第7話 いざ冒険へ!出発
この村に来てから1ヶ月が過ぎていた。
今日も今日とて宿の手伝いをして、未だ変化の訪れないサラの魔法修行を監督し時々ギルドのカフェに出かける。そんな毎日を過ごしていた。
「ロシー手紙が来てるよ。あとで取りに来な」
ある日、朝食を食べに食堂に向かうと女将のリーネからそう告げられた。待ちに待った親からの手紙の返信である。
朝食を食べ終わると早速向かうことにした。
「ほら、これだよ。部屋で読みな」
「ありがとうございます」
手紙を受け取ると足早に部屋へと戻っていく。
焦る気持ちを落ち着けて手紙を読んだ...
なんと手紙には冒険者を雇って街まで帰って来て欲しいと書かれていた。費用は学校側が持つとのことなのでBランク以上の冒険者を選ぶ様にと書かれていた。
なんでも村から街までは早くても1週間はかかる道のりで往復となると2週間から3週間となり父は仕事を離れられず、母が来るには往復で冒険者を雇うこととなり多額の費用が必要となり学校側もそこまでの負担を了承せず生徒1人のために教師を派遣することもできない為、学校側は授業中の事故と認めて現地での冒険者の雇用を提案したとのことだった。また3枚の小切手が同封されており1枚はアタシの路銀に1枚はこの宿への謝礼金として、最後に冒険者雇用のための頭金のようだ。
アタシはリーネさんとサラに謝礼金の小切手を渡した後に、冒険者について相談した。
「そうかい、じゃあこれでやっと帰れるわけだ。よかったじゃないか」
「冒険者の選定は任せて!あとで一緒にギルドに行きましょ」
「そうなるとお別れ会も必要だね。サラ出発は1週間後にしておくれ。旅の準備も必要だしね」
「わかったわ。それじゃ午後に出かけるために急ぎで洗濯物を片付けましょう!」
アタシたちは気合を入れて洗濯もものと格闘するのだった。ちなみにこの1ヶ月でアタシの洗濯魔法は洗練され今では洗濯物の多い時にはリーネからお願いされるレベルとなっていた。
サラとギルドへ向かっていると途中すねたような口調で話しかけてきた。
「むー、私まだ魔法使えないのにロシー行っちゃうのね」
「そんなこと言って、1ヶ月で結晶の色を動かせるようになったじゃない。すごいことだわ」
「でも...向こうに戻っても手紙出すから返事してね」
「魔法のことも書いて出すわよ。ただし初級魔法の一部を除いては記録に残すことは魔法ギルドに許可された人じゃないと捕まってしまうから基本だけだからね」
「げっ!そんな縛りがあるのね」
「本格的にやるなら、街に繰ればいいのよ。その時はうちに泊めてあげるわよ」
「いや、宿の仕事があるからそれわ難しいと思うけど、その時はよろしくね」
ギルドに到着する。
まず初めに、小切手を換金して路銀と依頼の頭金を用意する。そして冒険者ギルドの受付でペリオンの街までの護衛をお願いした。
「そうですね、ペリオンの街までです途中のラムド村で1日休養を挟んで8日間の予定となります。希望条件は護衛はBランク以上の冒険者で来週出発の予定ですね。金額は..はいこの手紙に書かれてある条件で結構です。頭金から銀貨1枚をギルドが手数用としていただきます」
「はい、どうぞ」
「お預かりします。そうしましたら、明後日のこの時間にもう一度ギルドに来ていただけましたら候補者のパーティーと顔合わせをさせて頂きます。よろしいでしょか」
「よろしくお願いします」
そうして、サラとはカフェでお茶をして宿へと戻るのだった。
2日後ギルドにて冒険者パーティーとの顔合わせを行った。
男性3名女性2名のBランクパーティーで、今パラルス村で条件に合致する中でもっとも女性の多いパーティーとのことだった。どうも魔法使いの少ないこの村では冒険者の男女比が極端に男性に偏っているとのこと。
