2.望まない異世界召喚②
「アキラ様、こんなことにあなたを巻き込んでしまってごめんなさい」
「まったくその通りだ。本当にそう思うんなら、ちゃっちゃと敵を倒してくれ。俺は一刻も早く元の世界に戻りたいんだ」
城内に乗り込む直前、どでかい豚の化物みたいな門番を倒した王女にそう言って頭を下げられた俺は、正直に今の気持ちを告げる。
すると例の格闘家が間髪入れず突っかかってきた。
「貴様! 王女殿下が謝罪しているというのに、その態度はなんだ!」
「いいのですよ。アキラ様が怒るのも無理はないのです。だって私達の都合でこの世界にアキラ様を召還してしまったのですから」
手で格闘家を留めた王女様は、この世界においてまともなお方そうには見える。
にしても、異世界転移して可愛い子と一緒に旅をしながら彼女達との仲を深めたい! という願望を持つ人間が聖人になれたらよかったのに。
格闘家は邪魔かもしれんが、王女も魔法使いも顔は整っている。
そして中でも、王女は多少なりともこちらに好意を持っているようには見える。
「もしもアキラ様さえ良ければ、この世界に留まって、私と一緒に生きてはくれませんか」
だって顔を赤らめながらそんなことを今、この場で言ってくるくらいだ。
だけど俺はそんなの絶対にごめんだ。
なぜならこの世界は、現代日本での生活が骨身に染みている身としてはあまりにも不便すぎる。
お風呂は毎日入れんし、食事もいまいち。
スマホは当然ないし、そもそも電気がないから夜は真っ暗で寝るしかすることはなく、もう何もかもが、全部物足りない。
あと王女の顔が、個人的な話で大変申し訳ないんだが、昔俺の家に浮気相手を連れ込んでいた元カノに顔がとても似ているから、マジで勘弁してほしい。
しかし死ぬかもしれない世界に勝手に召喚しておいて告白してくるとか意味が分からない。
それに、俺は親しくない奴に下の名前で呼ばれるのは嫌だから、名字のキリシマの方で呼んでくれって何度も言ったが、この王女まったく聞く耳を持たなかった。
……うん、やっぱりこの王女もまともじゃないな。
もっと言えば俺の容姿はよく見積もっても中の中だ。
見た目で言えば、格闘家の方が圧倒的にイケメンの部類に入るのに、なんで俺に惚れる。
王女に対して優しくした覚えもない。
あまりにも平凡すぎる見た目や、これまで持て囃されてきた立場なのに塩対応をされたことで逆に王女にはそれらが新鮮に映ったのか。
それか、この世界でせっかく授かった俺の治癒の力を有効に活用したい、とかかな。
だから、俺程度なんて惚れてる素振りを見せてりゃ自然と落ちるだろうと思っているとか。
悲しいかな、正直これが一番ありえる。
だって俺は知っている。
この世界の人間の上層部はみんなクソだってことを。
こっちの人間のことをいまいち信用しきれなかった俺は、自分でも密かに色々調べていた。
そうして分かったのは、先に喧嘩を売ったのは人間の方だったということだ。
穴が現われ、向こうで死んでも魂が戻って再生できることを知っていた連中はすぐさま軍を投入し、魔界へと攻め入った。
が、魔族は人間が思っている以上に強く、あっという間に万単位でいた軍は壊滅状態に追いやられ、逆に報復としてあちらから攻め込まれてきた。
それで、このままではまずいと思った人間側が、慌てて召喚術を使って俺を呼び寄せたのだ。
真実を知った時は胸糞が悪くなったし、こんな人間達の尻拭いの為に力を使うことを忌々しくも思ったが、魔族たちに攻撃されている一般の人達に罪はない。
それに俺は元の世界で結構毎日楽しく過ごしていたのだ。
天涯孤独の身だし、元カノ以来付き合ってる人もいないが、仕事は忙しすぎるが順調でやりがいもある。
だからこんな旅とっとと終わらせて、一刻も早く帰りたい。
たとえこっちの世界で、俺が価値のある人間だと周囲に認められ、求められているとしてもだ。
そういう諸々の事情の理由から、彼女の言葉を受け取ってこっちの世界に留まることは、万に一つもあり得ない。
なもんだから、俺は王女の言葉を、
「折角のお誘いだけどごめんなさいマジで無理」
と一刀両断し、悲し気に眉を下げる王女や俺の態度に怒り狂う格闘家、我関せずを装う魔法使いを気にすることなく、さっさとどでかい魔王城を攻略してもらおうと門を開く。
そうして最後の戦いが始まった。