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自由への第一歩

 僕のスキルが発覚してから約一年が過ぎた。

 この一年間は『獣化』について様々な実験や検証を行い、仕様について理解する日々となった。


 まず、このスキルには無限の可能性が秘められていることを知った。

 哺乳類や爬虫類、鳥類に魚類に、果てには昆虫。

 ありとあらゆる“獣”に変身できる。


 獣に変身とひとえに言っても僕が動物そのものに変身するわけではない。

 例えば犬。

 犬に獣化しようとすると二足歩行のまま体が毛に覆われ顔が犬の顔そのものになる。

 犬種は様々で秋田犬を想像したら顔は秋田犬になるし、チワワを想像したら当然顔はチワワになる。


 獣化の共通項として獣の体は基本的に筋肉質でムキムキだ。二足歩行でチワワの顔をしたマッチョマンが出来上がった時はさすがにコレジャナイ感が拭えず、犬に獣化するときは同じイヌ科であるオオカミの姿を模すことにした。


 やっぱり見た目は大事だよね。 

 モチベーションも違うし敵を威圧するにしても顔がチワワじゃ迫力に欠ける……いや、うん、むしろ顔がチワワの方が不気味で迫力あるだろって意見もあるかもしれないけど、僕はそれでも【狼】に獣化したい。

 かっこいい方に変身したいんだ!


 ――ってことで僕は今のところ三種類の獣化を基本的に使い回している。色々なものに獣化できるのはいいけど、いかんせん種類が多過ぎて訓練の時間が足りないんだ。獣化のスキルはまだまだ未知数な部分が多いし、スキルスクロールに載っていた獣化スキルの説明文――“進化”という魅力的な二文字の解明もできていない。


 だから今は獣化先を絞り、広く浅くではなく狭く深くスキルを育成していく方針だ。

 後はまあ同じような話になるけど、僕的にカッコ良くない動物に変身するのも現段階では封印中。例えば【ライオン】に変身するのはカッコイイけど【キリン】とか【ゾウ】に変身するのはどうにも趣味に合わない。首が重かったり体全体が鈍重になったりとデメリットもあるので実用性も高い方じゃないしね。


 何より獣化によって見た目だけでなく戦い方も違ってくるから、実践経験の少ない今は三種類が限度。

 少数精鋭ってやつだ。


 ちなみに僕が選んだ最初の三種類――御三家はこれだ。


【狼】肉弾戦に特化させやすくスピードも丁度いい。何より獣化の定番といったら狼男は外せない。外見もカッコイイし映える。それに爪や牙などの自前の武器も用意できて一石二鳥。


(カラス)】主に移動手段。鳥に獣化して背中に羽が生えた時は「本当にこれで飛べるんか?」って心配だったけど杞憂に終わった。ちょー快適。


 なぜ鳥の中から(ハヤブサ)とか(ワシ)のような猛禽類を選ばなかったのかというと、夜間に飛ぶことを想定したからだ。


 僕の姿を村の人達や外部の人間に目撃されるわけには行かない。

 だから闇に紛れるなら黒い姿に化ける必要があった。

 黒い動物で尚且つ鳥類、う~ん……カラス!

 ――ってことで僕にはカラスしか思い浮かばなかった。


 それなら夜行性で猛禽類のフクロウで良くね?

 って意見もあると思う。

 でも皆まで言うな。

 僕はまた厨二病を患ってしまったんだ。

 黒い翼を羽ばたかせ、夜の闇に紛れながら空を飛びたかったんだ!

 憧れは、止められないんんだ!


「今日も絶好調。飛び方にもだいぶ慣れてきたな」


 思わず「――ふっ」とわざとらしくニヒルに笑ってみせる。クチバシで再現できたかは不明。


「視界も良好。これなら獲物もすぐに見つかりそうだ」


 【鴉】に獣化して夜空を舞う。

 今夜の鍛錬はいつもとは一味違うため緊張をしているのかもしれない。独り言が多くなる。


「目的地は……っとあそこか。不用心な奴らだな。油断か驕りか、どちらにしろ分かりやすくていい」


 今日はこれから人生初の対人(・・)戦闘を経験する。

 しかもぶっつけ本番だ。

 ルヴェルの体を夜に借りるのはいつものことだが、最近は魔物狩りばかりしていた。


 魔物は前の世界でみた動物の造形に似ていた。体格が一回り大きかったり角が生えてたりと様々な違いはあるものの姿かたちは酷似していたため馴染み深く、強大な魔力と『獣化』スキルを持つ僕にとって敵ではなかった。


