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オシリスの羊たち  作者: 白黒羊
第3章 秋

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第56話 交錯

〔これまでのあらすじ〕

黙示録の獣を撃破したシロとクロ。しかし仲間と離れ離れになってしまう。一方、遭遇したバンゲラに敗北を喫したパウクとイグニスはヴィトラとミヅイゥを置いて単独での行動を始めてしまう。

〈神判の日〉まで、1年の半分が終わろうとしていた。

ヴィトラとミヅイゥは放浪の末、かつての師であるエリーゼ・ダスロと再会した。


フースゲーベス到着から1ヶ月後、太陽暦ハレモルチ24日。

王立騎士団デストルシオン隊隊長エリーゼ・ダスロの計らいにより、ヴィトラとミヅイゥはデストルシオンの一角に部屋を借りて生活していた。ヴィトラ・イコゥはイナ・イコゥと名を改めていた。ミヅイゥは未だ目を覚ますことはなかった。

そしてこの日、デストルシオン中に鐘の音が鳴り響いた。

レニカの街、そしてクラードの街の襲撃事件はすでに内地でも広まっていた。そしてその撃退に当たったデフテロ・セグド一行の凱旋を人々は待ち望んでいた。

ヴィトラもその様子を傍目で目撃していた。



太陽暦ハレモルチ26日

王都アミールに一行が帰還すると、まずセレスト・ナヴアスを始めとする戦没者への追悼式が行われた。

その後デフテロ・セグド副団長(暫定団長)は王の名の下に正式にデフテロ・セグド団長へと任命された。


太陽暦ファクヌス1日

この日、王都アミールにて隊長集会が行われていた。

王立騎士団本部の長い廊下の十字路を通り過ぎたデフテロ・セグドの背中に声をかける者がいた。

「私を参謀にしてくれてもよかったじゃない。団長さん」

振り返ったデフテロの前に女は姿を現した。

「それとも何?かつてあなたの先にいた同期のことが未だに許せない?」

「エリーゼ・ダスロ。どうしてお前がここにいる」

「隊長集会よ。団長サマは出席されないから日程をご存知でなかったかしら」

「まさか。私だって隊長経験者だ。だがしかし、専属テネラルだったお前が隊長になるとはな。ナヴアス団長も何を考えていたのだか」

「私の恩人を悪く言わないでもらえるかしら」

「悪く言っているつもりはない。あの人は私にとって生涯団長であり続ける男だからな。ただ、だからこそ理解できないのだ。王都アミール防衛の要であるデストルシオンの隊長にお前を選出するとはな」

「そんなに不満なら私を参謀にしなさい。実際、私より優秀なテネラルはいないでしょ?」

「人選は合理的判断によるものだ。他意はない」

「隊長職を兼任していた人もいる!」

「デストルシオンの隊長では無理だ。君にも分かるだろう。諦めてくれ」

幾ばくかの静寂が続き、エリーゼは一つ溜息をついた。

「……内地防衛の予算削減って一体どういうつもり?」

「レニカの街、クラードの街、それにトプロステンで地獄を見てきた。人族はスキルの獲得によって図に乗りすぎていたのかもしれない。今一度、人魔境界線の再整備と内地防衛の要たるトプロステンの改修を行う」

「それで内地を蔑ろにすると?」

「そうだ。クラード砲台の対地空迎撃戦により、境界線付近の守りを固めれば敵の内地までの到達は困難なことが分かった。それに、内地に守るべきものが本当にあるのかどうかも、改めて考えなくてはならないしな」

「どういうこと?」

「君も団長になれば分かる。少なくとも私はそうだ」

デフテロはそれだけ言い残すとエリーゼの静止も聞かずに廊下を進んでいった。



太陽暦ハレモルチ9日

レニカの街跡地、地下。そこにはシャンティーサ・フィコの研究室がある。

「〈瞬間移動(テレポーテーション)〉のスキルを持つ少女は見つかったか?」

「いいや、まだだ」

質問に答えているのは黒い鎧を身に纏った謎の騎士だった。

「そうか」

「シャンティーサ、貴様は〈瞬間移動〉のスキルの少女を捕まえて何をするつもりだ?」

「最初に〈瞬間移動〉を使用したのはシロだった。しかしシロはスキルの呪文が書かれた本、マギアスを使ってスキルを操る〈識本創造(グリモクレド)〉の使い手だった。マギアスには制約があった。一度使用したスキルは使えなくなるという制約が。だから私がマギアスを手にした時、そこにはもう〈瞬間移動〉の記載はなかった。しかし幸運なことに、ウプ・レンピットの塔及び黙示録フィールド内で目撃したシロの仲間の少女が〈瞬間移動〉の使い手だった。私は伝説のスキル、〈瞬間移動〉を我が物としたい。それは一体何故なのか。それは……最終兵器オシリスをこの世界のあらゆる場所に瞬時に起動させるためだ」

