこと言うね」

 モンジが腕を摩りながら言った。

「フハハハハ」

 フジエが笑った。


「でも、この車、来た道を戻って走っているのかしら。山道なのに行きみたいにぐねぐね曲がらないで真っ直ぐ進んでいるみたいに感じるし、ぜんぜん、揺れもしないわ」

 カルリが言った。

「きっと、運転がうまいんだ。運転が得意だって言っていたから」

 モンジがまたクッションにもたれようとした時、

「あっ、この小さな戸、開くようになっているよ」

 ムンキチがいった。見ると、車のボディの側面に小さな戸のようなものがある。

 戸は文庫本ぐらいの大きさで、小さなつまみのようなものがついていて、横にスライドできるようになっているらしい。

 ムンキチがつまみを持ってそっとスライドさせる。戸の向こうはガラス張りで、のぞき窓のような構造になっている。

「真っ暗だ」

 ムンキチが窓におでこを押し付けて言った。


「どれどれ」

 モンジがムンキチの肩を叩いてどかせた。

「本当だ。真っ暗だ。なんにも見えん」

「こっちにも窓があるよ。あそこにも」

 コタロウが反対側を指さして言った。

 カルリとフジエが戸をスライドさせ窓をのぞく。

「道が見えないわ。すごいスピードで走っているのよ。でも、ほら、月が見えるわ。星も」

 カルリが楽しそうに叫んだ。


「本当だ。すごい、空を飛んでいるみたいだ」

 ムンキチがおもしろがって言った。

「みたいじゃなくて、本当に飛んでいるよ」

 モンジが静か言う。

「あの、お兄さん、死神なのかもしれないぞ」

 フジエが恐そうにいった。

「えっ、死神・・・」

 コタロウとムンキチが声を揃えて言った。


「ちゃんと家に送り届けてくれるのかな? あの世に連れていくつもりなのかもしれないよ」

「きゃあ~」

 コタロウが叫んで、耳をふさいだ。

「怖い映画みたい。ドキドキするね」

 カルリが笑ったので、みんなも笑った。

「アタシ アノヨ ハ イヤ。イエ ニ カエリタイ カエレルノ?」

 ミウがいったが、誰の返事もなく静まりかえった。

 車は闇の中の道なき道をただ静かに走っていく。

「大丈夫、アメリが何とかしてくれる」

 モンジがひとりごとのように、小さな声でいった。

 誰も窓から目を離すことができなかった。




 

 


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