 そんな折、村の自警団にある情報が舞い込んだ。

 北の森にある廃村が盗賊団の根城になっている、と。

 実質的に自警団のトップであるジンとセレナはすぐに今後の方針を話し合った。斥候を送ろうとか、迎撃の準備を強化しようとかそんな感じ。

 

 そしてその姿を目撃したリズリィが「森は危ないから入っちゃダメだよ?」と弟のルヴェルに釘を刺す。「わかってるよ姉さん」と素直に頷くルヴェルと「盗賊狩りじゃあああ!」と喜ぶ魔力霊体の僕。


 そんなこんなで巡り巡って僕の耳にまで届いた盗賊の出没情報。

 逃す手はなかった。

 盗賊とか山賊なんて、僕が一番欲しかった練習相手だったからね。


 何故かって?

 それはね、私刑にできるからだよ。


 この異世界。田舎の悪人はその町や村が刑を執行する。法で悪人を裁けるような人材が都会――領主がいるような街にしかいないからだ。有能な領主がいれば即裁判を行い有罪が確定すれば罪の重さによって刑が決まり、死刑の場合は公開処刑も行われる。街によっては絞首刑で罪状と共に一晩晒すこともあるそうだ。


 ……が、田舎だとそうも行かない。

 移動手段も限られるから悪人をわざわざ都会まで運ばないし、田舎の子悪党の刑罰をいちいち全部決めるほど領主も暇ではない。


 村に現れた野盗とかはジン率いる騎士や自警団が斬り捨てて事後処理を行うのも珍しくはない。

 町村で解決できるのなら事後報告でいいのだ。そして、そんな常識が許されまかり通っているからこそ、僕が動ける。


「さて、実験――訓練の時間だ」


 地上に降り立ち、三種類目の獣の姿に『獣化』する。

 五十メートルほど離れて着地したため盗賊たちには僕の存在は気付かれていないだろう。

 このまま奇襲をしてもいいけど……今回はやめておこうか。

 せっかく対人戦闘を経験できるんだ。この機会を逃したくはないし暗殺の練習はもっと先でも構わない。


「――と、いうことでこんばんわ」


 盗賊たちはざっと見て十一人。全員外に出ているようなのでとても都合がいい。


「あん?」


 彼らは突然の闖入者にギョッと目をむき近くに置いてあった得物を手に立ち上がった。


「なんだおめーは!!」

「こんなところにガキ?」


 ガキとは失礼な。

 今の僕は『獣化』していてちょっとだけ年齢が上がり十歳ぐらいに見えるはず――ってガキにしか見えないか。

 まあ、いいや。それよりさっさと用事を済ませよう。


「おじさんたちってさ、最近ここに引っ越してきた盗賊団ってことでいいのかな?」

「……」


 沈黙が返ってきた。

 あれ? もしかして盗賊じゃないのかな? 身なりは小汚くて人相も悪い。どう見ても堅気には見えないんだけど……う~ん、困ったな。目撃者は生かしたくないんだけど盗賊じゃなかったら気が引けるし、勘違いだったら色々と面倒だ――


「けっけっけ! なんだこいつは! 身なりは貧相なのにおつむは世間知らずのお坊ちゃんかよ!」


 お、なんか悪人っぽい発言。でも服装のことは気にしないでほしい。【狼】や【鴉】に獣化すると服が弾け飛んでしまうんだ。さすがにこれは魔力じゃどうしようもないから下はぶかぶかなズボンだけ履いて上はマントを纏うだけにしている。


「あーあ男かぁ、女だったら楽しめたのに」

「でもこのガキ、顔はいいから物好きに売れるぞ。髪の色もここでは見ない北洋系だ。赤い眼が珍しいから高値が付くかもな」


 なんか勝手に売り物扱いされてる。でも僕も彼らのことをサンドバッ――練習相手だと思ってるからね。おあいこおあいこ。

 ルヴェルは綺麗な白髪をしているけど、僕がこの獣化をすると真っ黒になってしまう。馴染み深いからいいけど北洋系って言うんだ? 初めて知ったよ、人にこの姿を見せたのも初だから。

 ……にしても赤眼も珍しいのか。


「もしかして【吸血鬼】って知らないの?」

「キュウケツキ? 異国の言葉か?」


 どうやら僕の三種類目の獣化元はこの世界にも存在しないようだ。空想上の存在にすら獣化できるこのスキル、もはやなんでもありなんじゃないだろうか。


 でも、それならそれで都合がいい。

 なに!? 吸血鬼だと!? ◯百年前に滅んだ亜人じゃねーか!!

