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第四四話「夜襲」


「一度でいいから会わせてはもらえんか。聖女に関してはあまりにも謎が多いんじゃ」

「いや、そんなこと言っても、フリーダがなんて言うか……」


 あまりの勢いで食って掛かられたためにしどろもどろになるラウル。ここはアルが「申し訳ありませんが、それは」と丁重にお断り申し上げる。大体フリーダが何の得にもならないことをするとは思えない。


「そうか、せめて本当に魔力がないのかだけでも確認したかったんじゃが……」

「素人意見ですが、フリーダは完全に魔力を持っていないと思いますよ」

「うん、そうだな」


 一緒に旅をする二人からの証言に、少女も渋々納得する。


「だとすればなおのこと妙じゃ。この世のあらゆるものは魔力を持って生まれる。少ないならまだしも、魔力が無いことなど、本来ならあり得ないのじゃ」


 それはアルも疑問に思ったこと。普通の人間が魔力欠乏症を起こせば、さっきも言った通りひどいめまいや吐き気を起こし昏倒する。だが最初から魔力を持っていない聖女、フリーダは何ごともなく日常生活を送っている。


 もっと言えば、アルはそれ以上に気になっていることがあった。


 魔法とは、魔力を消費し現実を想像によって書き換える現象をさす。ならば聖法術とは? 魔力に直接ダメージを与える術だというのはフリーダから聞いたことがある。だがそれは一体、何を代償に引き起こされているのだろう?


 そこまで考えて、アルは頭を振った。考えても答えは出ない問いだ。フリーダ自身、そのあたりの仕組みを理解して使っているとは限らない。目の前の少女は考えること自体が職業のようなものだが、アルは違う。


「それより、必要なものはそろったし、今日はもうお暇しよう」

「おいとま?」

「もう宿に帰ろうってことだよ」

「なんと、もう行ってしまうのか」


 少女は名残惜しそうにラウルを見るが、ラウルの魔力が無いなど非常事態以外の何物でもない。早く四人合流した方がいいとアルは考えていた。


「そうだ、その魔封じの薬、効果時間は?」

「約二十四時間。一日じゃな」

「一日……」


 もし今夜襲撃があれば、ラウルは戦力として数えられない。アルは考える。


 そして、悪い考えほど、当たるものである。



 夜、フリーダが目を覚ましたのは、ほんのわずかな風の音。


 自然な風の音では目は覚めない。聞こえた音が人工的に作り出された、衣擦れのような音だからこそフリーダはその違和感から目覚めることができる。


「…………」


 目は覚めている。けれど起き上がりはしない。なぜなら部屋中に魔力糸が張り巡らされているからだ。


 これほどの数、わずかな衣擦れの音で張り巡らせるのは相当の実力者だろう。少なくとも、一般的な騎士ではない。暗殺を主として叩き込まれた、教会の暗部だ。


 さて、どのタイミングで仕掛けてくるか。


 フォアンシュタットでのアランに続き、魔力糸使いには縁があるな、などと考えながら、フリーダは相手の出方をうかがう。こちらの動きを封じたのなら、次は……。


 考えると同時に、二本のナイフがフリーダのこめかみめがけて投擲される。


「だろうな」


 敢えて殺気を振りまいた攻撃をすることで相手に回避行動を起こさせ、その先に張り巡らされた魔力糸に触れさせ戦闘力をそぐ。


「一撃で致命傷を与えられない相手なら、戦闘力をそぐ目的で四肢の損傷を優先する。それが教会のやり方」

「――!」

「意外でもないでしょう。あなたの雇い主だって通った道よ」


 起き上がるや否や、手刀にまとった聖法術で魔力糸を切断したフリーダ。そのまま両手、両足の近くにある魔力糸を切断しながらゆっくりとした動作で暗殺者に近づいていく。


「……」


 無言で腰に差した剣――光の反射から、おそらくは先端に毒を縫ったエストック――を抜く暗殺者。


 無言のまま、第二ラウンドが始まった。


 が、その数瞬後には終わっていた。


 フリーダの目の前には蹲る黒い影。その傍らには折れたエストック。


 フリーダは目の前に毒のエストックが迫った瞬間、毒が塗られていないエストックの根元を指二本で白羽取りし、いつの間に抜いた聖剣でそのエストックを斬っていた。


 すっ、と。首筋に聖剣を突き付けるフリーダ。


「答えなさい。あなたを差し向けたのは――」


 そうフリーダが話し出した瞬間。


 かりっ、という音が暗闇に響く。


「……ちっ」


 暗殺者は、自決していた。


「どれほどの価値がある……。今の教会に」


 フリーダは、暗殺者の亡骸を見つめながら、その顔を苦渋に歪めた。


「いけない、今のラウルは……」


 自分に襲撃があったということは、タイミングを同じくして他の三人にも襲撃が言っている可能性が高い。レヴィとアルは問題ないが、今のラウルは魔力が使えない状態らしい。


 急ぎ部屋の外に出ると、すぐ隣から響くダンッという鈍い音。隣のレヴィの部屋から煽情的な格好をした女性が体をくの字にしてはじき出されてくるところだった。


 部屋の中を見ると、蹴りの体勢をしたレヴィが残念そうな顔でため息をついていた。


「はぁあ、美女の誘いは大歓迎なんだが、こういうのはお呼びで無いな」

「なんだ、てっきり自分で連れ込んだものかと」

「そこまで飢えちゃいねーよ。それよりラウルだ」


 ラウルの名に表情を引き締めたふたりは、すぐに向かいの部屋へと視線をやる。二階の四部屋が四人が取った部屋だ。一階からの吹き抜けをはさんだ先にラウルとアルが泊まっている。


「ラウル!」


 すると、アルが部屋から飛び出してくる。考えることは同じのようで、すぐさま隣のラウルの部屋を気にする様子を見せた。だがラウルの部屋は襲撃が起きているとは思えないほど物静かで、合流した三人は目を見合わせると自然とフォーメーションを取り突入の準備を進める。


 ドアを開くアル。突撃するフリーダ。狙撃体勢から動かないレヴィ。だが三人が見たのは予想だにしない光景だった。


「ん? どうしたのみんな?」


 そこには眠そうに目をこするラウルの姿。暢気にあくびをして、ベッドから半分だけ起き上がり眠気眼で三人を見ている。


「どういうこと?」

「敵がこの機を逃すとは思えない、何か裏があるのか?」


 そう、襲撃はラウルにだけ起こっていなかったのだ。


「目的が見えねえな」

「そうだ、襲撃者は?」


 フリーダがアルの方を見ると、アルは首を横に振る。何も聞き出せなかったのだろう。フリーダはこの襲撃は十中八九教会、アンナの差し金だと見ているが、如何せん証拠がない。そしてラウルが襲撃されなかったことから、その動機、目的すらも推測が難しくなってしまった。教会に直接乗り込んで全部吐かせてもいいが、相手の目的すらわからないまま本拠地に乗り込むというのは気が乗らない。


「俺の方に来た女なら気を失っているはずだ。目覚めるのを待つか?」

「……そうね、いや」


 教会の暗部なら情報を吐くより自害を選ぶだろう。そう教育されている。それよりも確実な方法を取りたい。


「目的が不明なら暴くまで」




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