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1.望まない異世界召喚


 それは唐突だった。

 

 仕事帰り、最寄りのコンビニに寄って晩飯でも買って帰ろうと思いながら歩いていたら、急にアスファルトの地面が光り出す。


「? 何だこれ……」


 謎に青白く発光する地面に慌てて飛びのこうとしたが、それよりも早く俺の体は光に呑まれ、そして───────。


 その日俺は異世界に、聖人として召喚された。


 で、召喚された先には明らかに日本人ではない人種の奴らがいて、俺は大勢に取り囲まれていた。

 

 その中の一人である、白い法衣的な服装の爺さんに頭を触られたことで向こうの言葉が分かるようになり、主にそいつから説明を受けたところによると。


 この世界には俺の住んでいたところと同じように人間界しかないのだが、数百年に一度、時空の乱れ的なのが原因で、魔族の住む魔界という場所とこの人間界を繋ぐ穴が現れるんだと。


 ほんで、そこから魔王をはじめとした魔族たちが人間の世界を蹂躙しようとやってきたため、それを俺に塞いできてほしいというのだ。


「なんでこっちの世界と全く関係ない俺が、そんなことをしなきゃいけないんだ。あんたらの世界の人じゃダメなのか?」


 そう尋ねると、爺さん曰く、どっちの世界とも関係のない世界からやってきた者じゃないと閉じられない仕様だという。


 なもんだから、召喚術を展開した際に最も適した人間が異世界から召喚され、それと同時に聖力を宿す異世界人──こっちでは聖女か男だと聖人と呼ばれるらしい──に閉じてもらうしかないんだと。


 しかも彼らには異世界人を元の世界に返す方法はないらしい。


 だが、魔王が傍で守っているであろうその穴を封じられれば、自ずと元の世界へと続く召喚術がその場で発動するはずなので、帰りたくば何が何でもその謎の穴を閉じに行くしか道はないと言われた。  


 正直、俺を召還した爺さんやその他の連中は、俺を勝手に召喚しておきながらものすごく上から目線の偉そうな物言いで癇に障ったが、帰る方法がそれしかないなら、俺に拒否権はない。


 ただし、もしこれが嘘だったら全員必ず何らかの方法で制裁を加えてやると心の中で毒づきながら、俺は、魔族討伐隊の一員として組み入れられた。


 そして他のメンバーである勇者の称号を持つ第二王女やら、王女の幼馴染らしい魔法使いの少女やら、男の勘だが王女に惚れているっぽい格闘家の兄ちゃんらを中心とした討伐隊は、魔王のいる場所を目指しつつ魔族を倒す旅に出ることになった。


 そうそう、この世界にやってきた俺には、聖人の力ってのが確かに発現していた。


 しかもこいつ、穴を閉じるためだけの力かと思いきや、戦いには参加できないが、願えばどんな傷も癒すことができるし、体の欠損も治せたりあらゆる毒も解除できるという優れモノだった。


 魔法とはまた違う力らしく、この治すという行為は、転移させられた異世界人にしか使えないものだという。

 

 ただし、自分には使えないという制限付きだが。


 まあそんな訳で、現代社会で戦う術なんて身に着けてきていない俺が、治癒能力しかもたない状態で戦闘に参加しても邪魔なだけなので、旅の最中はずっとみんなの戦いっぷりを眺めていた。


 それでも初めの方は、俺はこれでも結構な罪悪感を感じていたのだが、俺のことが嫌いらしい格闘家に、


「お前も少しは全線で役立て!」


 と無理やり矢面に立たされた結果、当然即効で死にかけた。


 いやいや戦えるわけないだろう。

 なに、「ヒール!」って叫びながら敵に手をかざしたらいいのか? 

 むしろ俺の身長ほどはある剣で脳天から振り落とされる攻撃をかわしただけでも奇跡だったからな!


 そのあとすぐに敵の後方から飛んできた氷の矢をしこたまお見舞いされたわけだが。


 矢での攻撃で血を流して倒れる俺を見て、すぐさま敵を倒した王女と魔法使いから、回復系の薬草をこれでもかと口いっぱいに詰め込まれたおかげで何とか一命は取り留めたが、格闘家は勝手なことはするなと死ぬほど怒られて涙目になっていた。


 そらそうだよな。

 だって俺が死ねば穴を塞ぐ者がいなくなる。


 それだけじゃなく、この治癒の力ってのはこの世界では唯一俺のみが行使できる貴重なものだ。

 このおかげでサクサク旅が進んでいるっていっても過言じゃない。


 もし俺が死んだ場合、他の奴を召還……ってのはできないらしい。

 一度きりの奇跡だと。

 俺ら異世界人からしたら厄災だが。


 だからこそこっちの世界の人間たちは、敵から殺されないよう俺を守りながらなんとしても魔王城まで連れて行かないといけない。

 それがこの旅の最優先事項なのだから。


 あ、ちなみに魔族達はこの世界でたとえ倒されても、穴が開いている今は元居た魔界に生命とが戻ってくる仕組みで、完全に死ぬってのではないらしい。

 

 だがこっちで一度死んだ魔族は再度人間界に来ることはできないんだと。

 無限に復活した敵が湧いてくるシステムじゃなくてよかったとは思う。


 これは人間側も同じことで、あっちで死んでもこっちに魂は戻ってきて復活すると。


 そんなこんなで旅を始めてから約三か月後。


 俺たちは魔王が突貫で人間界に作ったという魔王城に早々と到着した。


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