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オーガ対ルヴェルとゼナヴィア

 ルヴェルによる先手、鬼神流・戦技『根斬り』がオーガの二の腕に捉える――が、


「浅いっ!」


 舌打ちし、ルヴェルが飛び退いた。

 ルヴェルの不意の一撃は確かにオーガの腕を捉えていた。だけどそれはゴブリンの腕のように切り飛ばすことは叶わなかった。

 それどころか撫斬りにしただけで、青い皮膚に赤い線が流れただけだった。


 オーガはルヴェルのことを目で追うことができていなかった。実力は十二分に発揮できている。

 でも、一押しが足りない。

 筋力。そして魔力不足だ。

 本当はもっと魔力を込めて剣を振っていいんだ。

 それに耐えられる体は僕が作っておいた。だから後はルヴェルが全力で魔力を込めれば斬り飛ばせるはずなんだ。


「フン!」

「ぐあ!?」

「ルヴェル!」


 オーガに殴られルヴェルが吹き飛ぶ。

 残神流の戦技で受け流そうとしていたようだが勢いを殺せず地面へと転がされてしまった。

 もどかしい。

 一瞬だけ僕が表に出て戦うか?

 でも目撃者(ゼナヴィア)に対する都合のいい言い訳が思い浮かばない。

 ルヴェルも不審に思うだろうし下手なことをして僕の存在に勘付かれるのも面倒だ。


「これはどう!?」


 ゼナヴィアが懐から取り出した小袋をオーガに投げた。

 ぶわっ、と袋の中身が散り、煙のように広がる。

 特製の目潰しだったのかオーガが大きく怯み顔を手で覆った。

 時間稼ぎ用の催涙剤なのか、回復が遅い。


「グオオオオオオオオ!」


 オーガがすぐ近くにあったゴブリンの死体を振り回し始めた。

 まさか千刃流か!?

 ――ってのは考えすぎで、近づかれないためのただの牽制だった。

 腕を投げられたり身体を武器にされたりとゴブリンも踏んだり蹴ったりだな。

 不憫だとは思わないけど。


「ルヴェル! 大丈夫!?」


 ゼナヴィアが駆け寄ってきた。


「ああ、問題ない」

「鬼神流の剣は通じそう?」

「難しいな。普段の魔力配分だとどこも切り落とせないと思う。一撃に全魔力を込めるか、もしくは流派に関係なく眼を狙って視界を奪うか、勝機はない」

「ルヴェルの剣が通用しないならあたしの剣も通らないと思った方がよさそうだね。あの催涙弾はもう二袋しかないから、そのつもりでいてね」

「了解した」


 ルヴェルが戦線へと復帰し、戦闘が再開される。

 ゴブリンには有効だったルヴェルとゼナヴィアの『連携領域』によるコンビネーション。

 オーガの猛攻を掻い潜り、足を、腕を、腹に背を、斬りつけていく。

 だが――効かない。


「だめ! 全然刃が通らない!」

「こっちもだ! くそっ! どうして俺は、こんな――」


 善戦はしているがそれだけだ。

 ルヴェルは歯痒そうに顔を歪ませている。スキルがないというコンプレックスを改めて実感しているのかもしれない。

 そしてそれを補えるほどの実力がないことに嘆いている。


「ウットオシイ!」

「――あぶなっ!?」


 オーガがゴブリンを投げ飛ばし、ルヴェルがバランスを崩しながらも紙一重でかわした。

 地面に身を投げ出すように避けてしまった。

 ゼナヴィアと距離が開き、彼女が無防備に。

 まずい……!

