第53話 クロ vs シロ
〔これまでのあらすじ〕
黙示録の獣を撃破したシロとクロ。しかし仲間と離れ離れになってしまう。一方、遭遇したバンゲラに敗北を喫したパウクとイグニスはヴィトラとミヅイゥを置いて単独での行動を始めてしまう。
〈神判の日〉まで、1年の半分が終わろうとしていた。
トプロステンにて騎士団に騙され、襲われたクロは魔族の力が解放されてしまい暴走を始めてしまった。
「状況を報告しろ」
王立騎士団副団長(暫定団長)デフテロ・セグドは破壊されたトプロステン騎士隊本部近くの宿舎にて報告を受けていた。
「街の門は内側から封鎖されています。その……瓦礫と人の山で。壁上の砲台が全て破壊されたことにより、壁上の設備は完全に消失。昇降機は機能不全に陥り、階段は天井側から瓦礫で塞がれています。最短でも明日の朝までは街の外には出られない目算です」
クロの暴走により、トプロステン騎士隊の7割が死亡した。残りの2割は重軽症者である。そして今なお重症者の数は減り続けている。
「黒い騎士との戦闘により壁の外に出たクロの消息は不明です」
「そうか。瓦礫の撤去を進めろ」
デフテロは言った。
シロの目の前でクロと黒騎士は切り合いを続けている。
「そんな…。こんなの…こんなのおかしい!」
シロは鉛筆を握り締める。
「〈轟斬撃剣〉ッ!」
虹彩の縁が真っ赤に染まる。
「私がクロをっ!元に戻しますッッ!」
シロはポシェットから取り出したマギアスを開く。
「〈変幻自在:クロ〉」
しかしクロは黒騎士との打ち合いを続けていた。
――おかしい。アデルと戦った時は使えたはずなのに!
「ウベェアアアアアッッ!」
発狂するクロは黒騎士への攻撃の手をやめない。
「シロ!早く!援護をッ!」
黒騎士は声を絞り出す。
「尾も翼も回復していない今が狙い時だ!ここで抑えなければ、もう転機はないぞッ!」
――もう、戦うしかない。
クロは剣を携え背後からクロに接近する。そして振り上げる。
クロは腰をひねってシロの方向に振り向くと左腕で刃を受け止める。クロの左腕はそのままサクッと切断されて地面に落ちる。
――ッッッ!!
クロの腕を切り落としてしまった突然のことにシロはうろたえる。しかし次の瞬間、再生した左腕の先にある手の甲で、シロの顔面に平手打ちが入る。シロは鼻血を噴き出させながら背後に倒れる。
「シロッ!」
黒騎士の剣撃には参幵剣の振りで対応する。クロは片手で易々と黒騎士をいなしていた。
「クロ……改めて恐ろしいな。常識が通じないのか?」
同じ動作を何度か繰り返して攻撃パターンをインプットさせた後に、瞬時に溜めを作って突き技を繰り出す。それはクロの右目――前髪に隠されていない方の正常な目――に突き刺さる。
「ウがアッッ!」
それでもクロはニヤリと笑うと参幵剣で黒騎士の剣を横から叩く。黒騎士の剣は衝撃を受けたところから真っ二つに折れる。
黒騎士はなんとかクロの次の斬撃を退いて交わすも、バランスを保てずに倒れる。
――怖いのか…死ぬことが。生物としての本能が、まだ残っているというのか?
