ドライブ
ある日の夜。家の前に一台の車が止まった。
ミウとカエルは、二階のモンジの部屋の窓から、それを見ていた。
エンジンが止まって、運転席から降りてきたのは、モンジだ。モンジは車体をぐるりと見てから家に入って、すぐにまた出て来た。今度はアメリと一緒だ。二人で車をみながら何か話している。
ミウはカエルを抱くと、二人にところにかけていった。
「ちゃんと走るの? この車」
アメリが腕を組んで言った。
「もちろんさ。走ってここまで帰ってきたんだから」
「でも、ずいぶんと古い車ね。サイドミラーがボンネットについている」
「レトロと言ってくれ。それがいいんだ」
モンジはサイドミラーをするりとなでた。そして、なでた手を見てはたいた。だいぶほこりがたまっている。
「汚れてる」
アメリがいやそうな顔をした。
「明日、朝一番に洗うよ。その後みんなでドライブしょう。廃墟の探検なんてどうだ?」
「廃墟の探検?」
アメリの顔がぱっと明るくなった。
「面白そうね」
モンジがにやりと笑った。
「決まりだな」
「本当にこの道で合っているの?」
運転席の後ろから、モンジの方を覗き込んで、アメリが聞いた。
「たぶん・・・」
モンジが自信なさそうに言う。ナビがついていないのはもちろんだが、携帯も圏外で使えない。
車に乗ってからもう、四時間も走っている。
途中、カルリを拾って、コンビニに寄り、食料などを買って、車の中で楽しく食べたのはよかった。しかし、二時間くらいで着くはずなのに、時間がかかり過ぎだ。
「ねえ、まだ廃墟に着かないの?」
久しぶりのドライブで、機嫌がよかったムンキチも、山道ばかりで退屈になってきたらしい。
はあ~っとカルリがため息をつく。
「すまんなあ」
モンジは小さな声で言って、ブツブツと何か独り言を言った。
車は、ほとんど車通りのない山道をひたすら走っている。
山の日暮れは早い。もう辺りは暗くなり始めている。
「同じ道をグルグル回っているみたいじゃ。たぬきにでも、ばかされているのかもしれないぞ」
フジエが、ペチャクチャと、あめをなめながら言った。
「ばかすのはいいけど、ばかされるのはいやよ」
アメリが真面目な顔で言ったので、フジエとコタロウは顔を見合わせて、こっそり笑った。
ミウは車に乗るのは、結構好きだと思った。流れていく外の景色を見るのが楽しいし、揺れるのが気持ちいい。気持ちがよくてさっきまで、ぐっすり眠っていたくらいだ。
「あっちの道かな」
モンジは横道に入った。けれど、その道はすぐに細くなって、行き止まりになってしまった。
「あ~あ」
ムンキチががっかりした声を出した。アメリもカルリも、あきれ顔で黙っている。
「大丈夫、バックで戻るから」
モンジがギアをバックに入れアクセルをふかした時、プスンと車のエンジンが止まった。
「あれ?」
モンジが慌ててキーを回す。けれど、エンジンはかからない。何度まわしてもだめだ。
「まいったなあ~」
頭をかきながらモンジはいった。
「ほんとにポンコツね。ただでもらった車だしねえ。お父さん」
「ううむ」
モンジは黙ってしまった。
「で、どうするの? この車もう、動かないんでしょう?」
カルリがきいた。
「そうだな。車はここに置いて帰ろう。歩いて広い道まで出たら、車が通るだろうから、そこでヒッチハイクしょう」
後ろを振り返ってモンジは楽しそうに言った。
「ヒッチハイク~。やった~」
ムンキチがうれしそうにさわぐ。
「この暗い道を歩いて行くの?」
コタロウが目を大きく開けて言った。
「そういうことだな」
「そんなの、怖いわ」
アメリが低い声で言った。笑うのをこらえているように、ほほがひくひくと動いた。
「ほんと、怖い」
カルリがアメリの腕にしがみついた。でも、顔は笑っている。
「それじゃあ、みんな、迷子にならないように、固まって行こう」
みんなそれぞれのドアを開けて車から出た。
冷たい風が吹いて、木々がざわざわと音をたてている。
「お化けが出そう~」
「怖い~」
コタロウとムンキチが、自分の顔に下から懐中電灯の光を当てて、気味が悪い顔をした。
「廃墟なんかより、よっぽど恐いわ~」
カルリがアメリの腕をにぎったままいった。
「ウフフフフ」
とフジエが笑う。
モンジに抱かれたミウは、カエルをしっかりとに抱きしめた。なんだかわくわくする。
ザクザクと砂利道を歩く、六人の足音だけが、夜の静寂の中に響いた。
真っ暗な中、懐中電灯の明かりだけが頼りだ。
誰も口をきかない。それぞれ、恐怖を楽しんでいるようだ。
しばらく歩くと、
「あ、明かりが見えてきた」
ムンキチが叫んだ。
「もう着いたの。早いわね」
アメリが残念そうに言う。
「お化け出て来なかった~」
コタロウが懐中電灯をグルグル回す。
「まだ、わからないわよ」
カルリがアメリの腕を離して言った。
また、みんな無言になって歩いた。