「きみが依頼者か。なんでも砂漠から来たとのことだが旅はよくするのかい?」
「いいえ。今回はちょっとしたトラブルで旅は砂漠からこの村に来たのが初めてで、今も旅の途中といえますわ」
「そりゃ大冒険だ。まあ俺たちに任せてくれれば無事に送り届けると約束しよう」
「はい、お願いします。出発は4日後の朝でギルドの前で待ち合わせでお願いします」
「承った。それではええと、名前は?」
「ロシーです」
「よろしくロシー。俺はアルバ、パーティーのリーダーをしている。他のメンバーは出発の時に改めて紹介するよ。なんせ長い旅になる道すがらで話そうじゃないか」
明るく話すアルバは背中に大きな剣を担いだ20歳くらいの冒険者で肌に沿うような服を着ているため盛り上がった筋肉が見て取れるが顔つきは童顔でどこか優しい面持ちをしていた。
帰り道に同行してくれたサラが教えてくれる。
「いいな、ロシー。アルバはね、この村の出身で今一番成功している若手の冒険者なのよ。でも遠征のクエストをよく受けるせいで全然村にいないのよね」
「ということは、旅慣れた冒険者ってことね。安心したわ」
宿に戻りリーネに冒険者が決まったことを報告すると2日後に送別会を開くことが決まった。
その後も日課の相変わらず変化のない魔法の修行をしているとサラが集中力が続かなくなってきた。
「どうしたのサラ?最近魔力を一定で放出できるようになっていたのに、今日はすごく不安定だわ」
「だって、もうロシーに直接見てもらえるのは2日もないのにこの1ヶ月でずっと変化ないのよ。嫌になっちゃうわ」
「まあ、魔法ってそんなもんよ。でも魔力の性質が近いアタシ達なら実は裏技があるのよ。お別れついでに教えてあげるわ」
「何!裏技って」
「いつも通りに魔力結晶に手を付けて魔力を流してくれる」
結晶を覆うようにしたサラの手を更に外側から手を重ねる。そうして初めに風の魔力だけをサラの手を通過して動かす用にするとアタシの魔力に引っ張られて結晶の緑の点たちが一斉に動き出した。
「サラわかる?今は風の魔力を操って結晶の点を動かしているわ。これ色の範囲が狭いほど動かし易いのだけど自覚するのが難しいのよね」
「おー!!動いてる。この感覚で動くのね」
「このまま手を放していくから感覚を覚えて動かし続けてね」
そうして魔力結晶に初めて触るときのようにゆっくりと手を放す。サラは夢中で結晶を眺めており、完全にアタシの手が離れていても僅かながら色を動かすことに成功した。
「やったね!サラ。あとはこれを続けて動かせる量と色を増やせば大丈夫ね」
「ありがとう。ロシーもうちょっと頑張ってみるわ」
「その意気よ。大丈夫1前に約束した通り手紙でもアドバイスを送るわ」
「うんうん、よろしくね」
それからはずっと上機嫌のサラに旅の準備を手伝ってもらいながらお別れまでの時間を過ごすのだった。
宿でのお別れ会は常連の宿泊客も交えての楽しいものとなった。
その中ではアタシの洗濯魔法を知って大量の洗濯物を頼んできたズボラな冒険者もおり泣き叫びながら本気で悲しがっていた・・・実際のところ洗濯の代行は水を使う上に体力が必要なので結構お金がかかる物だがアタシの洗濯魔法によって体力消費が普通に洗濯するよりも格段に抑えられるので多少の割引価格(量を貯めて出すので金額自体は結局それなりになる)で行っていたためだろう。
「ふふん、未来の大魔法使いに洗濯物をさせたのよ。感動してこれからは自分で洗うか、あなたも出世して洗濯料を弾むことね」
「うぅぅ。わかりました。うぅぅ」