 みたいな反応をされると今後の活動に支障をきたしそうだしね。ヴァンパイアハンターとかが存在して討伐対象になるのも嫌だし。


「……ま、目撃者は誰もいなくなるから関係ないんだけどね」

「おいおい坊ちゃん。なに訳のわからないことを言ってんだよ」


 不用意に近づいてきた盗賊の一人が僕の肩に手を回してきた。

 とりあえず静観。


「お前も運が悪かったな。逃げてきたのかただの迷子なのか知らねーけど。俺らの前に姿を現したのが運の尽きだ。大人しくしていれば丁重に扱ってやるよ」


 僕の身なりを見て奴隷が逃亡してきたとでも思ったのか、盗賊の男はそんな戯言をのたまう。


「僕は売られるの?」

「おーう、そうだぜぇ。ボクちゃんは売られちまうんだ。娼館で男娼として生きていければ御の字、変態貴族に買われたら御愁傷様っていう輝かしい未来が待ってる」

「……ふーん、そっか」


 人攫いにあった子供が奴隷になるとそんな未来になってしまうのか……思った以上に過酷な世界なんだな、ここは。


「じゃあ、やっぱりおじさんたちは悪い盗賊ってことでいいんだね?」

「――え? あ、お、おう。そうなるな」


 脅しているつもりだったのだろう。

 僕の態度が変わらないことに戸惑っている。

 彼らは僕のような子供を見たことがなかったらしい。言い換えればここで泣き出すような子供は見たことがある、と解釈することもできる。


 つまりはクズだ。


「――はは」


 そして僕の獲物だ。


「やったぁ」

「――っ!?」


 盗賊の男に笑顔を向けたらバケモノにでも遭遇したかのような血の気の引いた顔をされてしまった。失礼な男だ。


「離れろ! ロッズ!! そのガキ! なんかヤベーぞ!!」


 正面にいた頭領らしき男が吠える。


「え、あ、ああ……」

「どうせオスのガキに構ってる暇なんて俺たちにはねえぞ! 数日後には村を襲って女どもをさらって――」

「村? もしかしてパルテア村?」


 僕の疑問に返ってきたのは舌打ちだった。


「お前あの村のガキか? なんでこんな離れた森の中にいやがる。いや、そんなことはどうでもいい。どっちにしろ生かして帰すわけには行かねーからな」


 あー……なるほど? この盗賊団はたまたま居着いた訳じゃなくてウチの村を襲うために準備していたってことか。

 リズリィやジンとセレナがいる僕たちの村を襲うためにここで野宿してるんだ?

 へぇー?


「僕を殺すの?」

「騒ぐなら殺す。逃げられて警戒されるのもめんどくせーから足の腱も切る」

「悪党じゃん」

「盗賊だからな」

「じゃあ、殺していいよね?」

「――は?」


 頭領が間抜けな顔を晒した直後、僕は隣にいたロッズという男に対して手加減無しの本気パンチを放った。

 その瞬間――およそ人間が出した音とは思えない破裂音と共に風船が割れたように血肉が周囲に飛び散った。


「うわあ!?」


 ちょ、ちょ、ちょっ!? これは予想外だ!

 男を殴って吹っ飛ばすつもりだったのに! 跡形もなく爆発してしまった!

 汚い!!


「うえ、最悪。魔力を込めすぎたのかな? 魔力が干渉しあって体が耐えきれなくなった……とか?」


 隣にいた僕は血肉爆弾をもろに受けてしまったので全身返り血塗れだ。


「魔力を纏ってて助かったなー。体の汚れは川で落とせそう。ローブは……まぁ、適当に森で拾ったボロだからいいか」


 ん? うわ、危ねえ~!

