幽霊?
寒くて目が覚めた。少ししか眠っていないと思ったけれど、あたりはもう、暗くなっている。
モンジのベッドはもぬけの殻だ。
ミウはぶるっと体を震わせた。
それにしても、いやに寒い。窓が開いているのだろうか。
ミウは窓が開いているのか確かめた。ちゃんと閉まっている。おかしいな。
電気をつけようと、テーブルの上のリモコンに手をのばした時、なんだか近くに誰かいて、見られているような気がした。
ミウは後ろを振り返ったが、誰もいない。
ベッドの下の暗がりが、なにか変な感じがして、ミウは少し離れたところからしゃがんで見た。
真っ暗な中に二つ、光るものがある。あれはなんだろう。
えっ? 目? 目だ。見開かれた目玉がビー玉みたいに光っている。
(ギャッ)
ミウは叫んだつもりだった。でも、それは声にならなかった。立ち上がろうとしたけれど、体も固まったように動かない。
目玉はじっとミウを見つめている。ミウは目玉から目をそらすことができない。
その目玉を見ていると、まるで冷蔵庫に入っているみたいに、どんどん体が冷えてくる。
「声をだすな」
目玉が言った。男の低い声だった。
声を出すなといわれなくても声なんか出ない。ミウは少し動く首を縦にふった。
すると、ベッドの下から白いもやが煙のように出てきた。それはミウに襲いかかるように広がったかと思うと、シュッと小さな丸になった。ちょうど野球ボールくらいのおおきさだ。
「おい、お前」
小さくて丸いものが目を見開いたまま言った。ミウは寒さで体が震えた。
「怖いだろ。寒いだろ。おれはお前をこのまま凍えさすことだってできるんだぞ。お前はもう、おれにはむかうことはできない。だから、おれを追い出そうなんて考えない方がいい。それと、誰にもおれのこと言わないって約束しろ。そうしたら、お前を許してやる」
小さくて丸いのが、どすのきいた声で言った。
ミウはわかったというように、何度もうなずいた。このままだと、本当に凍えて死んでしまう。
小さな丸いのはうなずいて、見開いていた目を閉じた。すると、ミウの体は自由に動けるようになって、寒さもやわらいだ。
「フフフフフ」
小さな丸いのが笑って、
「怖かったでしょう。びっくりしたでしょう。ぼくの演技うまかったでしょう」
と、フワフワ飛びながら言った。
さっきの、どすのきいた男の声ではなく、かわいい子供の声だ。
「ウン、ビックリ シタ。サムカッタ。デモ アンタ ダレ?」
ミウは暗がりの中で言った。
「だれときかれても、ぼくもよくわかりません。たぶん、お母さんのお腹の中でお母さんと一緒に死んだんだと思います。ずっと昔のことでもう覚えていないんです」
小さな丸いのが恥ずかしそうに言った。
何この子、じゃあ 幽霊? 昨日のお墓にいたの? ミウは思った。
「モシカシテ オハカ カラ ツイテキタノ?」
「そうですよ。気が付きませんでしたか?」
「キガ ツキマセン デシタヨ」
ミウがいうと、小さな丸いのがハハハと笑った。
ミウもつられて笑う。
「でも、ぼくがここにいることは、さっき言ったように内緒にしてほしいんです。ぼくがここにいるのがわかると、きっとお墓に帰れといわれるでしょう。ぼくはここが気にいりました。だから、しばらくここにいたいのです」
小さな丸いのが懇願するような目でミウに言った。ミウの体が少し寒くなる。
おとなしそうだし、悪い子じゃなさそうだし、この子がいても問題なさそう。
「ワカッタ ダレニモ イワナイ。ココニ イテ イイヨ」
ミウがそう言うと、
「そう言ってくれると思っていました。ワーイ」
小さな丸いのは天井をぐるりと回った。
その時、ガチャリと部屋のドアが開き、電気がついて、モンジが入ってきた。
「話し声がしたが、ミウ、誰かと話していたのか」
モンジが部屋をぐるりと見て言った。
「ウウン、ダレトモ ハナシテ イナイ。ミウ ヒトリゴト」
ミウは慌てて言った。
モンジは、そうか、とだけ言って特に気にする様子はなく、ベッドにこしかけた。
「腹が減って、下で茶づけを食ってきた」
モンジはニッコリ笑うと、テレビをつけた。コマーシャルの明るい音楽が流れる。
ミウはそっと、天井の方を見た。
天井の隅で、ぼんやりと透けた小さな丸いのが、笑っていた。




