表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

第3話 レッスン1、妙な期待はするな

 ……

 …………

 ……………………


 「……ばす。……アルバス。……アルバスっ」


 だんだんと視界が鮮明になってきた。


 目の前にはティアの顔。


 飛び起きる。


 「良かった、気がついた。大丈夫? 」


 「あ、あぁ」


 身体を見る。ほとんど癒えている。


 「ティア、気にしなくてもいいのよ。あいつにはドラゴンの血が入ってるから、(やつ)らと同様に高い再生能力があるわ」


 「そうは言ってもね、義弟(おとうと)だから心配になるんだ」


 レイは、右肩に手を置く。肩から下に腕はない。


 「私より心配になるの? 」


 「ほとんど一緒だよ。だってキミは、義妹(いもうと)みたいなものだからね」


 ティアは、レイの方を向く。その手には、義手が握られている。


 「そう、じゃあ義姉弟(きょうだい)として、アルバス(あなた)にお使いを頼むわ」


 「……なんだよ」


 「ケルラの首を持ってきなさい」


 オレは、ポケットに手を伸ばす。そこには何もない。レイは事情を知って、その上で頼んできているのだろう。


 確かに、ケルラを殺せば生贄(いけにえ)の必要がなくなって、ティアは救える。


 だったら……


 「言われなくても、そうするさ。ただ……」


 オレは人差し指を立てる。


 「オレに欠けているものを教えろ」


 「はあ? 」


 見事な呆れ顔。


 ティアが咳払いする。


 「喧嘩(けんか)しないでね」


 ティアは義手の接合に取り掛かり始めた。


 構わず、続ける。


 「これは等価交換だ。お使いには駄賃が必要だし、追加でお小遣いがあるとモチベーションも上がる。なにより、オレが強くなれば、“お使い”の成功率も上がる……だろ? 」


 「なるほど」


 レイは、左手を(あご)に当てる。


 「……」

 「……」


 チクタク、チクタク。秒針を刻む音だけが聞こえる。


 「ほら、早くしないと“定刻”になるぞ」


 「……いいだろう」


 レイは、瞳を閉じる。


 しめた。レイの“技術”を盗めるかもしれない。やつは素の力で勝るオレを完封した。それには何か秘密があるはずだ。


 特に最後の一撃。オレの攻撃をモロに食らっておきながら、ケロッとしてやがった。つまり、こいつは“力”を上手く扱える人材。


 必ずあるはずだ、“力”を操る(すべ)が。


 「ほら、早く教えろよ」


 「えぇ。ただ、一度に全部教えることはできないわ。段階的に、少しずつ……その方がわかりやすいでしょう? 」


 「まあな」


 レイは深呼吸して、瞳を開けた。


 「『レッスン1、妙な期待はするな』。少しは自分の頭で考えなさい。他人(ヒト)に頼ってばかりじゃいけない。……だから低脳なのよ、ばか」


 「なっ」


 手を上げる……が、ティアが(にら)んでくる。


 静かに拳をおろす。


 「……どう? いい教訓になったでしょう」


 「冗談じゃない、交渉は決裂だ」


 (きびす)を返す。


 「ま、待って」


 「いや、やだね」


 横目でレイを見る。顔が強ばっている。


 「…………」

 「…………」


 「あんたなんかに頼もうとした私が、バカだったわ」


 「あ、ちょっと、レイっ」


 レイは駆け出した、ティアの制止も振り切って。


 「ま、まだくっついてないよっ、義手(うで)


 「走りながらくっつける。私たちには、もう時間がないもの」


 「レ、レイ? 」


 レイがこちらを向く。その顔つきは、やけに険しい。


 「大丈夫よ、あなたは死なないわ、私が守るもの」


 「レイっ」


 レイは、姿を消した、“教訓”だけを残して。




 「あの娘のこと、嫌いにならないでね」


 先に口を開いたのはティアだった。ホウキを持って、床掃除をしながら言葉を(つむ)ぐ。


 「レイはね、孤児(みなしご)なの。家族をケルラに食べられちゃってさ。初めてボクと会ったときには、もう片腕がなかった。その腕も、ドラゴンにやられたらしいよ。過度にドラゴンを嫌うのも、それが原因さ」


 ティアは、掃除用具入れからチリトリを取り出す。


 「アルバスと出会う少し前まで、一緒に生活してたんだ。義姉妹(しまい)としてね。初めて戸籍を偽造したのもその時。懐かしいな」


 「で、その義妹(いもうと)さんがボロボロのまま、おそらくはケルラの元に向かっている……と」


 「そうなんだよね、頼めるかな? “お使い”」


 「断る理由なんて、ないからな」


 「良かった。ボクは訳あって行けないんだ。……もしかしたら、“キミも”気づいてるかもしれないけど」


 「……知らないよ、何も」


 知ってたんだな、全部。それもそうか。

 生贄(いけにえ)なんて大切なこと、前日にいきなり伝えられる(わけ)がない。

 ずっと前から、知らされてたんだ。


 なぜ隠した? オレたちを悲しませないためか? 

 分からない。根拠のない憶測(おくそく)が浮かんでは消えていく。


 ゴーン、ゴーン。

 教会の鐘が夕暮れ時を知らせる。


 ダメだ。時間はもうない。


 オレは、扉の方へ向かう。


 「あ、待って、これ」


 呼び止められて、立ち止まる。


 ティアは何かを投げて寄越(よこ)した。


 受け取る。パイプか? いや、違う。見覚えがある。


 その名も“エレクトリック・セイヴァー”。ティアの会心作だ。オリハルコン製で、オレの力にも耐えてくれる。


 「使い方、覚えてる? 」


 「えっと……」


 「合言葉を唱えると、キミの生命エネルギーを電気エネルギーに変換できる……合言葉は? 」


 「たしか……血之代償(レダイン)


 突如、パイプ全体に電撃が走る。


 「いいね、いい感じ。あの娘、身体の半分ぐらいが機械だし、電力補給も必要だから、最適な武器チョイスなんだよ」


 「そうだな」


 「使う時に磁力が出るから、それだけ注意してね」


 「あぁ」


 「気をつけて、できるだけ早く帰ってきてね……」


 「もちろん。じゃあ、また」


 「また、ね 」


 サヨナラは言わない。言わせない。


 オレは歩き始める、二人の義姉(あね)を救うために。

 キレイに清掃された床を越え、新たな大地へ。

 これで、第一章の起承転結の「起」が終わりました。


 ブクマ、感想、レビュー等は執筆活動の励みになります。更新頻度も上がります。特に続きを読みたい方は、ご検討ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