【ホラー】海沿いの小学校の七不思議「廊下の水たまり」
「夏のホラー2025」参加作品です。テーマは「水」。
オリジナルのホラー小説です。
【登場人物】
私 :語り手。
A :霊感があるといわれている友人。
廊下の水たまり:学校の七不思議に一つ。学校の廊下に恍惚と姿を現す水たまりで、その正体は化け物だと言われていた。
私の通っていた海辺の小学校の七不思議に、「廊下の水たまり」というのがあった。
学校の廊下に恍惚と姿を現す水たまりの話なのだが、その正体は化け物で、うっかり水たまりに触れると食べられてしまうと言われていた。
廊下に水たまりがあれば、確かに不自然に感じるが、それがどうして化け物なのか、その辺りは謎である。
その話をした後に、私がトイレへ行って戻ってくると、教室の前の廊下に水たまりができていた。
大きな歩幅で跨がないと避けられないくらいの、それなりの大きい水たまりだ。
あまりのタイミングの良さに、これは友人たちが私をからかっているのだと思った。
それも面白いかもしれないと、私は右足の上靴の先を水たまりに入れた。水は上靴の底を濡らす程しかなく、床の感触が伝わる。
そのまま一、二秒待ってみるが何も起こらなかった。
(なあんだ。)
私は拍子抜けした。水に触れた途端にワーッと誰かが驚かしにくるのだと思っていたのだ。
しかし周りを見ても誰もいなかった。
だとしたら、この水たまりは本当に誰かが水を零しただけなのだろう。
私は上靴に付いた水を足を振って散らすと教室へ戻った。
そして異変に気が付いた。
誰もいない。
さっきまでみんなが居た教室には誰の姿も無かった。授業もまだ残っているし、ランドセルやカバン、教科書やノートはそのままなのに……。
廊下に出てみるが、誰もいない。
隣の教室を覗いてみたが、誰もいない。
他の学年の教室にも、音楽室や理科室などの特別教室にも、職員室にも、体育館にも、グラウンドにも、プールにも、生徒や先生がいない。
いつの間にか、学校中の人間が消えていた。
その時になって、とても静かな事に気が付いた。風の音も鳥の声もしないのだ。
何が起こったのか分からず、パニックになった私は学校を飛び出した。
そして住宅地や商店街へ向かったが、そこにも誰もいなかった。
店は開いていて商品も並んでいるのに、店員も客もいない。
道を歩いている人はおらず、道路には走っている車は無い。止まっている車にも誰も乗っていない。
自分の家にも行った。鍵は開いていたが、いつもなら出迎えてくれるはずの母親がいない。飼い犬のコタローもいない。
見慣れた風景なのに人がいない。それどころか動くものがない。
(自分一人だけ?)
そう思うと腹の底が冷たくなり、心が何かに押しつぶされそうになった。
(……廊下の水たまりを探そう。)
その時、どうしてそう思ったのか分からない。とにかく私は学校へ戻った。
しかし先程の水たまりは影も形も無くなっていた。
私は学校中を探し回ったが、水たまりは見つからず、三度目の探索後、遂に緊張の糸が切れた。
力が抜けて、手足を動かす気も起きず、教室の窓からボーっと誰もいない世界を見つめる事しかできなくなった。
その時、ふとあるものに目が止まった。海だ。
そして閃いた。
自分で水たまりを作れば良いのだ。
私は掃除に使うバケツを持って来て、手洗い場で水を汲み、最初の水たまりのあった場所に水を流して水たまりを作った。
そして上靴の底が全て水たまりに触れるようにバシャッと垂直に右足を下した。
途端にガヤガヤと音が聞こえた。
周りを見ると数人の生徒が廊下を歩いている。焦って教室に向かう子もいる。
私は自分の教室へ入った。
みんながいた。まだ次の授業は始まっていない。あそこにいた間、時間は進んでいなかったようだ。
いつの間にか呼吸をするのを忘れていた私は、そこでやっと息を吐く事ができた。
落ち着いてから、先程の誰もいない世界の話をしたのだが、案の定、誰も信じてはくれなかった。みんなをからかう為に私が作った作り話だと思われたのだ。
しかし、ただ一人、霊感があると言われていたAだけは信じてくれた。
とても嬉しかったのだが、その後のAの一言で、私が実はかなり危険な状態だった事に気付かされたのだった。
「化け物に見つかる前に戻って来れて良かったね。」
水たまりの化け物は本当にいるらしい。出会わなくて良かったと心の底から思った。
これが私が唯一、自分で体験した七不思議である。
おしまい。
お読み頂きありがとうございます!
考える時間が短くて、説明不足の部分もあるかと思いますが、最後のAの言葉に「おいおい」と思って頂けましたら幸いです。