朝のミスと、頭の運動会
「なにやってんだ、こら〜!」
朝のオフィスに怒鳴り声が響いた。
怒っているのは田所課長。怒られているのは——私、春日あかり。
「11月10日って書くところを、1月10日って入力してたんだぞ! 小学生でもわかる日にちがわからんのか。バカか。カレンダーの見方もわからんのか。辞めてしまえ。みんなの迷惑じゃ!」
——またやってしまった。
なんで私は、こんな初歩的なミスを……
周りの空気が一気に重くなるのがわかった。
誰も目を合わせない。助けてくれる人もいない。
私はただ、その場に立ち尽くす。
頭の中が、ぐちゃぐちゃだった。
もう完全に頭の中は運動会。
怒鳴り声が拡声器で響き渡って、徒競走の選手(=私の思考)がぐるぐる全力疾走。
競技順を間違えた放送係(=過去の後悔)が「バカです〜!」「またやらかしました〜!」ってずっとアナウンスしてる。
——私は、仕事ができない。
——私は、ダメな人間だ。
そんな言葉が、頭の中をぐるぐる回る。
誰にも責められていない時間ですら、自分の責める声が止まらない。
その少しあと。
「この書類、客に渡すからコピー2部取ってきて」
田所課長の声に、私は「はい」と返事をして立ち上がった。
——だけど、全然頭に入っていなかった。
「2部」という数字だけが、ふわっと記憶の底に沈んでいって。
コピー機の前で、私は無意識のうちに「22」と打ち込んでいた。
ガチャン、ガチャン、という音がずっと鳴っている。
でも、私は何も気にせず、コピーが終わるのを待っていた。
というより——気づいていなかった。
ボーっとしたまま立ち尽くす私の後ろから、怒鳴り声が再び響いた。
「おい、何してんだ!」
振り返ると、田所課長がまた仁王立ちで、顔を真っ赤にしていた。
「2部って言っただろうが! おまえは何部もコピーしてんだよ! ボケッとしやがって! さっきからお前、なーんにも頭に入ってねえじゃねぇか!」
私は、動けなかった。
あぁ、またやった。また私はやってしまった。
「使えねぇな、ほんと。社会人失格だよ! いや、人として終わってるわ!」
怒られたことより、自分の中の声の方がきつい——
そんな朝、ありませんか?