全部話せた夜と、やっともらえた言葉
「最後にもうひとつだけ……」
「うそでしょ⁉」
「高校の卒業旅行のときです……」
「マジでフルコースだな」
「みんなで計画立ててて、すごく楽しくて……でも、出発の数日前になって、なぜか気持ちが冷めちゃって。“なんか旅行って面倒だね〜”って口にしちゃったんです」
「うん……うん……で?」
「そしたらそれが次から次へとみんなに伝わって、“行きたくないなら来なくていいよ”ってなっちゃって……」
「なるほどねぇ……」
「行きたくなかったわけじゃないんです。ただ、計画してる時間が楽しすぎて、満足しちゃってたんです。でも、それって自分だけの感覚で……やっぱりまた、人を傷つけてしまったなって」
千尋はグラスを置いて、まっすぐにあかりを見た。
「春日さん、今日だけで何人分の人生話してんのよ」
「……すみません」
「でも、すごいと思う。全部ちゃんと覚えてて、ちゃんと反省してて、それでも今、誰かに話せるくらいには前に進んでる。ほんと、春日さんって優しい人だよ」
「……ありがとうございます」
「いいじゃん、ちょっと不器用でもさ。“どう言ったらいいか”を考え続けられる人って、信頼できるよ。
私は、春日さんみたいな人が職場にいてくれて、ありがたいと思ってるよ」
その言葉に、あかりは声にならない安堵を感じた。
ずっと責めてきた過去の自分を、ようやく「認めてもらえた」ような気がした。
ふたりのグラスが、軽く当たって、静かに鳴った。
それは、“過去の私”と“今の私”が、和解する音だった。
「あなたがいてくれてありがたい」
たったその一言が、あかりの10年以上の自己否定を、ふっとほどいてくれました。