 ズボンはそんなに汚れてない! 助かったぁ。

 ジンの古い服を拝借してるからあまり汚したくなかったんだ、これ。


「何が、起こった……?」


 呆けていた盗賊団たちが遅れて反応する。


「なぁ、おい! ロッズ! どこにいる!?」

「なんだよ今の爆発音……。それに、なんであのガキ、血塗れなんだよ……!」

「ガキ! お前、何をした……?」


 どうやら僕の本気パンチを目視できなかったらしい。

 なるほどなるほど? そこら辺にいる盗賊程度じゃ僕の現段階の本気は目で追えないスピードなのか。そして防ぐことも不可能、と。

 警戒しすぎたかな?


「僕が殴っただけだよ。そしたら破裂した」


 とりあえず事実を教えておく。


「なぐっ!? は、はぁ? バカ言ってんじゃねーぞ!!」

「いや、本当のことなんだけど……」

「しかも破裂しただと!? 馬鹿馬鹿しい」

「ね、僕も驚いちゃった」

「てめえがやったって言ったんだろうが!! てめえが驚いてんじゃねえよ!!」


 頭に血が昇ってるのか盗賊たちから語彙力が消失していく。

 だって魔力を込めて本気で殴っただけで人が破裂するとは思わないじゃん。自分の力量をはかるにしても肉体言語によるコミュニケーションは必要不可欠。裏人格の僕にはこういった機会が圧倒的に不足しているんだ。

 ――ってことで、次に行こうか。


「対話だ」

「は?」


 適当な盗賊の懐に潜り込み、身長差を活かして突き上げるように掌底を打つ。

 狙いは顎。


「う~ん、難しいなー」


 魔力をさっきのパンチの半分に抑えたが、それでも威力が高すぎて頭だけが空の彼方へと飛んでいってしまった。顎を砕くだけにするつもりだったんだけど全然思い通りにいかない。


「ひ、ひぃいいいい!? く、首が、首が無くなって」

「こいつ、いつの間に!?」


 首から上を失った盗賊の体が倒れ、それを機に他の盗賊たちが僕から距離を取る。


「コミュニケーションだ」

「さっきから、何を言ってるんだ……?」

「僕は君たちと拳で対話する。そのコミュニケーションを通して、僕は手加減って言葉を覚えようと思う!」

「なんなんだお前は!」


 なんか盗賊が発狂している。


「だから【吸血鬼】だって言ってるでしょ。それともヴァンパイアって名乗ったほうがいい?」

「だから知らねーって言ってるだろ!!」


 今度は盗賊の方から仕掛けてきた。


「ほい」


 ナイフによる急所への一撃を回避し、その腕を絡め取って折る。


「ぐぎゃ」


 今度は自分が普段自己防衛のために使っている最低限の魔力を使って格闘戦をしてみた。

 これが意外にも相手が善戦してくれて、僕が二、三十発殴る間に四回だけ反撃をしてきた。


「やるじゃん! でもそんなんじゃ僕には届かないみたい」


 手刀で心臓を突き、引き抜く。

 ボコボコに殴られた顔は原型を留めていないほどぐちゃぐちゃだ。


「うわ、さすがに血だらけになってきた。今度からはもう少しスマートに倒せるようにしたほうがいいかも」

「……」


 まだ八人ほど生きているはずなのに妙に静かだった。周囲を見渡すと腰が抜けて動けなくなってる男やすでに生きることを諦めて座り込んでいる者がほとんどだった。


「……助けてくれ」

「ん?」


 盗賊団の頭領が少し離れた所で頭を下げている。


「お前が望むものはなんでもやる! 金でも食料でも女だって調達してみせる! だから命だけは勘弁してくれ……!」

「頼む……!」

「お願いします!」


 残った盗賊たちが土下座みたいな姿勢を取り始めた。

 この世界にもあるんだ……ってそんなことは今はどうでもいいか。


「……ふむ」


 命乞いかー。

 別に受け入れるつもりなんて毛頭ないから無視しても構わないんだけど……戦う意志のない人達を手にかけるのもなー。

 体裁が――ってここにいる全員を消すつもりだからそんなの気にしてもしょうがないんだけどね。


「あそこにある馬車」

「……?」


 僕が指差した方向には小綺麗な馬車があった。荷台には大量の箱がありいかにも商人が使うような運搬用の荷馬車だと一目でわかる。


「あれってあんたたちの?」

「あ、ああ! ここに来る前に襲った商人の馬車だ。あれが欲しいのか!? 好きなだけ持って――いや! 全部だ! 全部やるから俺たちを――」

「商人はどうしたの?」

「……は? そんなの殺しちまったけど……商人の親父一人なんて腹の足しにすらならねえからな」


 なに当たり前のことを聞くんだみたいな顔をされた。

 

