陰口と、耳に残る声
給湯室。コピー用紙を取りに行ったとき、ドアの隙間から声が聞こえてきた。
「…だって、丁寧なのはいいけど、いつまでやってんのって感じしない?要領悪いんだよね〜」
増田先輩の声だった。相手は他の部署の後輩のようで、二人のくすくす笑いが聞こえる。
「上司に褒められて満足って感じ?あたしは結果出したい派だから〜」
一瞬、心のどこかが冷たくなった。ドアを開けると、増田先輩はこちらに気づいて、にっこりと笑った。
「あっ、春日さん〜。お疲れさま~」
私は、そのまま何も言わずに紙を取って出てきた。
きっと“気にしすぎ”なんだ、って自分に言い聞かせる。
でも、耳に残った言葉たちは、簡単に消えてはくれない。
もう少しで資料が完成する。
もう少しで――今日も終わる。
時計は夜の8時を回っていた。ようやく資料を仕上げたあかりは、PCをシャットダウンし、ゆっくりと立ち上がった。
朝からずっと働きっぱなしで、足も肩も重い。
ついでに心も重い。
(あのメール、ちょっと冷たかったかも…)
ふと頭に浮かんだのは、夕方に送った上司への報告メール。気にしすぎだってわかってる。でも、つい考えてしまう。
気づけば外はもう真っ暗だった。
「気にしすぎ」って、自分でもわかってるのに、止められないんですよね…。
でも、それが“あかり”らしさでもあると思っています。