「ロシー、ほっときな。そいつは筋金入りの怠け者だ。この村出身なのに家事をしたくない余りに宿に泊まるというやつだ」
「怠け者とは失礼な。きちんと冒険者として仕事はしてるだろ!ランクだって単独Cランクだぜ」
「あんたはいつまでも遠征クエストを受けないじゃないか、それさえ受けてりゃとっくの昔にBランクにだって昇格しているだろうに」
「いやー人間向き不向きってあるよね。ほら同じ村の同年代のよしみでさサラも洗濯もの代行受けてくれない?」
「何で私が同い年の男の洗濯をしなきゃいけないのよ!いやよ」
サラがズボラな冒険者と口喧嘩?をしていると横からリーネとご飯だけ食べにくる近所のお爺さんがニコニコと笑いながら教えてくれる。
「あの子たちは幼馴染でね。ナイが冒険者なりたての頃はねクエストから帰って来る度に、サラがうちに連れてきては怪我がないかを心配して面倒を見るもんだから、ナイはすっかりここに寄るのが習慣になってしまって気が付いたら宿一番の常連って訳でね」
「いつ結婚するかって皆で話しているんじゃが。なかなかお互いに変化が怖いようでな。サラはナイがBランク冒険者になったら考えるというし、ナイは遠征にでたらサラが心配していけないから行かないの1点張りでここ数年膠着状態よ」
「あー、ロクでもない入り婿候補ってナイさんのことだったんだ」
「Cランクじゃ1人が食ってく程度の稼ぎだからね。冒険者として家族を養うにゃBランク以上が相場だね。まあちまちまクエスト熟していりゃ、怪我も少ないし稼ぎも安定してるから結婚して宿を多少手伝ってくれりゃ、あたしからは文句はないさ」
「そうするとほんとに本人たち次第って感じなんだ」
頼れるお姉さんの男の趣味はダメ男みたいだった。
冒険者がかっこいい人が居ると言いながらギルドにちょくちょく行くのもナイが気になってのことだったんだろう。
そんなこんなでお別れ会も終わり、旅たちの日となった。
リーネからは毛布を宿の主人のハシムからは追加の保存食をサラからは木彫りのお守りを餞別と言われもらった。
「ほんとに今日までありがとうございました」
「いいのよ、宿の手伝いだって嫌がらずにやってくれたし娘が増えたみたいで楽しかったわ」
「手紙だすから絶対に返しなさいよ。というかお金貯めて会いに行くから、その時は案内してね」
「うん、返事書く。でも街に来るときはナイさんに護衛を頼んでね」
「ん~、ロシーまで余計な事言わないで!まったく」
「はは...気を付けていきなさい」
こうして1ヶ月と少しの宿での生活は終わりを告げた。
広場を抜けようとすると最初に食べた串焼きの匂いがしてきて釣られるように屋台に向かった。
「1本ください。出来れば大きいので」
「おっ!嬢ちゃん久しぶりだね。荷物を見るともう行くのかい」
「はい、お陰様で宿でお世話になっているうちに家とも連絡が取れたのでこれから戻るところです。お世話になりました」
「かー、律儀にお礼を言いに来てくれるとは嬉しいね。こいつはサービスだ。食っていきな」
ただ匂いに釣られただけとは言えず、ありがたく串焼きをいただく。この村に来て不安でいっぱいだった時に食べてすごく安心したのを思い出す。ギルドの帰り道も何回か食べたが、大好きな味だ。
食べ終わるともう一度お礼を言って、今度こそ広場を抜けてギルド前の待ち合わせ場所に向かった。
また、アタシの旅が始まろうとしていた。
打ち切りの味がする終わり方ですが続きます。
というかチュートリアルが終了です。
本日は18時ごろに次の話を投稿したいと思います。
このまま書き溜められれば今週の毎朝8時に更新していきます。
スマホからだと新しい話を書くのは大変なので、平日は基本人物紹介等の解説部分の追記作業となります。