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テンプレ異世界から無事に帰れた後、美人で可愛い魔王を拾ったので一緒に住んでみた  作者: 春樹凜


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32.遊園地での遭遇①


 絶叫を謳う回転ブランコなだけあって、フリーフォール並みに高い場所まで持ち上げられた後、その場で回転するこのアトラクションは、普通のそれよりも断然恐怖度は高かった。

 反対側の席に座っていた図体のデカい男なんて、終わってからも恐怖で体が動かないのか、その場に固まってるのが降りる時にちらっと見えたくらいだ。


 しかしこのくらいはなんてことない。

 俺は別に高所恐怖症でもないし。


 んでマオは完全復活しているためか、顔色はいつも以上に興奮で赤く染まり、胸の前で手を握って嬉しそうに俺達三人に話しかけていた。


「あれはすごいな! うむ、本当にすごかったのだ! それにあの回転スピードもなかなかの威力であった」

「普通のブランコの約二倍ほどの速さで回っているそうですよ」

「なんか立てなくなってた男の人がいたよ」

「夏樹も見たか」

「うん。彼女さんっぽい人が隣にいて、係員の人と一緒に外に向かってたね」


 いつまでもそこに座られてちゃ、次のお客さん入れられないもんな。


「さて、次はいよいよお化け屋敷だな!」


 お化け屋敷といえば問答無用で絶叫する類のもんだってイメージがあるが、それにわざわざ『絶叫』ってのを付けるくらいだ。

 マジもんで怖いんだろうな。

 一応ネットとかで前評判も見てみたが、普通のお化け屋敷よりはかなり怖いとのことだった。


 『大絶叫お化け屋敷~悪魔の住まう城~』は、本当に城みたいな建物で、かなりの大きさがある。

 

 所要時間は約一時間ほどで、まずそのボリュームがすごい。

 

 ストーリーは、友人が悪魔に攫われ、その悪魔の住む城に連れ去られたので、助けるために城に侵入する、というもの。

 悪魔は攫った人間を使って様々な実験をしており、失敗作はゾンビや骨の状態でその辺に放置され、そいつらが襲い掛かってくる。

 他にも奥に進むと、実験の成功個体である醜悪な見た目の悪魔にそっくりな奴らが大量に湧き出しており、侵入者を殲滅するために執拗に追いかけ回してくる。

 そして最後は本ボスである悪魔の元に辿り着くと。

 

「ではそのボスを倒せばいいのだな!」

「あー、だめだめ倒したら。あと、襲ってくる奴は決まりで俺たちの体には絶対に触ってこないから。だからびっくりして攻撃したりするなよ? 中身は演じている普通の人間なんだから」

「そうなのか。分かったぞ」


 マオが驚いて魔法でもぶっ放そうもんなら、大変なことになる。

 釘を刺しておいたが、言っておいて正解だったようだ。


「今なら待ち時間なしで入れまーす」


 入り口に着くと、係員のお兄さんがそう言って呼び込みをしているところだった。


 そのまま俺たちはお兄さんから軽く説明を受け、懐中電灯を一本渡され、中に入ることになった。


 当然中は真っ暗で、少し肌寒い。

 夏にはまだ早い季節だってのに、冷房がガンガンにきいているようだ。

 壁には人体模型や骨の標本が飾られていたり、上から血のようなものが滴り落ちてくる場所があったりと、受けた印象はなかなか本格的な造りをしてるな、というものだった。


 俺たちの前に入った人であろう叫び声もうっすら聞こえてきている。

 のだが。


「追いかけてくるゾンビ役の人、まるで本物のような動きですね」

「うん。見た目も本当にそれっぽいし、すごいよね」


 基本的にどんな時もあまり動じず、動じたとしても表情にも動きにもそこまで出ない千草さんと、大体がいつもマイペースな夏樹は、ここがお化け屋敷だってのに、お化け役が脅かそうと迫ってきてもまったく驚くことも恐怖で声を上げることもなく、平然としている。


 俺もまたこういう系は平気な性質で、そういえば前に友達と入った時は、怖がらない俺を無理やり先頭にして進まされた。

 そして後ろでビビって声を上げたり、怖すぎて出口まで目を開けないと宣言した連中を、外まで連れて行った。

 目瞑ったらお化け屋敷の醍醐味まったくないじゃんと思ったのは覚えている。


 そしてマオの方はというと。


「……晃、我はまたまた失念しておったのだが」


 そう悲しげな声音で言ったあと、前を歩く夏樹たちに聞こえないよう、俺にだけ聞こえるような小さな声で呟いた。


「我は夜目が利くのだ。だから襲い掛かろうと迫りくる敵がな、丸見えなのだ」

「あぁ—、それはなんというか」


 お化け屋敷ってのは、暗闇から突然出てくることで驚かす、ってのが主な手法だと俺は思っている。

 それなのにマオの目からは、その突然がないと。

 そりゃあ怖くもなんともないよな。

 

 そういうわけで、この四人組とお化け屋敷との相性はある意味最悪で。


 所要時間一時間のはずが、特に山場もないまま順調すぎるくらいにサクサク進んでしまったため、半分の三十分で攻略を終えてしまった。

 なんというか、少し寒い中を四人で散歩しました、くらいのノリである。

 

 出口で懐中電灯を返却し、外に出ると、暗いところから一気に明るい場所に出たため、眩しくて思わず目を細める。


「マオさん、行きたがっていたお化け屋敷はどうでしたか?」


 千草さんがマオにそう聞くと、マオは曖昧に笑って返す。


「うむ、そうだな。我はこういったものに対して、恐怖心を抱かなかいタイプだったようでな。だが、建物内の細かい作りは良かったと思うのだ。……それよりも、我らの後から入ったらしき人間の叫び声の方が、ちょっと驚いたのだ」

