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夜の急襲(意味深)

 さて、夜が来た。

 つまりは僕の時間だ。

 稽古に熱が入りルヴェルとリズリィはくたくた。

 夕食を食べ、一緒に風呂に入り、同じベッドでぐっすりと寝入ってしまった二人。水の節約とか部屋もベッドも少ない――という問題から今だに仲のいい二人だが、僕としてはそろそろ独り立ちしてほしいところだ。


 リズリィはあまり気にしてなさそうだけどルヴェルは恥ずかしそうにしているし頃合いだと思うんだけどね。

 毎回お姉ちゃんの弟大好きホールドから抜け出すのも神経使うのよ?

 まあ、お陰様で物音を立てない隠密行動にだいぶ慣れてきて、もはや天然の隠密スキルといっても過言ではないかもしれないけどね。


「ん、ん〜……? べ、る、くん?」

「うげ」


 過言だったわ。

 あかん、このお姉ちゃん。弟が好きすぎる……!

 こっちはそこそこ本気で抜け出してるつもりなんだけど、相変わらずよく気がつくな。

 というか年々感覚が鋭くなってる気がする。剣術の稽古や訓練の賜物かな? それとも弟愛が成せる技なのか。


「お手、洗い?」

「うん、そんなところ。だからお姉ちゃんは先に寝てていいからね」

「……」

「――あれ? 力尽きたのかな?」

「んーん、起きてますよ」

「そ、そっか。びっくりした。急に……黙る、から――」


 離したはずの手がいつの間にか握られていた。


「すぐに帰ってきてくださいね」


 心なしか真面目な声で言われた気がした。うつ伏せになって寝ているのでリズリィの表情は見えない。

 ん~気のせい……だよな?


「トイレから帰ってくるだけなのに大袈裟だよ」

「……」

「ん、今度こそ寝ちゃったのかな」


 返事がない。ただの姉のようだ。

 とりあえずいつものように手を戻して楽な姿勢になるように調整。最後に布団を被せてミッションコンプリート。


「おやすみお姉ちゃん。いい夢を」

「……」


 やっぱり返事がない。

 リズリィって糸目だから起きてるのか寝てるのかわからないんだよね、実は。なんなら開眼したところすら見たことないし。

 ……うん。

 寝た、ということにしておこうか。

 

………………


…………


……


 さてさて、夜が僕にとっての自由な時間であることは何年経っても変わらない。

 やりたいことやるべきことはたくさんある。

 将来の軍資金を確保するために賊を狩りに出かけたり、魔力操作や『獣化』の訓練も怠らない。

 獣化のスキルに関しては最近になって"新しい獣化”の仕方も開発して絶賛修行中。時間が足りなさ過ぎて困っているぐらいだ。


 ただ、僕にはもう一つ忘れてはならないことがある。

 それは――っと、どうやらちょうど襲撃に来たようだ。バルディーク家の家の中にまで侵入してくるなんて……今回は思い切ったね。僕の意表を突くために趣向を凝らすようになってきたじゃないか、関心関心。


「でも、残念。僕にはバレバレだ」


 月明かりによってできた家具の影。それが一瞬だけ揺らめくと、中から(・・・)小さな人影が飛び出してきた。


 背後からの強襲。

 僕は体を横にずらして、その死角からの一撃を回避する。


「!?」


 飛びかかってきた襲撃者が驚いたように振り返る。完璧だと思っていた不意打ちを避けられて動揺しているのだろう。ピンと立った猫耳が僅かに動いた。

 だが、それも一瞬だ。

 襲撃者である彼女は自分の影に沈み込むように姿を消した。


 まるで床が水面にでもなってしまったかのような光景だ。もちろん床は木材でできているから水なんてどこにもないし穴などが空いている訳でもない。

 これは彼女が持っているスキルによる能力の一部だ。


「シッ!」


 今度は暗い天井から雨漏りのように、襲撃者が僕の頭上にふいに落ちてきた。

 でも、


「惜しい」


 紙一重で彼女の爪を避ける。

 軽く反撃をしてあげようかと思ったけど彼女は床に着地することなくそのまま僕の影に着水するようにまた潜り込んでしまった。

 攻防一体の技か。なかなか考えたね。


(尻尾が掴めそうだったけど……前、触った時に変な空気になったんだよなー)


 弱点だと明言するだけはある。でもこれも課題の一つかな。後で指摘しよう……と、ん?

