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第四七話「話し合い」


「合図だ」

「行こうか」


 真夜中に音もなく上がった花火を見て、ラウルとアルは行動を開始した。


「なんかミスったってことだよな、あの合図」

「そうだね、今のラウルを外に出すのは危険だけど、緊急事態なら仕方がない」


 二人は宿屋から出ると一直線に教会を目指し走り出す。ラウルは魔封じの薬で普段意図せずに使っている身体強化が発動できていないにもかかわらず、素の身体能力でアルに劣らぬ走りを見せる。


 ものの数分で教会のすぐ目の前に到着するが、そこでアルは足を止めた。


「さて、どこから侵入するか……」


 今回起きているのは不測の事態。おそらくは敵に発見されて交戦か逃走を図っていると思われる。そんな中で迂闊に敵地に入るのは危険だとアルは考えた。


 だがそんな迷いを、ラウルは当然のような顔で断ち切った。


「ごめんくださーい、ダニエルー?」


 なんと友達の家に入っていくかのような気楽さで正面から入っていったのだ。


「ちょ、ラウル! ここ敵地敵地!」


 アルの焦った反応に、ラウルは驚くこともなく「え?」と困惑した顔をした。


「だってダニエル、もう友達だし、多分裏切りとか関係ないよあいつは」


 何の根拠もないラウルの言葉だったが、ラウルのそうした直感こそが何よりの根拠であるような気もするアルは、自分の疑り深さを一瞬省みた。が、


「いや、僕は普通の判断をした。うん」


 我に返って事なきを得た。


「こんな夜更けに、何者だ」


「殿下を呼び捨てになぞ、不敬であろう」


 夜の番をしていた教会騎士二名が二人を出迎える。本来であればここで戦闘が起きるはずが、ラウルの破天荒な正面突破によりただの迷惑な来客として扱われる。


「あ、え~と」


 ラウルにこういった公式の対応はできない。ここまで来たならもう流れに任せるしかないと、アルも腹をくくる。


「ダニエル殿下に急ぎの用があって参りました。勇者ラウルが来たとお伝えください」


 勇者の単語を聞き、騎士二人は驚きに目を見開く。が、今回も魔封じの薬が裏目に出た。


「こんな子供が、勇者?」

「俄かには信じられん」


 ラウルをただの子供としか見れない騎士の二人はむしろ警戒を強めてしまう。これでは強行突破もやむなしかとアルが判断しそうになった、その時だった。


「ダニエーーーーーール‼」


 突然ラウルが大きな声でダニエルを呼ぶ。


 思わず耳をふさぎ蹲る騎士の二人と、驚きの表情を隠せないアル。その声は教会中にこだましたかに思えるほど大きく、仮にダニエルが寝ていたとしても飛び起きただろう。


「き、貴様!」

「不敬であろう!」


 鼓膜が破れんほどの大声から立ち直った二人の騎士は声を荒げ、剣の柄に手をかける。アルが内心で舌打ちし、背中に隠した鎌に手をかけるのと同時だった。


「何事だ」


 教会の奥から姿を現したのはダニエルだった。


「ラウル、そう大きな声で呼ばなくともいい」


 ダニエルは深夜だというのに教会の制服のまま、眠気をこらえる様子もなく、まるでラウルが来ることをわかっているかのように二人を出迎えに来た。


「ダニエル!」


 ラウルがダニエルに駆け寄っていき、二人は軽く抱き合い挨拶を交わす。その姿をお化けでも見るような顔で見つめる二人の騎士。


「ラウルは僕の友人だ。不敬はどちらか、よく考えることだな」


 そう言われた騎士は顔面を海よりも青くし「申し訳ありませんでした」と最敬礼を取った。


「アルフリードも、よく来てくれた。話は僕の執務室で聞こう。あまり猶予はなさそうだ」



「お前の母ちゃん、裏切り者じゃない?」

「ぶっふ」


 その第一声に、アルが出された紅茶を噴き出したのは言うまでもない。


 通された部屋はダニエルの執務室、エルクリディア近郊をまとめる領主としての仕事をするための部屋だった。ほぼ中央に置かれた机には山のような書類が重ねられ、満足に眠る時間も取れていないのがわかる。もっとも、そのおかげでラウルの呼びかけにも応じてもらえたのだろうから善し悪しだ。