「最終兵器オシリス…。それで本当に人族は救われるのか?その先に広がっているものは平和なのか?」

「もちろん。ただしそれは神の下の平和。絶対的な究極の平和だよ」

「どういうことだ?」

「最終戦争伝説はご存知かな?」

「あいにく神話は信じないタイプでね」

「それでも聞いたことくらいはあるだろう。長きにわたり続いた人魔の戦争、世界最終戦争。それを終わらせたのは人間でも魔物でもない。この世界の神があらゆる生命の前にあらせられ、そうして戦争は終わった。その神こそが、オシリス」

「何を言っているんだ?」

「魔族の殲滅と人族の進化。最終兵器オシリスが完成すればこの両方が達成される。そしてこの両方が達成した時、私はついに神となるのだ」

「シャンティーサ、その進化ってのは何なんだ」

「君のような者のことだよ。私に忠誠を誓うよう生まれ変わった人間。私無しでは生きていけない人間になることさ」

「それが人族の平和だと?」

「そうだ。もう何かに怯えることも恐れることもない。ただ私の詔勅に従って生きていく。争いも、苦悩もない。何も考える必要はない。素晴らしい世界ではないか」

黒騎士はわずかの沈黙の後に口を開いた。

「その最終兵器オシリスはいつ完成する?」

「あと一月もすれば。プラントは八割方完成している」

黒騎士は再び黙り込む。

「そこで、だ」

沈黙を破ったのはシャンティーサだった。

「君に新たな任務だ。〈瞬間移動〉の少女のことは一旦放置でいい。大進化シリーズ識別名称(コードネーム):ゴーレムの軍隊を率いてデストルシオンを包囲するのだ」

「デストルシオンを?一体何故だ?」

「王都アミールへ繋がる三本のルート。そのうちの二つは通行止めになっている。今アミールに行くには、デストルシオンを押さえておく必要がある」

「拒否したら?」

「おいおい、自分の命をそんなに無碍に扱うなよ。まだ私に従っている方が賢明だと思うよ?」

「では貴様の目的はアミールにあると?」

「そうだ。狙うは王の命」

黒騎士の頭がピクリと揺れた。

「…分かった。やろう」

「それでいい」

シャンティーサはニッコリと笑った。

「大進化シリーズは人族の進化ための贄にすぎない。識別名称:ゴーレムはその中でも最高傑作だ」

「包囲するとは言え、どうすればいい?いつ強襲を行い、貴様はいつデストルシオンに入るつもりだ」

「そうだな。ここからの距離を考えてファクヌス15日としようか。作戦は君が考えてくれ。そういうことは得意だろう」

「承知した。やろう」

シャンティーサが伸ばした手を黒騎士はとった。二人は握手を交わした。



太陽暦ファクヌス14日・日付変更30分前

黒騎士はデストルシオン近郊に姿を見せていた。しかしまだ誰にも見つかっていない。

――シャンティーサの狙いが王の命である以上、私が王のそばを離れるわけにはいかない。最後に奴と話してから一ヶ月以上が経過している。果たして最終兵器とやらは完成しているのだろうか。奴の目的…『魔族の殲滅と人族の進化』か。神だの云々はどうでも良い。ただ魔族さえ殲滅することができるのならば。人族に平和が訪れるのならば。私は利用してやる。たとえそれが部下をも平気で利用するマッドサイエンティストであろうと。平和にはいかなる時も犠牲がつきものなのだから。



24年前

アリスト・グレイモスは王立騎士訓練兵団から王立騎士団ファタニタス隊に正式に入隊した。アリストの故郷であるファタニタスは人界南東部の乾燥地帯に位置する都市であった。

「アリスト、やったな。これで俺たち騎士になれたんだ」

入隊式の帰り道、彼の名を呼んだのは幼馴染のクレイスト・ポプラであった。

「ああ。やったなクレイスト」

当時の騎士団は厳正な入隊試験をパスする必要があった。その入隊試験には高度な知的能力と運動能力はもちろんのこと、スキルの技術力も求められていた。

「それにしても、スキルが発現していないディスアドバンテージを筆記の点数でカバーするんだから大したもんだよな。今年の問題、これまでよりさらに難化したって言われてんのに」

