表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/19

オーガ対獣化

「ナンダ、ソノチカラハ……!?」


 見上げるとオーガが驚愕の表情を浮かべていた。

 鬼の顔だけど意外とわかりやすい。

 魔物でも驚く時は一緒なんだね。


「魔力で筋力を強化しているだけだよ。さっき見せて手首を落としてあげただろ? その力を常時発動しているのさ」


「ソンナコトハワカッテイル! ダガ、コレハ……!」


 おや、どうやら魔物でも魔力の使い方は常識だったらしい。

 ――って当たり前か。

 魔物は魔力を持っているから魔物って名前なんだしな。自分の武器の使い方くらい知ってるか。


 殴った拳が全く動かないこと、僕が吹き飛ばないことに驚いているのか。

 ノーガードで全身で受け止めたからね。

 異様に映ったのかもしれない。


「オマエハ、ホントウニサッキノオスナノカ?」

「勘がいいな。言葉が話せる魔物はやっぱり頭もいいってことか。――興味深いね」

「!?」


 オーガが飛び退いて僕から離れて行った。

 振られてしまった。

 残念。


「キケンダ。ホンキデイク」

「減らず口まで叩ける知能があるのか。どうせならもう少し――」

「『豪傑』」

「――は?」


 え? 今、豪傑って言った? もしかしてスキルの『豪傑』か?

 恐怖心を緩和し、筋力を増大させる、あの……?


「フハハハハ! ワシガオソロシイカ!」

「喋るだけじゃなくてスキルまで使えるのか。なんなんだお前は、本当に魔物なのか?」


 どうやら口から出まかせというわけではないようで、本当にスキル『豪傑』を使えているようだ。

 筋肉が隆起し、僕に対する恐怖も薄れている。


「オマエヲコロシテクウ! ソシテメスハカイシュウスル」

「回収してどうするつもりだ」


 まさかあんなことやこんなことをするつもりか。

 お天道様が許してもこの僕が許しはしないぞ。


「アノメスハメズラシイスキルヲモッテイル」

「……へぇ」


 なんだ違うのか。

 でも、聞いてみるもんだね。

 思わぬ収穫だ。

 まさかゼナヴィアを連れ去ろうとしている理由がスキル(そっち)のことだとは思わなかった。

 メスとかいうからてっきり……は冗談だとして、魔物だから人間なんてオスとメスの区別しかつかないのかもしれないね。


 例えば僕もヒヨコが並んでても区別できないし。

 あれ? 待てよ? 珍しいスキル持ちを攫おうとしてるんだよな?

 目の前にもいるのに。

 ついでに確認してみるか。


「僕には興味ないんだ?」

「ココノコドモノオスニホシイスキルハナイ」

「なるほどね」


 つまりルヴェルたちのことを知っていた、と。

 僕の存在はバレてないようなので一安心だ。

 でもここに視察に訪れたばかりの領主の娘(ゼナヴィア)を狙った、ってのがきな臭い。

 計画犯だわ、これ。


「誰かに命令されてる?」

「……」


 返事ではなく拳が飛んできた。

 はい、確定。


「オシャベリハオワリダ」

「せっかく話ができるのに勿体無い」


 飛び退き、距離を取る。

 警戒されたか。

 これ以上会話しても情報は得られなさそうだ。

 探偵ごっこは終わり。

 それに長話が過ぎると今度は駐屯騎士たちが救援に来てしまう可能性もある。

 遊んではいられない。


「でも、せっかくなら実戦訓練はしておきたいよね」

「……ナニヲイッテル」

「僕も少し、本気をだすって言ってるの」

「ヘラズグチヲ」

「スキル『混合獣化』――モデル【甲鎧混蟲(インゼクター)】」


 青黒く輝く装甲が全身を覆う。

 カブトムシやクワガタなどの甲虫を想起させるような鎧にライダーを彷彿とさせる仮面。

 これが僕が編み出した『獣化』スキルの一つの可能性。

 ただの昆虫に獣化するだけでは物足りなかった。というかキモかった。人間大の虫の頭部とかデフォルメされてないと生理的に無理。

 だから僕は人知れず試行錯誤を重ね、アレンジにアレンジを加え『混合獣化』という形で『獣化』スキルの分岐能力を発現させることに成功した。


混合(こんごう)獣化(じゅうか)


