墓ピクニック 2
ドアが大きく開かれる。ドアの外は夜だった。
広い野原が目の前に広がって、草が風に揺れている。空には満月が浮かび、星もきらきら輝いている。
「ウワアー、ヒロイ。ココガ ピクニック?」
ミウが感激しながらきいた。
「そうだよ。ここでピクニックするんだ。ピクニックというのは、場所のことじゃないんだよ。外でみんなとごはんを食べたり、楽しく過ごすことをいうんだ」
モンジがほほえんだ。
野原を見回すと、人の姿が所々に見える。
フジエが知らない誰かと話している。
アメリとカルリも飲み物を手に持って、年配の男女と笑いながら話している。
ドアから外に出て、ミウがキョロキョロしていると、
「モンジ~!」
と、女の人の甲高い声がして、モンジに女の人が抱きついた。赤いドレスを着た、ちゃいろい巻き毛の若いきれいな女の人だ。
「会いたかった~。遅いから待ちくたびれたわ~」
女の人がモンジの頬を両手包んだ。
「おれも~、会いたかった~」
モンジが女の人を抱きしめる。
でも、なんだか変な感じだ。女の人の身体が半透明のように見える。それに、地面から少し浮いているようにも。モンジが女の人を抱く手もなんだかぎこちない。
ミウは自分の目が変になったのかと思って目をしばたいた。
「行きましょ」
二人を見つめるミウに、マトマが言った。
マトマが台車を押して歩きだしたので、ミウもそれについて歩き出した。
ミウは振り返って、もう一度二人を見た。やっぱりなんだかおかしい。
「アレ、 ダレ?」
ミウがマトマにきいた。マトマは答えず、むっとした顔をして首を横に振った。
アハハハハと、コタロウの笑い声がする。見ると、コタロウが笑いながら走っていて、その後ろから小さな犬が走って追いかけている。
あれっとミウは思った。あの犬、地面から浮いている。
その向こうにムンキチがいた。ムンキチは空に向かって手をふっている。
ミウが見上げると、何かがグルグルと宙をまわっていた。目をこらして見ると人だ。子供らしき男の子が三人空を飛んでいる。
ミウがあっけにとられていると、あっちにも、いつの間にか、おばあさんたちがいる。こっちにはおじいさんたち。
どこから沸いて出てきたのか、気がつけばいろんな人たちがたくさんいる。みんな、ふわり、ふわりと浮いている。
何? この人たちは! マトマにきこうと横を見ると、マトマは先に行ってしまっていた。
一人のおばあさんがミウに近づいてきた。今さっき、フジエと話していたおばあさんだ。
「お前さんが、ミウか?」
おばあさんが目を細めていった。やせていて温かそうな黒いスカートをはいて、ワイン色のショールを肩にかけている。
ミウがうなずくと、おばあさんはニタッと笑った。そして、首をねじり、頭を回転させ白目をむいて舌を出した。
「ギャアーッ!」
ミウは、その世にも恐ろしい姿を見て、大声で叫び、気を失ってその場に倒れた。
しばらくしてから、ミウは体を揺さぶられて目を覚ました。
目の前にフジエの顔があった。
「おお、気がついた」
フジエがほっとしたように言った。
ミウは飛び起きると、フジエの腕にしがみついた。
「コワイ ノ イタ。エイガ ノ エクソシスト ト オナジ。クビ マワッタ。シロメ ムイテ シタ ヲ ベロン ト ダシタ」
震えながらミウが言った。映画よりももっと怖い、とミウは思った。
「ええっ! 怖いのいたって? わしのことか?」
ミウの顔を覗き込んで言ったのは、さっきの恐いおばあさんだ。
「キャー」
ミウはまた叫んで、フジエの胸に飛び込んだ。
「おいおい、もうやめてくれ。怖くてミウが死んじまうよ。まだ、姉さんたちの仲間になるには早すぎるよ」
フジエが笑いながら言った。
「ウフフフ、まあね。かわいいからちょっとからかっただけさ」
おばあさんは悪びれる素振りもなく、体を揺らしておどけた後、ふわりとよそに飛んで行った。
「ほれ、ミウ。怖いのはもういなくなったぞ。本当にもう、仕方のないばあさんじゃ」
フジエに言われて、ミウは恐る恐る、顔を上げた。
「ナニ? アノ コワイ オバアサン。フジエ ノ オネエサン ナノ?」
ミウは辺りを見回しながら言った。
「そうじゃ。あのおばあさんは、わしの姉さんじゃ。五年前に死んだがな」
ニヤッっと笑ってフジエが言った。
「シンダッテ ホントウ? ジャア アノオバアサン ユウレイ?」
フジエはうんうんとうなずいた。
そうだろうなあ。だって、普通の人間の首はあんな風に回らないし、空を飛ぶこともできない。
「みんな、幽霊じゃ。あの人も、あの人も」
指をさしてフジエが言った。
「わしの姉さんや親戚、友達の友達とか。ほれ、アメリと話しているのは、アメリとカルリの両親じゃ。モンジと一緒にいるのはモンジの昔の恋人じゃ」
「ジャア アノ イヌ モ ユウレイ?」
ミウはコタロウを追いかけて走っている犬を指さして言った。
「そう、あの犬も幽霊じゃ。コタロウがかわいがっていた野良犬じゃ」
「ドウシテ ココニハ ユウレイ ガ イッパイ イルノ?」
ミウを地面に降ろし、立ち上がったフジエにミウがたずねた。
「ここは墓なんじゃ」
フジエは、伸ばした腰をポンポンと叩いた。
「オハカ?」
ミウは辺りをみまわした。墓石らしきものはどこにもない。
「デモ ハカイシ ナイ」
ミウが見た恐い映画に出てくるお墓は、どれも墓石があった。
「墓石か。そんなもんはなくていいんじゃ。ここは全部が墓なんじゃ。死んで焼いた骨は砕いて粉にして、その辺にまくんじゃ。花さかじいさん、知っているだろう? あんな風に骨をまくだけじゃから」
ミウはお墓のことは、よくわからなかった。でも、ここがお墓だということはわかった。幽霊はお墓によくでるものだから。
「早く行こう。ごちそうがなくなる」
フジエが歩きだした。
空をスイスイ飛んでいる、フジエの姉さんが手をふっている。
「猫のお化けだ~」
いたずら好きそうな男の子が、ミウを指さして言った。
お化けはあんたでしょ。ミウは思った。
ミウはもう、幽霊なんてちっとも怖くなくなった。




