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テンプレ異世界から無事に帰れた後、美人で可愛い魔王を拾ったので一緒に住んでみた  作者: 春樹凜


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12.●魔王は留守番中


 家主が去り、一人部屋に残された魔王は、テーブルに残されたおにぎりの美味しさに昨日と同じく感動しつつ、しばらくはテレビという物に釘付けになっていた。


 そしてひとしきり堪能した後、改めて自分の置かれた状況を整理してみる。


 現在彼女は元聖人である人間の元で居候する流れになっている。

 彼は自分のせいだからと言っていたが、かと言ってただ好意に甘えるわけにもいかない。

 しかし体を使った大人のお返しの仕方は好まないようだった。

 

 魔王をぐるりと部屋の中を見渡す。


 自身の見知らぬ謎の機械や物がたくさんあり、大いに好奇心をそそられるが、やはり最も気になることと言ったら部屋の汚さだろう。


「ふむ、やはり掃除くらいはしておくほうが良かろう」


 だが、家主の断りもなく勝手に部屋の物に触れるのはいかがなのだろうと思うが、その時リビングの戸棚のようなところから、すさまじい音がした。

 

 勝手に開けるのはどうだろう、いやしかしすごい音がしたので確認くらいは……と魔王が近付いた途端、まだ扉に手を触れていないのに勝手に開き、雪崩のように中の物が魔王に向かって溢れ出した。


「むっ!?」


 何か柔らかい布のような物が顔に当たり、手でそれを取ると、真っ赤な短いズボンのようなものだった。


 しかしそれがなんなのか直感で思い当たった魔王は、少しだけ顔を赤らめる。


「あやつ、みかけによらずなかなかに派手な色の下着を身に着けておるのだな」


 おそらくは洗濯済みのようで、そんな下着や服が棚の前に大量に落ちて積み上がっている。


 開いた扉の中を覗くと、いくつかの冊子のようなものを発見する。

 取り出すと、表紙にはあの冷蔵庫やテレビの説明書と書かれていた。

 

 他にも色んな家電の説明書があり、軽く全てに目を通し使い方を理解した魔王は決めた。


 よし、やはり掃除をしようと。


 勝手に何かを捨てることはできないが、まとめておくことくらいはできそうだ。

 服も綺麗に畳んで端に寄せよう。

 その他鞄などの床にとっちらかされていた物達も物毎に分けて隅に移動させ、ゴミらしきものは袋にまとめていく。


 そうして整理をしつつ、本来の床の大部分が見えてきたところで、棚にしまい込まれていた掃除機というものを取り出す。


 説明書を見ながら、魔王はそれを使用する為にコンセントなるものを探す。

 

 果たしてすぐにそれは見つかり、二つの穴にプラグを差し込み、スタートと書かれたボタンを押せば、すぐにそれが稼働した。


「おおっ!」


 急に爆音を奏でる機械に一瞬驚いたものの、説明書通りに動かすと、床に落ちていたゴミがどんどん吸い込まれていく。

 

 知れば知るほどにこの世界は面白い。


 その後も魔王はご機嫌で全ての床を掃除機で吸いまくり、かなり綺麗になった床を見て満足げに微笑んだ。


 動いたからなのか、空腹を訴えてお腹が鳴ったので、冷蔵庫から卵サンドと書かれた物をありがたく頂戴してぱくりと口にする。

 途端にマヨネーズと呼ばれる大変美味な調味料で味付けされた卵が口いっぱいに広がり、感動のあまり魔王は思わず声を上げる。


「ほう、どれもこれもこの世界の食事は美味なことよ……」


 魔界だと基本的に味付けといえば塩か、もしくは胡椒などのスパイス類が数種ほどしかなかった。

 どの料理も素材の味を生かす系のものばかりで、不味くはないが飽きはくる。


 ゆっくりと味わいながら口を動かしつつ、魔王はつけっぱなしのテレビを眺めていると、画面の中の女性が、黄色の卵に包まれたオムライスなるものを食べており、思わずごくりと喉を鳴らす。


 同じ卵料理でもこのサンドイッチとはまた別のものだ。

 卵の上にかかっているあの血のように赤いのはケチャップというらしく、それが卵と、そしてごはんと口の中で絶妙に絡み合って美味しいらしい。


 番組の最後には美味しいオムライスの作り方なるものが出てきたので、頭の中でそれを一応記憶しておく。

 今からでも作れるものなら作りたいが、そもそも冷蔵庫の中はろくなものが入っていなかった。


おそらくあの元聖人は、買ってきたものでいつも済ませているだろうことは容易に想像できる。


 料理はこれまでにもしていた。

 拾ってもらった恩を返す為にも、できるだけ役に立ちたい。


 その後掃除を再開させた魔王だったが、本が積み重なったエリアをまとめている最中にはらりと何かが一枚床へと落ちる。


 拾ってみると、一枚の絵姿のようだった。


 少し色褪せていたそれには十歳くらいの子どもが中央に、端にはその子の両親らしき男女が映っており、皆幸せそうに笑みを浮かべている。


 中央の子どもはおそらく彼の子どもの頃の姿なのだろう。

 垂れ目がちの瞳にはどことなく面影があった。

 特に母親と思しき方に顔立ちがよく似ていた。

 

 愛されて育ったのだと見ただけで分かる一枚に、魔王は少しだけ羨望の眼差しでそれを見つめる。


 だがそれも一瞬のことで、その後彼女は、これはきっと彼にとって大事なものだろうと判断してキャビネットの上に移動させると、再び片付けに戻った。


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