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“まあ、いいけど”が言えるようになるまで  作者: ひまわり


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14/17

“仕事ってなんだろう”って思った日

朝の9時。あかりが会議室に入ると、すでに何人かの社員が机を囲んでいた。

管理組合の総会資料づくり。三つ折り、ホチキス、封入……ひたすらその繰り返し。


(朝イチからこの作業……地味にキツい)


そんな空気を破るように、田所が話し出す。


「引き渡し終わってからさ、やっと気づいたんだよ。あの物件、駐車場が分譲だったってな」

「しかも所有者、まさかのやくざでよ〜」


増田、小杉が即座に乗ってきて、「さすがです〜」のヨイショ合戦。


(……その前に確認ミスだろ)

心の中でため息をつきつつ、あかりは黙って紙を折り続けた。


ようやく作業が終わり、出前が届く。

みんなが豪華なランチに盛り上がるなか、あかりは静かに肉うどんをすすっていた。


(誰がいちばん働いたか、なんて本当はわからない)

(でも、ちゃんと見てくれてる人は、いるのかもしれない)


午後、フロアに響いた声。


「春日さん、ちょっと出てくるけど、一緒に来る?」


部長の権藤だった。

「管理物件、ちょっと様子見に行くだけ。暇してるならドライブがてら」


軽自動車に乗って出発。ラジオも音楽もかけず、静かな車内。


「……わたし、仕事向いてないのかもしれません。

 何もできてない気がして……」


ぽつりと漏らした言葉に、権藤はすぐには答えなかった。


「……そう思う日、あるよ」


運転しながら淡々とした口調。でも、それはごまかしじゃなくて、ちゃんとした“実感”だった。


「俺も、何年経っても“まだ全然だな”って思うことある。

 でも、それって考えてる証拠だし、きっと必要なことなんだよ」


築20年の管理マンション。

住人のおばちゃんたちに囲まれて、苦情、噂話、どうでもいい話……全部を浴びる。


(これも、仕事か……)


権藤はずっと笑顔で、話を聞き、全部受け止めていた。

その姿が、あかりにはすごく“まっとう”に見えた。


帰りの車内で、あかりはこぼす。


「……こういう仕事、誰かの役に立ってるのかなって、たまに思うんです」

「ちゃんとできてる気がしないし、自信もなくて……」


すると権藤は、少し懐かしそうに話し始めた。


「昔、クレームばっかり言ってたおばちゃんが、“あんたでよかった”って言ってくれたことがあってさ」


「……え?」


「大きなことはしてない。ただ話を聞いて、ちゃんと覚えてただけ。

 でもそれだけで、人の気持ちって少し変わるんだなって、あの時思った」


「春日さん、いま悩むってことは、それだけ真面目に仕事のこと考えてるってことだよ。

 それが、まずすごいと思うけどな」


その言葉に、あかりは少しだけ笑った。


「……ありがとうございます。

 自信はまだないけど……もう少し、ちゃんとやってみたいです。

 自分のことも、仕事のことも」


「うん、それでいい。急がなくていいよ。時間はかかるもんだ」


外は少し雲が出てきたが、あかりの気持ちは、少しだけ晴れた気がした。



「自信がないなぁ」っていう日も、「考えてる」だけでちゃんと進んでる。

あかりにとって、今日が“自分の仕事を考える日”になっていたらいいなと思います。

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