 足元に違和感があり覗いてみると影から生えた小さな手が僕の左足首を掴んでいた。


「なるほど、僕ごと影に引き摺り込む作戦ね」


 自分のテリトリーに招待して戦おうって魂胆か。普通の相手であれば両足が影に沈み込めば踏ん張ることはできないし、そのまま影の中に真っ逆さまだ。

 ただ、


「僕には効かない、よ!」


 魔力を右足に集中させて影ごと床を踏む。水の上すら歩くことができる僕にはこの程度の芸当はできて当たり前。

 ついでに左足を引っ張り上げるように蹴り上げて襲撃者を一本釣り。


「にゃっ!?」


 可愛らしい悲鳴が目の前で溢れた。

 くりっとした瞳が驚きに揺れている。引き摺り込むはずが逆に引っ張り出されるとは思ってもみなかった、という顔だ。


「終わりだ」

「うっ……!」


 掌底を顔面に叩き込む――振りをすると襲撃者が目を閉じてしまったので、そのままペチンとおでこを叩く。


「最後まで諦めない」

「も、申し訳ありません。若ひょわ!?」


 ソファーの上に押し倒すように彼女を組み敷く。

 月の光が襲撃者の姿を照らし出すと、そこには忍者のような装束を身に纏った美少女が現れた。


「準備運動としては上々かな。家の中で仕掛けてくるとは大胆になったね。キキョウ(・・・・)

「でも、若様には一太刀も浴びせることは叶いませんでした」


 キキョウが目と猫耳を伏せて見るからに落胆している。稽古をつけてあげている身としてはもっと厳しくするべきなのだが、こうもあからさまに落ち込まれるとついつい甘やかしてしまいたくなる。


「作戦は良かったよ。家の中じゃ派手な戦闘はできないし、大きな物音も出せない」


 なぜなら僕は正体を隠しているから。ルヴェルの家族にバレるわけにはいかない、という僕の背景をうまく利用し的確に弱点を突いている。

 僕のことをよく理解していなければできない作戦だ。


「だけど『影使い』のスキルを使うとどうしても魔力の予兆が発生する。それを感知できれば避けるのは容易い」

「それに気がつけるのは若様だけです」

「つまり僕みたいな敵がいたら通用しないってことだね」

「いません。若様より強い方なんて」

「買い被りすぎだよ」

「そんなことはありません。私のご主人様はいずれ世界をも掌握できる方なのですから」


 キキョウの手が僕の頬を包んだ。見た目は子供なのに僕に向ける瞳は情欲に満ちていた。

 これからキスでもするのかってぐらい距離が近い。


「若様……」

「キキョウ……――ちなみに色仕掛けは減点」

「きゃっ」


 キキョウを抱き上げひらりと身をかわす。

 それと同時に背後から可愛らしい「えいっ!」という掛け声と共に半透明の巨大な鎌がソファーに突き刺さった。


 『魔狩り』。

 スキルで生成した武器で魔力に直接ダメージを与えて相手を衰弱させるえげつない能力。ついでに魔物特効のおまけ付き。

 ちなみに物理的なダメージは与えられないのでソファーは無傷。突き刺さっているように見えているだけだ。


「キキョウのスキルを利用して影から転移してきたのはいいけど、姉ごと僕を斬ろうとするのはさすがにリスクが大きすぎるよ。リシア(・・・)


 スキル『魔狩り』の持ち主であるもう一人の襲撃者。

 半透明の鎌が消え、彼女が振り返る。


「だって、姉様が「私が若様を捕まえている間にまとめて斬りなさい」って」


 リシアはキキョウと同じ猫の獣人で大人の体をしている。

 桃色の長い髪にスラッとした手足。くノ一のような装束を身に纏っているせいで胸や腰回りなどの網タイツの部分がかなり扇状的になっている。


「それでキキョウが道連れにならずに倒しきれるならあり。でも今の攻撃じゃ僕の魔力は削りきれないでしょ? キキョウの魔力が枯渇して敵が元気のままじゃ意味がない。これも格上の相手には効かないよ」

