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エピローグ 剣を振る、爪を研ぐ

 あれからすぐ駐屯騎士たちがルヴェルとゼナヴィアを発見してくれた。

 まぁ、駐屯騎士といってもルヴェルの両親(ジンとセレナ)だったんだけどね。あとは村の自警団員が3人にそれに紛れて領主の男――ゼナヴィアの父親が同行していた。


 娘のピンチにじっとしていることができなかったらしい。

 当然、領主は自身の護衛も引き連れていたのでさらに人数は増え、領主の護衛2人を合わせて合計で8人が救援に来たというわけだ。


 領主は気絶した我が子(ゼナヴィア)を見つけると脇目も振らずに駆け寄っていた。


 あれは子煩悩の塊だね。

 ゼナヴィアも「父は心配性だ」と語っていたけどそれでもまだ子供の前だから猫を被っているのだろう。

 言葉数は少ないけど手帳とかに家族の写真とかを忍ばせてるタイプとみた。

 この世界にはまだ写真がないから絵とかかもしれないけど。


 んで、ルヴェルはセレナが、ゼナヴィアは領主が、護衛の男は自警団員の1人がおぶり、領主の護衛に守られながら村に帰還。ジンたちは現場検証のためにその場に残った。


 あとは思惑通りの展開。

 軽傷だったルヴェルとゼナヴィアはすぐに目を覚まし、ついでに護衛の男も遅れて目覚めた。


 事情聴取みたいなことをして状況が整理され、現場検証から帰ってきたジンたちと事実のすり合わせが行われた。


 最終的にルヴェルたちがオーガを退けた――という結論に落ち着いた。

 要約はこうだ。

 ルヴェルとゼナヴィアが戦い、そこでオーガの手首を切り落とした。

 手傷を負わせたことでオーガは逃げ、2人は無事に生還することができたのだ。

 めでたしめでたし、と。

 うん。至ってシンプルでわかりやすい。


 僕の描いた脚本通りにことが進んでくれて嬉しいよ。

 ただ、本人たちは先に逃げ帰ってきたバルドたちを含め、親たちにこっぴどく叱られてしまったけどね。

 その代わり子供の時分でオーガに遭遇して生きて帰ることができたのは奇跡だ、と大袈裟に喜ばれもしていた。

 なんだかんだ親たちも甘い。


 ちなみに、オーガが言葉を話していたという訴えはルヴェルたちの勘違いということになった。

 恐怖のあまり叫び声が言葉にでも聞こえたのだろう、と。

 2人は不服そうにしていたけど残当――残念ながら当然の結果というやつだ。


 魔物が言語を扱うなんてありえない。

 それが常識だし、信じてもらえないのはしょうがない。

 実物と会話をしていた僕でさえ夢みたいな状況だった。実際に自分の目と耳で確かめないとアレを信じようとは思わないだろう。


 しかもさらに付け加えてスキルまで持っていたのだ。わけがわからないよ。

 もしかしたら世界が震撼するほどの大事なんじゃないだろうか。


 ……そう考えると殺すのは勿体無かったかな?


 なーんてね。

 基本的に夜にしか活動できない僕には手に余る相手だ。

 それに猫姉妹だけでも一杯一杯なのに最近は彼女たちの里の獣人が懐いてきて「稽古をつけてください!」と懇願に来る始末。僕の手に負えるような集団じゃないのに……ミヤとシアが(かしら)の娘だったから余計ややこしく――うん、考えるのやめよう。


 そんなことよりルヴェルだよ、ルヴェル。

 彼は今、1人で剣を握っている。


『待っててね、ルヴェル! 入学前に必ず迎えに来るから、その時までにもーっと強くなってて。約束だよ?』


 別れ際、ゼナヴィアがルヴェルにかけた言葉だ。


『あたしも負けないように頑張るから。だからまたユニゾンしよ?』


 領主と共に街へと帰ったゼナヴィアはそんな言葉を残していった。

 契約は成立。

 ルヴェルは騎士学園にゼナヴィアの従者騎士として飛び級で入学することが確定した。

 オーガからゼナヴィアを守った功績を認められたため、彼女の意見が領主に通った形だ。


 ルヴェルも拒まなかった。

 たぶんゼナヴィアがルヴェルのことを“期待”しているから。


 だからルヴェルはまた剣を握っている。

 能無しと周囲から蔑まれていた自分を、その剣術を、認めてくれた彼女に応えるために剣を振る。


「鬼神流・奥義『(たき)斬り』」


 大上段に剣を構えて踏み込みと同時に一直線に振り下ろす剣技。

 ただただ真っ直ぐに斬る――というシンプルでありながら高い技量が必要な技。そこにルヴェルは全身全霊の筋力と魔力を込めて、振り下ろした。

 一刀両断。

 目の前にあった巨岩が縦に真っ二つ切り裂かれる。

 オーガと戦う前にはできなかった芸当だ。

 それどころかバルドたち同年代の騎士見習いには絶対に真似できない威力だ。ジンとセレナでさえスキルを使用しないと再現はできないだろう。


 どんなに魔力を込めても壊れない体。

 それが僕が鍛え上げた体であり、僕たちの力だ。


「……っ」


 魔欠となったルヴェルが立ちくらみを起こしたように片膝をつく。

 魔力総量が追いついていないルヴェルでは本気の『瀧斬り』一太刀が限界のようだ。

 でも問題ない。


「昨日より、辛くない……魔力量がもう増えてる」


 魔力を使い切るように放つ。回復したらまた使い切る。それを繰り返す。

 その鍛錬を続ければ成長することができる。


「俺はまだ……強く、なれる……!」


 この理と魔力を込めすぎても壊れない体に気がついたルヴェルは、彼の宣言通りこれからさらに強くなれるだろう。

 それこそまさにスキルすら必要ない、剣術一本の最強の騎士になれるかもしれない。

 

 ルヴェルと僕にとって強敵(オーガ)との遭遇は僥倖だった。

 領主の娘(ゼナヴィア)にも気に入られて力も得られた。

 将来は盤石と言っても過言ではないだろう。

 いつかルヴェルとゼナヴィアを見ながら「こいつらユニゾンしたんだ!」と泣く日も近いかもしれない。

 

 なんちゃって。

 とりあえずルヴェルが表で頑張っている間は、僕は陰の立役者としてこれからも好き勝手にやらせてもらうよ。アトミックはできないけど爪を研いで待つことぐらいなら裏人格の僕でもできるから。

 それが狼の爪なのか、鴉か、吸血鬼か、土竜か、はたまた虫か、どんな獣の爪になるかはわからないけど、時が来たら存分に振るわせてもらうさ。

 

 それこそ、自由に、ね。

 


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