「命乞いしてた?」

「そりゃあ……――」


 と言いかけて頭目は僕が何を言いたいのかわかったらしく顔を青くして首を振り始めた。


「いや、いやいやいや! 待て待て! 待ってくれ! 関係ないだろ!? 俺たちが馬車を襲ってお前に不利益が生じたか? 俺たちの仲間を殺しておいて今更正義面するつもりか!」

「正義面? 僕が正義だって? 面白いことを言うね」


 なんか勘違いされてしまった。

 ちゃんと訂正してあげないと。


「大丈夫、安心して。僕は正義なんかじゃない。だからあんたらを罰するつもりなんて毛頭ないよ」

「だったら――」


 指を立て、黙らせる。


「僕は悪だ。あんたらと同じ悪になったんだ」

「……俺たちの仲間ってことか?」

「なにそれ? 面白い冗談だね」


 顔が引き攣っているから本気ではなさそうだけど。


「わからないかな? 悪党の僕はあんたらの命乞いなんて興味ないってこと」


 それが引き金だった。

 盗賊たちは雄叫びを上げながら僕に突進してきた。

 何を言っても無駄だと理解したのだろう。


「最初っからそうすればいいんだよ。獣化モデル【狼】!」


 ◯●


「さーて戦利品は何かなー?」


 向かってきた盗賊たちを全て返り討ちにした僕は残された遺留品と商人の馬車を物色していた。

 なぜこんなことをしているかというと、僕の倫理観が異世界に染まった――のは勿論だけど、この記念すべき初戦闘がものの数分で終わってしまい手持ち無沙汰になったからである。


「金目の物は隠れ家の洞窟に保管してっと、食料は……日持ちしそうな物だけ持ってくか」


 盗賊戦はもう少し苦戦するかと思った。

 でも全然そんなことはなく、寧ろあまりにも強すぎて逃げ出そうとする盗賊もいたくらいだ。

 当然、見逃してあげる義理もないので一瞬で背中に追いついて狼の爪で引き裂いてあげた。


 僕は付近の魔物との戦闘にはもう慣れてしまったけど対人戦闘はこれが初だった。


 でも意外と普通に戦えた。

 剣やナイフを握っている人間の対処法をまるでわかっているかのように動くことができた。

 身体(・・)が戦い方を覚えていたんだ。


 たぶんルヴェルの記憶が身体に染み付いていたからできた芸当だ。思いがけない収穫だし彼が強くなれば僕にも恩恵があると思うと心が躍る。


「……お、盗賊たちが使ってた剣とナイフか」


 手に取り軽く振り回してみる。

 

「やっぱり手に馴染んでる気がする。ルヴェルにはこれからも頑張ってもらおう」


 ってことで武器や防具も一通り回収っと。

 いつか使うかもしれないし、いらないなら遠出した時に町とかで売ればいい。

 裏人格の僕は仕事に就くのも難しいだろうから、今のうちにこうやって資金を調達しておく方がいいだろう。

 ルヴェルのお金に手を付けるわけにもいかないしね。

 

「そう考えると……盗賊狩りって最高だな!」


 盗賊たちから身ぐるみを剥がし、あらかじめ地面に掘っていた穴に転がす。

 死体を放置するとこの世界ではアンデッドとなって魔物化するらしい。だからちゃんと埋葬……というか燃やさないといけない。

 ってことで火種を、ぽいっ。


 戦利品を洞窟に運んでいる間に燃えてくれるだろう。何回か往復しないといけないから時間もある。

 ……あれ? 賊討伐をするより後始末の方が大変じゃない? 


「掃除や運搬に便利な獣化でも探すか……」


 なんとも夢のない獣化の使い方。

 僕はあーでもないこーでもないと頭を悩ませながら荷物を運ぶ。

 そして日の出前に全てを片付け、帰路に着く。


 僕の賊狩りライフはここから始まるのだった。

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