「ぶー」


 不満そうだ。

 文字通りぶーたれている。

 リシアは見た目に反して子供っぽい反応をよくする。妹――というか末っ子気質なところが染みついているんだろうね。


「さて、夜襲の訓練はここまでにしようか」


 抱っこしていたキキョウを下ろす。


「二人ともスキルの扱いにも慣れてきたようだ。でも頼りすぎるのもよくない。魔力に頼らない暗殺術と魔力に依存した格闘術。その使い分け、メリハリをつけることが大事だ。その基本を忘れないように」

「はい! 若様!」

「うん! 主様!」


 僕の助言に気持ちのいい返事を返すキキョウとリシア。

 じゃあ、一段落ついたことだし最初の話に戻ろうか。


 僕のやりたいこととやるべきことの一つ。

 それは三年前に拾った獣人姉妹の育成だ。

 ミヤとシア――改めキキョウとリシア。

 今、目の前にいる襲撃者があの時の奴隷少女の獣人なのだ。


 眷属にすると決めた日。

 僕はあれから彼女たちの主として様々な訓練を施した。

 魔力操作に身体強化。能力の底上げを徹底的に行い、後は魔物や賊を相手にした実戦の日々。この夜襲もその訓練の一環。


 この世界で自由に生きるためには力が必要だ。

 だから彼女たちには僕と同程度――とまではいかなくとも足元にしがみつけるぐらいには強くなってもらいたかった。


 訓練の甲斐もあり、二人は立派な眷属として育っている。

 姉のキキョウは【吸血鬼】の能力【眷属化】により正式に僕の眷属となった。

 その際、彼女は猫獣人から吸血猫(ヴァンピィキャット)という種族に進化し、不老不死の体と僕と似たような吸血鬼の能力を手に入れた。吸血はもちろん血の刃も使える。


 そしてこれらは全部“僕のスキルスクロール“に載っていた情報だ。

 どうやら僕の眷属になると僕の能力の一部として情報がスクロールに追記される形式になっているらしい。

 なんともプライバシーの配慮に欠ける仕様だけど悪いことばかりじゃない。キキョウが『影使い』のスキルを持っていたこともこれのおかげで知ることができたしね。


 本人も「若様になら私の全てを見られても構いません」と頬を染めながら受け入れてくれた。

 うん。

 なんかニュアンスが怪しかったけど本人が了承してくれるならなんだっていいよね。


 で、そんなヴァンピィキャットな彼女は三年前から姿形が変わっていない。もちろん年はとって十四歳になりはしたが、不老の影響で身体の成長は止まってしまっている。


 今ではもう(ルヴェル)の身長の方が若干大きいぐらいだ。

 そしてその代わりと言ってはなんだけど妹のリシアはすくすくと育っている。


 獣人は成長が早いのか十四歳とは思えないほど出るとこが出て締まるところが締まっている。ボンキュッボンというやつだ。それも高校生というか大学生と紹介されても違和感がないほどの成長速度だ。


 そんでもって成長しているということは不老ではない証明でもあり、リシアを【眷属化】させていない――という話に繋がる。

 本人は眷属になることに前向きな態度を示している。というか「早くなりたい」と口癖のように呟いているが、キキョウに何か考えがあるのかリシアが十六歳になった時に改めて眷属にして欲しいそうだ。


 理由を聞いてみると「姉妹揃って低身長では色々と不便ですので」と冗談とも本気ともとれる言葉で誤魔化されてしまったが、あながち嘘でもないのだろう。


 ま、僕としてはいつでもいいけどね。

 この三年で彼女たちの人となりは知った。僕を裏切るような真似なんてしないだろうし、恩を仇で返すような子たちでもない。


 姉妹の忠誠心は本物だ。

 故郷に帰ることもできるのに僕の元で奉公することを選んだぐらいだ。それどころか里の家族に紹介したいから、と一緒に里帰りをしたこともある。


 あの時は衝撃的だった。

 まさか彼女たちの里にあんな秘密が……ってそれはいいか。服装がもう物語ってるし。

 

