カエルのぬいぐるみ
次の朝、モンジは元気に仕事に出かけた。
「おはようございます」
小さな丸いのが、待っていたように早速、ミウに挨拶をした。
「オハヨウ ゴザイマス」
ミウは声のする方へ振り向いた。けれど、小さな丸いのの姿はなかった。
「ドコニ イル?」
ミウがキョロキョロして言った。
「ここですよ。ああ、見えないんですね。部屋が明るすぎるんです。お日さまはぼくの体を見えなくするんです」
ミウがカーテンを閉めると、一瞬うっすらと小さな丸いのの姿が見えた。でも、すぐに見えなくなった。
ミウがまたキョロキョロしていると、
「やっぱり、見えませんか。仕方がないです。夜になって電気をつけなければ、はっきりみえますよ」
小さな丸いのの声がすぐ横から聞こえた。
その日の昼間は、ミウは見えない相手と、時々話をして過ごした。何をしているか、どこにいるかもわからない、見えない相手と話すのは結構難しい。
夜になりモンジが帰るまでの時間、暗くした部屋で、姿の見える小さな丸いのとおしゃべりして、過ごしたのは楽しかった。でも、暗い部屋で、おしゃべりばかりして、ずっと過ごすのはちょっと疲れる。
やっぱり、幽霊と一緒にいるのは、面倒くさいのかもとミウは思った。
次の日の朝、いつものようにモンジが仕事に出かけると、
「おはようございます」
小さな丸いのの声がした。
「オハヨウ ゴザイマス」
姿が見えないとわかっていても、一応は声がした方を見る。すると、棚に飾ってあった小さなカエルのぬいぐるみが、手を上げた。
「えっ」
見間違い? あのカエルああやって手を上げていたかしら。ミウはカエルに近づいてまじまじと見た。
その時、カエルが急にジャンプしてミウの顔に張り付いた。
「キャッ」
ぬいぐるみだけど、本物のカエルのように冷たい。
ミウはカエルを顔から引き離し、放り投げた。
カエルは、宙を舞ってスローモーションのように、ゆっくりとベッドの上に着地した。
三秒後、カエルはむっくりと起き上がった。
真っ青な体(お腹は白)に大きな頭。開いた口から赤い舌がだらりと出ている。長い手と足は細く、目はとろんとしている。お世辞にも、かわいいとは言えないカエルだ。ツルツルの布でできている小さなぬいぐるみで、何度か触ったこともある。
「ひどいです。放り投げるなんて」
小さな丸いものの声だ。
長い脚をベッドのふちから垂らして、ふてくされたようにカエルが言った。
「アンタ カエル ニ ナッタノ?」
ミウがクスクス笑った。
「はい。ぼく、丁度こんなカエルになりたかったんです」
カエルはベッドから飛び上がると、一回転して床に降りた。そして、ケロッ、ケロッと満足そうに喉を鳴らした。