「シロ…!すまない。後は任せた」
黒騎士はシロの前から消えた時と同様にして忽然と姿を消した。
シロは身体を起こすと、黒騎士が姿を消す瞬間を目撃した。
――大丈夫。クロの身体は切ってもすぐ再生する。殺しさえしなければ。……今は止めないと。クロを。
シロは剣を構えるとクロに接近する。クロは天に参幵剣を掲げると、剣先に雷が落ちる。帯電した参幵剣の刃が青く光る。
クロは参幵剣を地面に突き刺すと、天からいくつもの雷が空を破って降り注いだ。脳天から直撃を受けたシロはその場に片膝をつく。
そしてクロは左目に刺さっていた折れた刃を一気に引き抜くと、瞬時に再生させた翼を使って勢いよく飛び立った。
「クロ!待って!」シロは叫ぶ。すぐさまマギアスを取り出すと急いでページをめくる。
「我が欲すものよ。位置を示せ。〈所望探知〉。我が躰は撥条が伸縮するが如く。〈柔応変靭〉。飛ぶ鳥を落とす刹那の走調〈可変進速〉」
虹彩の縁が赤く輝く。瞳に映る赤い矢印を追うようにシロは地面を強く蹴る。十数秒もしないうちに、トプロステンの街は遠くに見えていた。
矢印の先は東の方向を指していた。そのずっと先には、有史以来の魔族未踏の地、人界内地の都市がある。
シロの視界にはすでにクロを捕捉していた。
「クロ!お願い!降りて来て。話をしようよ!」
果たしてシロの声が届いているだろうか。それはクロにしか分からない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
息を切らしたシロはその場で立ち止まり、何度も激しく咳き込んだ。靴はすでにボロボロに破れていた。
「なんとかして地上に引き摺り下ろさないと。〈変幻自在〉を解除するのはそれからね」
息を整えながらマギアスをめくる。
「〈大翼飛翔〉」
虹彩の縁がさらに赤く染まる。
シロは走り出すと、大きく地面を蹴った。同時に、シロの背中に翼が生える。シロは勢いよく飛び上がった。そして空に続く矢印を追う。
上空から見える東の地平線は輝き始めていた。
「クロッッ!待ってっ!」
シロは翼で空気を押し、さらに加速する。
暗雲の中、二人の距離はお互いに触れられるまでに縮まっていた。
シロはずっと握っていた鉛筆に力を込める。
「〈轟斬撃剣〉」
シロは背後から、クロの翼の付け根を狙う。
しかしクロはその場で半回転。シロの剣を参幵剣で受け止める。
「ヒャハハハハハハハァァァ!!」
クロはさぞ楽しそうに笑う。
そして空中での鍔迫り合いが始まる。勢いの乗った二人の剣は激しくぶつかり合う。スキルにより強化されたシロの身体は、覚醒したクロと同等に渡り合っていた。1秒の間に、およそ5回、剣を振る。
雲の中で稲妻がシロ目掛けて走る。
「クロ!お願い!もうやめて!」
クロの斬撃を受け止めながら、雷の電撃をその身で受けながら、シロは声をかけ続ける。
クロの笑い声が雷の音と共に響いている。
切り合いは拮抗している。何か決定打となる一手を打たなければ、戦いは平行線のままである。そしてやがてシロのスキルの効果が切れれば―――。
シロは一度、クロのもとを離れた。
クロは雲の中で立ち止まる。
その瞬間、シロは背後からクロに切り掛かる。しかしシロの刃がクロに届く前に、突如再生したクロの尾がシロを貫く。
「ギャハハハハハハハハ!」
しかしシロの身体はその輪郭が霞んで消えた。
「ア?」
シロはクロの真横に姿を現し、クロの両翼の付け根を切断する。
〈姿現偽幻〉を発動したシロの、不意をついた攻撃が決まる。
2人の視線が合う。次の瞬間、クロは落下した。
シロは手を伸ばす。しかし直前でその手が届くことはなかった。
「クロ!!!」
翼で空気を押す。シロは重力にその身を任せながらさらに加速する。
「クロ!手をっ!」
クロを追って落下しながら右手を伸ばす。
だがクロは攻撃をやめない。クロの尾がシロを狙って真っ直ぐに空気を切り裂いた。
シロは身を引いてクロの尾を避ける。
――このままだと…地面に激突しちゃう…!そんなこと、させないっ!