 そして極め付けは名前だ。

 二人の呼び名が変わったのはミヤの提案によるものだ。

 なんでも僕の眷属としての証が欲しいからとかなんとか。


 ほとんど強請られたようなものだけど、気持ちを無下にするのもなんだったので名づけることにした。コードネームみたいな感じでワクワクするし、僕も結構乗り気だった。


 ただ意外と言ったら思い上がりも甚だしいけど妹のシアは最初だけ渋っていた。

 僕に懐いてはいたけど親からもらった名前は捨てたくなかったらしい。


 ま、当然っちゃ当然の反応。

 それでいて乗ってこない(シア)(ミヤ)がたじたじになっていたのは傍から見て面白かった。

 だから、助け船を出す意味合いも込めてシアにはリシアと名付けた。


 よくあるReってやつ。

 Reシアでリシアね。

 安直だったかな?


 でもシアには好評ですぐにその新しい名前を受け入れてくれた。

 だからリシアにちなんでミヤのことはキキョウと呼ぶことにした。

 リミヤじゃないのかって? それこそ安直じゃないか。


 これでも僕は自分に名前がないことを不便に感じ始めていたんだ。

 名付けにもほんの少しこだわりがあるのさ。ほんの少しだけ、ね。

 僕の名前が呼ばれるような事態はまだないけど、慕ってくれる子たちの名前ぐらいこだわってつけてあげたいというのが親心というものさ。

 

「よし、じゃあそろそろいつもの(・・・・)始めようか」


 僕のことはさておき、晴れて僕の眷属となったキキョウと眷属予備軍となったリシア。

 まだ正式に眷属化していないリシアには関係のない話だけど、吸血猫であるキキョウにはある問題が常に付きまとっている。


「今日はこちらでされるんですか? でもご家族が」

「気にする必要はないよ。それに声が漏れないようにキキョウの影で部屋を覆ってるでしょ? なら問題ないよ」

「お気付きになられていたんですね」


 キキョウのスキル『影使い』は万能だ。

 彼女の影が他の影と重なるだけで干渉できるようになり影の中に音を逃がすこともできる。彼女の手にかかれば夜の暗い部屋は一瞬で防音室に早変わりだ。


「襲撃中も配慮してくれたんだね。それとも他の場所に移動できないほど待ちきれなかったのかな?」

「一週間に一度の、楽しみ、なので……」


 熱っぽい顔でキキョウが僕に近づいてくる。


「あ、あの」

「ん?」

「今夜は、その……若様は獣化されないのですか?」

「え? あぁー……そういえばルヴェルの姿のままだったか」


 どんな体形でもすぐに戦闘ができるように訓練しているので獣化するのを忘れていた。ルヴェルの姿で襲われたときは不用意に獣化することはできないので正しい選択ではあるけど、別に二人の前では関係ないしな。


「獣化した後の方がいい?」

「私はベルきゅんの姿の若様でもありなのですが」

「”きゅん”をつけるな”きゅん”を」


 まったく。

 いつまでもロリでいられるからって合法ショタコンになっていいわけじゃないんだぞ。

 ……そろそろ矯正しないと不味いか?