「……唐突だな、だが言ってもいいことと悪いことがあると思うぞ、ラウル」

「ああいや、何の根拠も言ってるわけじゃない、よな?」


 ここで話を振られたアルは冷や汗をかきながら言葉を並べる。


「もちろん根拠はありますが、その前に一人ここに呼んでも?」


 ダニエルは「もちろん」と首を縦に振った。


 アルが扉を執務室のドアを開けた先には、聞き耳を立てる用意してレヴィが立っていた。


「どわ!」


 急に扉を開けたもので、扉に全体重をかけていたレヴィは体勢を崩しかける。


「とりあえず、現状の説明に最も適した者をお連れしました」

「待て、状況が読めねえよ、なんで敵側の重要人物とお茶飲んでるわけ?」


 レヴィの「敵側」という言葉に眉根を寄せるダニエル。


「アルフリード、それにレヴィ。今の僕はただのラウルの友人としてこの場にいる。それを前提に、包み隠さず話してくれるかい?」


 ダニエルの瞳はまっすぐにレヴィとアルを見つめており、そこに嘘偽りのないことは二人にも読み取れた。ただのラウルの友人。それがダニエルにとってどれだけ勇気のいる発言なのか、わからない二人ではない。


「もちろん、お話しするつもりです。ただその前にレヴィ。フリーダは今は?」

「ああ、皇妃と戦闘中だよ」

「戦闘⁉ ……ああいや、すまない。続けてくれ」


 突如飛び出た物騒な単語にダニエルが腰を浮かせるが、何とか平静を取り繕う。


「皇子様にとっちゃあ寝耳に水だろうが、おれ達はついさっき襲撃を受けたばっかだ。その黒幕はおそらく皇妃だろう。そこで以前から問題になってた裏切り者の話になる」


 聖都アイエルツィアに魔族の転送用魔法陣を敷き、人族の拠点制圧を目論んだ裏切り者。


「それが母だと」

「ああ」


 正直な話、ダニエルもアンナの動向に疑問を持っている時期はあった。戦時下だというのに突如アイエルツィアからエルクリディアに移動してきたことや、勇者たちへの風当たりの強さもそう。


「しかしまさか……、襲撃犯や裏切り者が母である証拠はあるのか?」

「それを探そうとして今ここにいるっつーのが正解だな」

「つまり証拠はない、と」

「だが確信はある」


 いつの間にか剣呑とした空気が張り詰める部屋内。ラウルは空気を読んでいるのか口を挟まないが、ダニエルとレヴィの間で視線をさまよわせている。


「先ほどアルフリードは根拠があると言ったな。それを聞かせてもらおう」


 実の母が裏切り者だと疑われているにもかかわらず、ダニエルは平静を失わずあくまで理性的に話し合いをしようと務めている。もしも立場が逆なら自分はこれほど冷静でいられるだろうかと考えながら、アルフリードは答える。


「ええ、その一つは、皇妃アンナの移動手段。おそらくは魔族しか使用できない転移魔法によるものかと。旅の道中、皇妃がほかの街を訪れた形跡はありませんでした」


 アルの示す根拠の一つにダニエルがうなる。それはダニエル自身気になっていたことだったからだ。


「それに今回の襲撃、ラウルにだけは襲撃がありませんでした」


 チャンスであるにもかかわらず、という言葉をアルは飲み込んだ。


「このエルクリディアで自由に活動ができ、我々の存在が邪魔でありながら、勇者にだけは生きていてもらわなければ困る。そんな相手は、フリーダに時期皇位継承権を奪われているあなたの関係者でしかありえない」


 アルの言葉に、ダニエルは黙り込む。


 並べられた根拠を自分の中で反芻しているのだろう。そして勇者たち三人の言葉が正しいものかどうかを判断している。なるべく、可能な限り己の主観を排して。希望的観測を亡き者にして。


「そう――だな」


 ダニエルは頷いた。状況証拠はすべて、裏切り者は自分の母だと言っている。


「では今推測できる母の目的はおそらく……」


 魔族と協力しフリーダを排除したのち、勇者の力を利用し魔族との戦争を停戦。そして停戦を指揮したアンナ、およびダニエルの皇位継承権の復活。それが皇妃アンナの目的


「母とフリーダは戦闘中だと言ったな」

「あ、ああ」


 急に話を振られたレヴィ。戦闘中の二人を思い出したのか、げんなりとした様子で「ありゃあしばらく決着はつかねえぞ」とぼやく。

「早々に決着されては困る。あの二人が止まるならそれは、どちらかが死んだ時だ」


 ダニエルの言葉に一も二もなく同意した三人は、ほとんど同時に執務室の椅子から立ち上がると、ドアを目指して早足で歩きだした。


「あとはもう、母に直接聞くのみだ」




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