シロはさらに加速する。
クロの足を掴むと、そこから手を上へ―――落下方向的には下へ―――這わせ、ついにクロの身体を抱きしめる。
二人は一つとなり真っ逆さまに落ちてゆく。
――クロを……守らないと…!
シロは抱きしめる力をさらに強める。
その時だった。〈大翼飛翔〉の効果が切れ、背中の翼が消滅した。
――そんな!
シロはクロにしがみつく。
――こんな…ところで…。そんなの……。
雲を抜け、みるみる地面が近づいていく。
――守レ。
クロの中で声が響く。
クロは参幵剣を手放すとそのままシロを抱きかかえ、頭を前に振って身体を起こして上下の向きを逆転させる。
「クロ!」
激しい衝撃と直後に鳴り響く轟音。その衝撃は着地点の付近の土草を吹き飛ばした。
クロはシロの身体を投げ捨て、その場に前のめりに倒れる。両足の骨は粉々に砕け、肉に突き刺さっていた。
「っっつ…」
シロはゆっくりと身体を起こす。全身を打ったことでジンとする痛みが続いていた。
「クロ…」
ふらふらと左右に身体を揺らしながら衝撃により広がった大地の窪みの底へ降りていく。
不意に再生したクロが立ち上がる。
「クロっ!待……」
シロの腹に拳が入る。シロはその勢いで窪みの外へと飛ばされる。クロは飛び上がるとシロの前に着地する。仁王立ちのまま、クロはシロを見下ろす。そしてシロの胸元を掴むと前方へと投げ飛ばした。
シロは落下地点から身を削りながら転がる。
「〈轟斬撃剣〉」
シロは剣を握って立ち上がる。
クロの目の前に参幵剣が落下する。クロはそれを引き抜いて構える。
再びの切り合いが始まる。走りながら迫るシロをクロは歩きながらいなす。二人の剣がぶつかり合う。
シロの振りをクロは参幵剣で受け止めると両手で払ってシロの剣をはじいた。それは遠くの地面に突き刺さった。
クロは腹を蹴り、シロは倒れる。シロの目の前に立ち、両手で柄を握ると参幵剣を頭上に大きく振り上げる。
シロの頭を叩き割ろうと、参幵剣が振り下ろされようとしたその時だった。
槍がクロの胸を貫いた。
クロの手から参幵剣がするりと抜ける。そして背中から地面に倒れた。
「クロっっ!」
シロは慌てて起き上がると、クロの隣にしゃがみ込んで肩を掴み、半身を起こした。
クロはシロのよく知る姿に戻っていく。黒い鱗は剥がれ落ち、純白の裸体が露わになった。
人間の姿に戻ると同時に、腹に大きく空いた傷口がゆっくりと塞がっていく。
シロはクロの身体を自らの上着で覆った。そしてクロの両肩のわきに手をつき、クロの上に覆い被さる。
「ん…シロ…?」
やがてクロは目を覚ます。
「クロ!よかった」
クロの無事に明るくなったシロの表情であるが、やがてそれは段々と翳っていく。
「人を殺したなんて…嘘だよね?」
シロは静かにそう尋ねた。
クロは目を逸らす。
「私のクロが!人を殺すわけないよねっっ!!」
虹彩の縁がみるみる赤く染まっていく。
「なんとか言ってよ!クロ!」
「……うん。殺してなんかいないわ」
実際、クロは自分の行動を思い出せないでいた。本部で襲われたその時から、彼女の記憶にはもやがかかっていた。
「こほん」
シロとクロの背後で少女が一つ咳払いをする。
シロとクロはその方向を向く。
「あー、そろそろ感動の再会といきましょう?」
シロとクロは互いに目を合わせ、再び二人の背後に立つ少女を見る。
「「アミラルネ!」」
そこには三叉戟を手に握った魚人族の王女、アミラルネがいた。
〈神判の日〉まで残り173日
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。
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