「獣化後のほうが若様をより強く感じられる気がして……」

「……」

「ご、ごめんなさい。贅沢を言いました」

「いいよ。獣化しよう。何がいい?」

「え、でも……」


 主である僕を慕っての言葉ならできるだけ叶えてあげるのが主君というもの。


「では、【吸血鬼】で」

「はいよ」


 魔力を練り吸血鬼に『獣化』する。

 といっても髪が黒くなり目が赤くなって体型がちょっとだけ細身になるだけだけど。牙は吸血するときにしか鋭くならないし、なんなら今日は吸血される(・・・)方だ。


「いいなー。早く私もしたーい。大人になりたーい」


 リシアがいつものように不満を垂れながら僕の背中にしだれかかってくる。

 そしてそのままこっちをがっちりと両腕で挟み込み、僕を抱きかかえるようにしてソファーへと深く腰を下ろした。

 手持無沙汰なリシアの最近の甘え方だ。


「あと二年後な」

「ながーい」


 まるでマーキングするように僕の髪に頬擦りをしてくる。

 くすぐったいけど拒絶はしない。この行為中、リシアは蚊帳の外だから寂しいのだろう。仲間外れにするようなことは可哀そうでできない。


 そう、これから始まるのは吸血。

 眷属化による弊害――というか制約によりキキョウは定期的に僕の血を飲まないといけない。


 サイクルは七日に一回。つまり一週間に一度という決まりを設けて吸血させている。

 つまりは今日がその吸血日だ。


 頻度としては多いのか少ないのかはわからない。

 ただ、最初の頃に確認の意味も込めて吸血せずに何日耐えられるか、という実験をキキョウと二人で試したことがある。


 結果から言うと、一カ月も持たなかった。

 キキョウの言葉を借りると十日目には『飢え』を感じ、二週間目には『激しい興奮』を僕に抱いたそうだ。


 隣で彼女を見ていたけど、あの時のキキョウは目が血走った獣のようだった。

 そして十七日目。リシアを襲って血を吸いそうになったのでドクターストップ。

 二人の間に割って入り、僕を襲わせた。


 本能で動いていたのか彼女は僕を押し倒すとそのまま首筋に牙を突き立てた。普段より乱暴だったので意識もほとんどなかったと思う。


 十回ほど喉を鳴らした後、キキョウが正気に戻り、実験は終了となった。

 懐かしい。

 あの後、気が動転したキキョウが「ついにやってしまいました……!」とよくわからないことを口走ってたっけ。僕に馬乗りのまま。


 リシアも悪乗りして「姉さまならいつかやると思ってた」とテレビのインタビューみたいなことを言い出す始末。

 冗談を言えるだけ落ち着くことができたと好意的に解釈したけどね。


「それでは、若しゃま……!」

「しゃまもやめなさい。口元が緩んでるぞ」

「ぁう」


 …… 本当に冗談だよね?

 いつの日か吸血云々関係なしに我慢できなくなったキキョウに襲われたりするのだろか……。


 不安だ。早く大人になりたい。

 このままだとルヴェルの貞操まで危ういかもしれない。

 なんてね。


「まぁいいや。とりあえず更新しようか。キキョウ、吸血の準備を」

「……はい! 若様、失礼します」

 

 リシアに抱えられながら彼女の膝の上に座っている僕。そしてさらに僕の膝の上をキキョウが跨って座った。

 正直、凄く際どい座り方だ。

 しかも、キキョウは変なスイッチが入ったのか淫靡な雰囲気すら纏わせている。


「若様」

「ん?」

「一つ訂正しておきたいことがあります」

「訂正? なんのこと?」

「色仕掛けは……若様にしかやりません、よ?」


 キキョウはそう言って熱っぽい瞳を閉じながら僕の首筋に唇を近づけ――そのままカプりと牙を肌へと突き刺した。


「――っ」

「ん、ん……ちゅ、ん」


 血を吸う音、コクコクと喉が鳴る音、ぴちゃぴちゃと涎が肌を濡らす音だけが室内を支配して――って最後のはリシアだな!?

 暇だからってまた姉の真似をして……!


「こら、リシアはやめなさい」

「やー」

「やーじゃないの」

「にゃー」

「にゃーでもありません」


 と言っても聞かないんだけどね。

 強めに命令すればやめるだろうけど強引に引き剥がすほどのことでもない。

 寂しいだけなんだと思う。

 

「まったく……」


 ただ、体裁もあるのでポーズはとるけどね。

 やめろってやれやれ系主人公のようにさ。

 嬉々として受け入れてたら変態でしかないし、この状況。

 どうせ二年後には噛まれるしそれまでの予行練習だと思えば……うん、されるがままでいいや。


「吸血が終わったら定期報告。その後は魔力の鍛錬でもしようか」


 二人は頷く代わりにゴクリと喉を鳴らした。

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