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テンプレ異世界から無事に帰れた後、美人で可愛い魔王を拾ったので一緒に住んでみた  作者: 春樹凜


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27.ダブルデートの行き先


「来週の土曜がいいと思うんだよね」

「いきなりなんの話だ」


 夏樹と組み、難攻不落とも言われた企業との契約を勝ち取った帰り。

 電車で会社に戻る途中、隣に座る夏樹が、何の脈略もなくそんなことを言ってきた。


「あー、天気はいいみたいだから、釣りにはもってこいなんじゃないか? 今度こそ大物釣ってこいよな」


 晃のため、週間の天気予報をネットで調べてやった俺に、夏樹は違うよと首を横に振る。


「ちょっと晃忘れたの? 前に言ったじゃん。今度一緒にダブルデートしようって」


 ……言ってたな、そういやぁ。

 例の山本里香の襲撃や、その他諸々ですっかり忘れていた。


「晃の元カノをマオ・ハーフェリさんが撃退したって聞いて、僕もゆかりちゃんもますます彼女に興味を持っちゃったよ。だから一刻も早く会いたい。会わせて。ということで土曜ね」

「せめてこっちの予定を聞いてくれ」


 どうせ予定はないでしょうと言わんばかりの夏樹の強引さに抵抗しようと声を上げるが、しかし夏樹の想像通り予定はない。


「海外から来たなら、日本っぽいところがいいかな」

「マオのことだから、多分どこでも喜ぶ」


 おそらく行ったことのないスーパーとかでも、目を輝かせてはしゃいでいる姿が目に浮かぶ。


 まあ四人で遊びに行くのにスーパーは無しだが、マオの行ってみたいところでと、行き先はこっちに丸投げされた。


 なのでその日帰った俺は、マオの作ったシーフードのカレーを腹の中に入れながら希望を聞いてみた。


「────ってことなんだが、どこに行きたいとかあるか? あとこのカレー、前回のよりもさらに旨くなってる気がするんだが」

「カレーはだな、色々と隠し味なるものを入れてみたのだ。ルーだけではコクと深みが足りんかった気がしたのでな」


 マオの料理スキルは日々、確実に上がっている。

 キッチンもマオ仕様になっており、調味料も充実している。

 当然勝手に買ってくるなんてことはなく、特に少し値の張りそうなものは事前に確認されるほどだ。


「それで、ダブルデートなるものの行き先だな。……本当に我が決めても良いのか?」

「いいだろうよ。それこそマオがこの間千草さんの話に喰いついていたように、釣りがしたいってんならそれでも問題ないと思うぞ。もしくはあんまり思い付かないってならネットで興味持てそうなところを調べてみても」


 だが、マオの中で行きたい場所は決まっていたらしい。


「では晃。我は遊園地なるものへ赴きたいぞ。この間ネットのアニメで、デートとやらで主人公が行っていたのを見てな。非常に面白そうだと興味を持ったのだ」


 それからマオはどこがいいのか実際に調べたようで、マオの開いたスマホの画面には、ここから車で一時間ほど走らせたところにある遊園地のサイトが開かれていた。

 

 俺が子供の頃にはなかったところで、絶叫系から小さな子供向けまでかなり幅広いジャンルの物が取り揃えられているようだ。


「我はこの、『絶叫コースター』なるものと、『大絶叫お化け屋敷~悪魔の住まう城~』や『絶叫回転ブランコ』なるものを体験したいと思っておる」

「全部絶叫系だな。まあ、いいけど」


 ジェットコースターは嫌いじゃない。

 お化け屋敷は、高校の頃友人たちと入ったが、特に怖いとかはなんも思わなかったな。

 

 あと、あっちの世界に三カ月いて、血まみれの死体やら生首やらを散々とこの目で見てきたので、作り物で今更恐怖を感じることはない気がする。


「ならとりあえずそこに決まりってことで、夏樹には連絡しておくわ」


 メッセージを送るとすぐに返信が来る。


『まさかの絶叫系!?』

『もしかしてお前苦手だったか?』

『ううん、僕もゆかりちゃんも大好きだよ』

『ならそこで。行くなら車だな。夏樹は持ってなかったよな? 俺の出すわ』

『それはありがたいけど、晃は大丈夫? 代わりに僕が運転してもいいけど』


 俺があまり車を運転したがらないことを、夏樹は知っている。

 だが、最近はマオの日用品を買い揃えたりやらなんやらで、週末のどっちかは必ず使っている。

 運転の直前はやはり緊張するが少しは慣れたし、片道一時間くらいは平気だ。


『気遣いあんがと。でも大丈夫だわ。朝九時に夏樹んちに車回せばいいか?』

『うん、それで大丈夫だよ。ありがとう。お昼ご飯とか向こうでの食費はこっちでもつね』

『了。あの遊園地で一番高いやつな』


 そして最後にその文面とスタンプを送り付け、夏樹とのやり取りを終える。


 しかしマオと暮らし始めてから早二カ月。

 彼女と休日に外出するといったら、あのショッピングモールやスーパーなど、日用品や食べ物の買い物が多かった。


 おかげである程度物は揃ったが、マオを連れてそれ以外のところに遊びに行ったことは、実は一度もない。


 先週も先々週も、休日出勤の指令を受けて会社に行ってたし、ここ一週間は残業も多かったから、何もない休日でも睡眠不足でずっと眠い上、体がきつくて動けなかった。


 なので実質、夏樹と千草さんというおまけがいるとはいえ、次の土曜日が俺とマオの初めての買い物以外の外出ということになる。


 ダブルデートという名前だが、俺とマオは付き合っていないし、厳密にはデートではない。

 それでもマオとどこかへ遊びに行く、というのが、俺をどこかそわそわした気持ちにさせる。


「晃! ここの店で売っているチュロスなるものを食べてみたいぞ!」


 イチゴのチョコのかかったチュロスの画像を見せながら、マオが興奮した面持ちで喋る。

 

 相変わらずこっちの世界の食べ物に目がない。

 味も種類もその数があっちと比べたら桁違いだから、無理もないかもしれんが。


 いつものようにはしゃいだ声を上げるマオを見ていると、これまでと同様、可愛いと思える。

 

 だが最近は────具体的にはあの女の襲来以降、その感情に少しだけ変化が起きているのを自分で感じる。

 

 前までは簡単に出せていた言葉なのに、それをさらりと口に出すことができない。


 あんなのは多分何も考えず、他意がなかったから言えたことであって、つまり今の俺にはその他意をマオに対して持ちかけていると。

 しかしそれを本人に伝える気はないし、言ったところでマオが俺に対して恩人以外の感情がないのは理解している。


 なら何も気付かないふりをして、今のままでいる方がいい。


 一緒に他愛もない会話をして、飯を食って酒を飲んで、それだけでいい。


「晃、聞いておったか?」


 俺に反応がなかったからか、マオが?という疑問符を頭に浮かべてこちらの顔を覗き込む。


 マオの赤い瞳の中に俺の顔が映りこんでいる。

 大丈夫だ、見えた俺の顔は、いつもの俺だ。


 俺はへらっと笑うと、


「ああ、聞いてた聞いてた。チュロスな。いいんじゃないか? 好きなのを食べればいいと思う。どうせ夏樹のおごりだ。車出す礼に、向こうでの飲食代は出すってよ」


 それでもマオは俺がおかしいとでも思ったのか、ほんの一瞬だけ探るような視線を向けたが、俺の笑顔に合わせるように笑みを浮かべる。


それから俺とマオは何事もなかったかのように会話を続けた。


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