「それな」


 俺もマオに同意するように頷く。


 明らかに男のものだと分かる野太い声の、地響きがするくらいの大絶叫が聞こえてきて、このお化け屋敷の中ではそれに一番驚いた。


「怖いなら途中のリタイアから出ればよかったのにね」

「俺たちが出口を出てからも声が聞こえてたもんな」


 途中で出たら負けだと思うタイプだったんだろうか。

 そういう奴っているからな。


 それから二個ほどあまり並んでいないアトラクションに乗ったところで、


「少し早いけどお昼にしない? ピークの時間だとすごく混みそうだし」


 という夏樹の提案を受け、遊園地内の中央部分にあるレストランに向かうことにした。

 

 その途中、あのお化け屋敷の前を通ったところで、出口の辺りから聞き覚えのある大絶叫が聞こえてきた。

 

「あれ、まだあの人中にいたんだ。結構頑張っていたんだね」

「時間的に考えて一時間以上はあそこに留まってたってことだよな。苦手っぽいのに、なかなかやるじゃん」

「あそこまで怖がれるのは少し羨ましいですね」

「我もあのくらい大絶叫したかったものだ」


 四人が各々感想を述べながら声の方を見ていると、かなりの巨体の持ち主が、お化け屋敷内と同じ音量の叫び声を出したまま出口から飛び出してきた。


 百九十センチはあろうかという巨体で、はち切れんばかりの鍛え上げられた肉体をシャツがぴちっと包んでいる。

 短めの髪はツンツンとさせており、顔はなかなかに整ってる────って、待て、あれってもしかして。


「高島!?」

「ぐわぁぁぁぁっ────あれ、き、霧島? あ、そ、それに五代も、で、その横って千草さん……?」


 半分涙目の巨体は、俺と夏樹の会社の同期の高島だった。

 高島は俺たちをつぶらな瞳をしぱしぱさせながら、首を傾げる。


「なんでお前らがここに?」

「いやそれこっちの台詞だから。お前こそなんでここにいんだよ。ってか俺たちもさっきここに入ってたんだけど、ずっと叫んでたのってお前だったんだな」


 そういえば高島はホラー系が苦手だったな。

 なのにどうしてわざわざ苦手エリアに足を突っ込むんだって思ってたら、高島の後ろからもう一人、非常に見覚えのある女性が出てきた。


「あら、霧島君たちじゃない。こんなところで会うなんて奇遇ね」


 瞬間、俺と春樹は高島の左右から、こいつの体をがっと掴んで道の脇の方へ引きずっていき、二人同時に同じ質問をぶつける。


「どうしてお前が伊吹課長と一緒にいるんだよ!?」

「どうして君が伊吹課長と一緒にいるの!?」


 すると高島は、さっきまで恐怖で歪んでいた顔をでろっと溶かし、デカい体をもじもじさせながら答えた。


「実はさ、先週から付き合ってるんだよな。薫子さんと」


 ……まあ、二人が一緒にいた時点で予想はしていたが。

 伊吹課長に高島をオススメしたのは他ならぬ俺だし。

 そして遊園地に男女が二人で来ている理由なんて、八割がたデートだろうし。


 しかし、マジで伊吹課長は高島にいったのか。

 聞けば誘ってきたのは伊吹課長からだと。


「俺年下のお姉さんに弱いからさ」

「おう、知ってる」


 それも俺が伊吹課長に伝えた。


「ねえ、もしかしてお化け屋敷の前に回転ブランコにも行っていなかった? そこでアトラクションが終わった後も立ち上がれずに、係員の人に外に運ばれていたのって、あれも高島だったりするの?」

「それも見られてたのか。……そうなんだよ、情けない話なんだが、俺絶叫系とか怖いものとか苦手で。でも薫子さんは好きだっていうから頑張ってみたんだけど、やっぱ駄目だわ」


 あのお化け屋敷をリタイヤしなかったのは、彼女に合わせたからというのが理由らしい。


「どうしよう、こんなに情けない姿ばっか見せてたから、俺振られるかな」


 可愛そうなほどに巨体を丸めてへこみまくる高島だが、何気に伊吹課長の方を見ると、彼女と話をしていた千草さんがこっちの会話を察したのか、問題ないとばかりに指で小さく丸を作った。


 そして伊吹課長はというと、蕩けるような笑顔で……いや違うなあれは。

 ビビりまくり、そして今弱っている高島を見つめて、思いっきりハートマークを飛ばしながら恍惚とした笑みを浮かべていた。


 で、俺は昔に課長の好きなタイプについて追加で聞いたことがあったことを思い出す。


「ふふふっ、私ね、ものすごく強そうで大きな体の人が、ノミの心臓だったり、怖がりだったりすると、その姿にすごく萌えてキュンキュンするの。でね、それを眺めるのが好きなの」


 あの時の伊吹課長の笑顔はヤバかった。

 そしてそういう意味でも高島は彼女の好みに合致する、ドストライクな男性だったってことだ。


 だから俺は高島を安心させるべく言った。


「大丈夫。ありのままのお前を、伊吹課長は受け止めてくれてるっぽいから。むしろお前はそのままでいろ」

 

 多分二人はお似合いだ。

 いっつも付き合ってから結婚するまでが早い伊吹課長のことだ。

 このままいけば二人がゴールインする可能性は高い。


 前の二回は相手も初婚じゃなかったから式も何もしなかったらしいが、高島はそうじゃない。

 なら、ご祝儀の用意はしといたほうがいいかもなと密かに思う俺だった。


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