「兵隊指揮学は毎年かなりの難題だがここで点数を落とさなければ大きな得点源になる。僕はそれを落とさなかっただけだよ」

「バカ言え。満点ボーナスが適用されたんだろ?この天才がよお」

「まあ、そうでもしないと合格できなかったからな」

「すげえよ。テネラルだろ?」

「ああ。そのつもりだ」

「史上最高のテネラルになるかもな。騎士団長も夢じゃないぜ」

「買い被りすぎだ。これまで騎士団長になってきたのはギニラルだ。僕では無理だよ」

「じゃあ俺が団長になるから、アリストが副団長として補佐してくれよ」

「それを言うなら参謀とかだろ」

とんでもないことをしれっと言ってのけるクレイストに呆れながらアリストは訂正した。

「…じゃあ、クレイストはギニラルなんだな」

「ああ。俺はギニラルになるよ。そっちの方が性に合ってる」

「だな。僕もそう思うよ」

クレイストは微笑んだ。

「アリストがそう言うなら間違いないな」

アリストも微笑んだ。

「二人ともー!」

前方から走ってやってくる少女は二人にとってのもう一人の幼馴染であり、名をローゼスト・ズルカという。

「おー、ローゼスト!」

クレイストは手を振って迎える。

「入隊式お疲れ様!どうだった?」

「バッチリだぜ。ほら見ろよ、ファタニタス隊の印だぜ」

クレイストは左腕に縫い付けられたワッペンをみせた。

「すごいじゃない!アリストも?」

「うん」ワッペンが見えるように左腕を前に出した。

「この後お店来るでしょ?奢るわよ!」

「マジで!やったぜ。行こうぜ、相棒」

クレイストに左手首を掴まれ、咄嗟にそれを払ってしまった。

「あー、すまない。少し疲れているんだ。今日は遠慮しておくよ」

アリストは無理やり口角を上げた。

「そうか。気づかなくてごめんな。ゆっくり休めよ」

「お大事にね。また今度奢るね!」

「あ、ああ。ありがとう、二人とも」

アリストは二人から離れるようにして別れ道を曲がった。


入隊式から3年後

境界線隣接都市に魔族の大規模侵攻があった。

クレイストはその街の防衛に派遣され、後方支援を命じられていたアリストとは別の部隊にいた。

侵攻された街にいた全ての騎士と連絡がつかなくなり、アリストは状況の確認のためにその街に向かった。

街に入った途端、そこで目にしたのは地獄であった。

そこら中に人と魔物の死体が転がり、血塗られていない地面を探す方が難しかった。

アリストは仲間から離れ、一人クレイストを探した。

街中をあらかた探し終えても見つけることはできなかった。

誰のものかも分からない肉の塊のどれかがクレイストなのか。良からぬ考えを拭いきれずにいた。

最後に訪れた場所は北の外れにある教会だった。その教会は長い階段を登った先にあった。

入り口の扉は外されていて、そこから血が流れ出ていた。礼拝堂は魔物の死体で散らかっていた。

その時だった。床下からガタッという物音が聞こえた。

アリストは建物の奥の階段を降りるとその奥の部屋で街の生き残り達が身を寄せ合っている姿を目の当たりにした。

「王立騎士団ファタニタス隊2等兵のアリスト・グレイモスです。魔物は完全に排除されました。この中で早急に手当が必要な方は申し出てください」

アリストがそう言うと、片腕となった男性が目の前に現れた。

男は言った。

「あんた騎士だろ。お仲間が瀕死の状態なんだ」

アリストは血相を変えて尋ねた。

「どこだ!?ソイツはどこにいる?」

「左の扉の先だ。多少の手当はしたつもりだが…」

聞き終わるのが先か、急いで左の扉を開ける。

そこには木箱にもたれた状態のクレイストがいた。

「おお…アリスト…きてくれたのか」

絞り出された声は聞き取るのことがやっとだった。

「騎士様は一人で戦い抜いてくれたんだ。俺たちを守りながら」

「外してくれ」アリストは片腕の男と手当てをしていた女に言い放った。

「早く!」女は身体を震わせてから部屋を後にした。

「おいおいおいおい、嘘だろ嘘だろ嘘だろ」

アリストはそばに駆け寄った。

「騎士になったときから…覚悟してた…ことじょねぇか…」

「そんな、そんなのねえよ。よりにもよってお前なんて」

「右の肺がつぶれてる。腹ん中もぐちゃぐちゃだ。わりぃ…これ…だめなやつだ…」

そう言ってクレイストは血を吐いた。

「やめろ。死ぬな。死ぬなよクレイスト!」

「さいごに…あえてよかった。ローゼストを…たのむ」

そう言い残し、クレイストはグッタリと項垂れた。

「おい、おいクレイスト。おい!返事してくれよ…」

アリストは胸に左耳を押し当てる。鼓動を聞き取ることはできなかった。

「俺のせいか…。俺のせいなのか!俺がクレイストの死(こんなこと)を望んでしまったから!」

アリストは耳を離しお互いの額を重ねた。

「起きてくれよ…相棒…」

この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。


X(@hi_tu_zi2020)

https://x.com/@hi_tu_zi2020

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