 ――でも……好都合だ。


「ぁ――」


 ゼナヴィアが殴り飛ばされた。

 オーガに――ではなく、僕に。


「――」


 ゼナヴィアが声にならない悲鳴を上げ、後方に吹き飛ぶ。


「かはっ」


 そして大樹に背中を叩きつけられて停止すると、ずるずると滑り落ちるように地面へと倒れ伏した。


「ゼナヴィア! おい! 返事をしろ!」


 普段なら絶対に出さないであろう大声でルヴェルが彼女を呼びかける。

 ルヴェルには彼女が殴り飛ばされて気絶したようにしか見えないだろう。

 だけど実際は違う。


 僕がめちゃくちゃ干渉している。

 オーガの一撃をもろに受けるタイミング。

 僕はこれ幸いと魔力霊体で割り込み、オーガの拳を受け止め、ゼナヴィアの意識を刈り取りながら“優しく”彼女を吹き飛ばしたのだ。


 見た目は派手に飛んだけどほとんど怪我もしていないはずだ。魔力で身体を覆ってあげたから身体を打ち付けた衝撃も緩和されている。


 これはよくキキョウとリシアの修行中に使っている僕の小技みたいなものだ。

 手合わせ中に怪我でもしたら大変だからね。

 手加減もお手の物さ。


「ゼナヴィア!」


 事情を知らないルヴェルにとっては看過できない状況だろうけど。

 でも許してくれ、2人とも。

 あとはタイミングを見てルヴェルも気絶させる。

 そうしたら僕がアレを倒すから。

 これが最善なんだ。


「――許さない」


 一瞬、僕に言ったのかと思った。

 でも違った。

 ルヴェルが目を細め、オーガを見据えていたからだ。

 呼吸を整え、最後に大きく息を吸う。

 そして、


「ふぅ――――――――」


 剣を構え直しながら長く息を吐き続け――静止する。

 次の瞬間、


「――」


 全力(・・)の魔力を込めたルヴェルが剣を振り抜いていた。

 後先を考えていない限界を越えるような魔力の出力。

 ……それだ。

 それだよ、ルヴェル!


「ガアアアアア!? テガアアアア! ワシノテガアアアア!」

「鬼神流・戦技『葉斬り』」


 オーガの左手首から先が切り落とされ鮮血が散っている。

 さっきまでしょっぱい切り傷しか与えられなかった剣撃とは比べ物にならない。

 痛烈な一撃。

 待っていた。

 僕は待っていたよルヴェル。

 君が本気をだすこの瞬間を。


「なん、だ? この力は……?」


 ルヴェルは戸惑っていた。

 魔力配分を無視した全力の一撃に、自分の身体がついていけることに。

 本当なら過分な魔力を人体に込めすぎると耐えられない。筋肉が裂け、全身から血が噴き出るなんてざらだ。

 僕も最初の頃はやばかった。


「なんで耐えられるんだ」


 やばかった時期は僕でとっくに済ませたからだ。

 徹底的に鍛えあげた僕たちの身体だ。

 それが君が今まで気づかなかった僕たちの本当の力なんだよ、ルヴェル。


「これなら――」

「シネエエエエエエ!」

「くっ」


 オーガの大振りがルヴェルの体を掠める。

 ルヴェルが距離を取り、剣を構えた。


「鬼神流・奥義『(らい)――」


 ルヴェルが修得している戦技の中でも最上位の技。

 だが、途中で崩れた。ルヴェルの足が力をなくしたようにカクンと膝をついたからだ。


 魔欠(まけつ)か。

 魔力を使いすぎるとどうしようもない脱力感に襲われ立つことも困難になる。

 貧血の魔力バージョンのようなものだ。

 さっきの一撃に全力で魔力を使った証拠であり、もう戦えないという合図でもある。


「こんなことなら、先に、首を狙っておけばよかった」


 意識が落ちる寸前なのかルヴェルが辛そうに愚痴を吐いた。

 どうやらここらが頃合のようだ。


「オマエハヨワイ!」


 オーガが急に負け惜しみみたいなことを言い出した。

 おいおい、手首を切り落とされておいてそれはないだろう。


「ナゼ、ニゲナイ」


 それはあれか?

 オーガ(ワシ)が用があるのはゼナヴィア(メス)だけなんだから邪魔をせずに逃げとけよってことか?

 無茶な話だ。

 ルヴェルが逃げない理由?

 そりゃ勿論あれよ。

 男の子だからよ。


「……別に特別なことはない」

「……」

「だからだ」

「ア?」

「彼女は俺に同情したり哀れんだりしなかった。最初から普通に接してくれた」


 限界のはずなのにルヴェルが立ち上がった。

 並の胆力では指を動かすものやっとの状態なのに。


「だから、守る。俺がゼナヴィアの従者騎士になるために」

「ソウカ。デハ、シネ」


 オーガの拳が迫る。

 切り落とされてない右手の拳だ。

 今のルヴェルの状態じゃ避けられない。

 潮時か。


 じゃあ、ここからは――


「僕の時間だ」



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