 獣化できる生物の特徴をその名の通り混ぜ合わせて1つの獣化(すがた)にしてしまう能力。

 要は混合獣(キメラ)化だ。

 今の僕はあらゆる昆虫の力を収束させた獣の姿になっている。

 まるで特撮に出てくる怪人のような見た目だ。

 硬い甲殻、カッコよさに全振りの角(用途なし)、肘や膝、そして踵には刃が、両腕と背中には可変式の刃が仕込まれている。


 特にお気に入りなのは背中の刃だ。

 動かすと翼の骨格のように刃が開いてカッコイイ。

 もちろん飛べないけどね。そこは重要じゃないし、その気になれば足で跳べるし飛べるから関係ない。

 大事なのは悪役が好きな僕にぴったりな凶悪なフォルムが完成したという事実だけ。


 あの特殊なオーガでさえあまりにも禍々しい僕の姿に恐れ戦き言葉すら出ないみたいだ。

 せっかくお喋りができる魔物だったのにそのアイデンティティすら失ってしまったようだ。

 なんて罪な男なんだ、僕は。


「……オマエハ、ナンナンダ」


 普通に話しかけてきた。

 意外と余裕はあるらしい。

 でも、「何の虫に獣化してるんだ?」とか聞かれなくてよかった。

 いいとこ取り獣化だから虫たちの原型なんてもはやあってないようなものだし。


「オマエハ、ダレダ」

「どう考えてもそれはこっちの台詞だと思うんだけど……いいよ、答えてあげる」


 ま、せっかくだ。

 こんなこともあろうかと名前はもう用意してあるから披露してあげよう。


「プロテア」

「……」

「誰にも呼ばれない僕の名前だ。冥土の土産に刻んでいくといい」

「ナニヲ――」


 鬼神流・戦技『根斬り』。


「グアアアアアアアアアアアア!」


 右腕を切り落としたらオーガが悲鳴のような雄叫びを上げた。


「さすがルヴェルだ。この姿でも身体が覚えている」


 腕から生えている可変式の刃で鬼神流を扱ってみたけどなんとかなるもんだ。

 でもやっぱり剣を握らないと違和感が激しいな。

 ――よし。


「こんなもんかな」


 可変式の刃を即興でアレンジして手で握れるようにした。これで鬼神流も馴染むだろう。


「バケモノガ」

「それはお互い様だろ?」


 落ちていたオーガの腕を投げつける。

 ゼナヴィアの教えを守って横投げをしたら見事に顔に命中した。

 本日二回目の目潰しだ。

 そして隙だらけになったオーガの首を狙い、踏み込み、刃を振った。


「鬼神流・奥義『蕾斬(らいき)り』」


 ルヴェルが振るうはずだった神速の一撃。

 片手で剣を横薙ぎに振って、間合いの遠い相手の首を落とす一撃必殺の剣術。

 オーガのように図体のでかい相手にも有効であり、獣化した僕にはちょうどいい間合いだった。


「ガ――カ?」


 斬られたことがわかっていなかったのか。

 オーガは最初、不思議そうな顔をして首を傾げようとした。

 だけど首はすでに胴体と離れており、花の蕾がぽとりと落ちるように地面へと転がり落ちた。

 さすが(ルヴェル)だ。いい腕をしている。これも訓練の賜物だね。


「僕の――いや、僕たち勝利だ」


 獣化を解除して元の姿に戻る。

 また服がボロボロになってしまった。ま、あれだ。オーガに襲われたんだから服ぐらい破けるさ。大事なところは隠せているから問題なし!


「キキョウ、リシア。いるんだろ?」

「はい。ここに」

「もっちろん!」


 どこからともなく現れた猫姉妹が目の前で片膝をついていた。


「周囲に人は?」

「つい先ほどベルきゅ――ルヴェル様の父君率いる駐屯騎士団が森へと足を踏み入れました」

「予想より早いね」

「逃げだした2人がすぐに助けを呼んでました!」

「さすがに良心が咎めたか。時間はないな。よし、2人ともオーガの処理を手伝ってくれ」

「どのようにいたしますか?」

「ルヴェルたちだけじゃ勝てない相手だった。だからオーガが逃げたことにする」


 僕は後始末のために指示を出した。

 ルヴェルが切り落とした手首だけをこの場に残して、あとは全部キキョウとリシアに運んでもらう。

 そして人目のつかないところでオーガの死体を検分。オーガが言葉を話せた理由、スキルを扱えた謎。それらに繋がる情報を探し出し、今日中に燃やして終わり。

 ぱっと見なにも持ってなさそうなので期待はできそうにないけどね。


 あとはゼナヴィアだけど……うん、気絶しているだけで目立った傷もなし。

 でも顔にちょっと擦り傷があるな。

 これだけは治しておこうか。

 跡が残ったら大変だしね。


「ん……」


 魔力を帯びた指で傷をなぞり、癒す。

 可愛らしいうめき声が少しだけ上がったけど起こしてはいない。


「ルヴェルは……いっか。大して怪我もしてないし勲章だと思ってもらおう」


 人格の主導権を手放すとルヴェルの体が力なく倒れた。

 これで裏工作は完璧。

 すぐに訪れるであろうジンたちにはルヴェルたちがオーガに一矢報いた状況のように見えるだろうし、勝手に都合よく解釈してくれるだろうさ。

 まったく、手間のかかる相棒たちだよ。君たちは。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