笑い者にされる日
午後になって少し落ち着いたかと思いきや、心のざわざわはまったく消えていなかった。
仕事をしているふりをしながら、ずっと同じところで思考がループしている。
——私はダメな人間なんだ。
——役に立たない。
——いてもいなくても同じ、いや、いない方がいいのかもしれない。
そんなことを考えながらデスクに戻っていたその時、受付に来客があった。
「すみません、車庫証明お願いしたいんですけど」
対応するのは私。
本来なら、マニュアル通りに処理すれば済む簡単な対応。なのに——胸が重かった。
「はい、少々お待ちください」
声が小さくなったのが、自分でもわかった。
手元がやや震えながらも、必要な書類を用意する。
そのときだった。
後ろから、またあの声が聞こえてきた。
「この子、バカなんですよ〜。今日も朝から日付ミスったり、コピーすらまともにできなくて〜。ははっ。ねぇ春日さん?」
聞いた瞬間、息が止まった。
……まさか、お客さんの前でまで。
お客さんは苦笑いしていた。
「はあ……そうなんですか」と、社交辞令的な相づち。
私は顔を上げることができなかった。
頭を下げたまま、ただ、書類を手渡した。
——なんで今、言うの?
——どうして、外の人にまで私のミスをさらけ出すの?
言い返せない自分が、また嫌になる。
「いいですから!」って強く言えたら、どんなに楽か。
でも、そんな勇気はどこにもなかった。
心の奥で、何かが音を立ててヒビ割れていくようだった。
怒られたことより、ミスしたことより、
人として尊重されていないと感じたことが、一番こたえた。
一番つらいのは、「存在を軽く扱われること」なのかもしれません。
あかりの沈黙が、読者にも届きますように。