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クレイジーホエイル  作者: 社不旗魚
一章:王都編
8/24

7話

「「「かんぱ~いっ!」」」


 その後、俺たち三人は無事報酬を受け取り、食事をとるためにギルドと併設の飲食店に来ていた。


「んあ”ぁ”! これだよこれ、ジンジャーエールは最高だぜぃ」

「あれっ、アロウさん素面ですのね。お酒飲めないんですの?」

「いや、友達が酒飲むとそりゃあもうひどいから、俺はああはなりたくないと。あと俺まだ未成年だし。そんなことより見ろよフレイヤ。この世界のゴキブリは餌付けしたら石もって文字書き始めたぞ、なんて読むんだコレ?」

「やめなさいな、なんでそんなことを食事中にできるんですの?! 一緒に食事する女性に失礼とは思いませんの?! あら、律儀にありがとうとか書いてますわ」

「ムゴムゴ……ほうでふよ、あほーはん!!」


 フレイヤが翻訳する横で、ツララは両頬に食べ物を含んだままそんなことを言う。

 ……俺からしたらツララの方がよっぽど失礼だと思う。


◇ ◇ ◇ ◇


 今日だけで100万円は稼ぎ、山分けにしても確実に大金であるはずの俺の所持金がそんなに高くない飲食店でのディナー一回で三分の一は無くなった。

 あいつら平気で俺の倍ぐらいの量食って、テイクアウトまでしてたよなぁ。

 ……思い出したらなんか腹立ってきた。

 俺は、借りた宿の一室の窓を開け、深夜の少し冷たい風にあたりながら、そんなことを考えていると。


「アロウさん、アロウさん! ツララちゃんが!!」


 叫びながらノックもせずに入ってきたのはフレイヤだった。


「うん? 俺のところに夜這いなんていい度胸じゃ……ツララ? が、どうしたんだよ」


 状況反射でつい俺は悪役っぽく振舞おうとしたが、相手がフレイヤだと分かった途端やる気がうせてしまった。


「ツララさんが、盗賊に襲われて……」


 フレイヤから聞いた話によると、こうだ。

 先ほど、フレイヤの部屋に盗賊が侵入した。恐らくは目立ってサンセクトを狩りまくって大金を持っているところを狙われたらしい。

 そこで彼女は隣りのツララの部屋に逃げ込んだ。

 因みに気にしないが向いの俺の部屋の方が近い。そして、ツララが戦闘中に誤って盗賊ともつれ合うようにして窓から落下。侵入してきたのは一人だが、落下後にもう一人が合流し、そのまま戦闘継続。

 そしてフレイヤが違和感を覚えたのが、フレイヤが窓から覗き込んだ限り、ツララの様子が落下した後からおかしくなっているとのこと。


 外に出ると、それは狂気的な光景が目に入った。


「……あ! お兄ちゃんっ! ほら見て、お兄ちゃんのお金狙ってたコソ泥、ちょっとやっつけといたの」


 そこには、昼間着ていた白いシャツに赤いシミを付け、どこか虚ろな目をして笑みを浮かべたツララの姿が。身に着けていた三日月の髪飾りは戦闘中に外れたのか見当たらず、耳の横にあった三つ編みがはらりと前に掛かっている。

 元軍人だった俺は、ツララの服に着いた血が返り血であることにすぐに気づいた。


「お、おうそうか。でもちょっとどころじゃないくらいやりすぎだな。

 フレイヤ、ごめんけどこいつらを病院に運んでやってくれ。ツララのことはちょっと俺が見とくから」

「えぇ、でも血が……分かりましたわ。重ッ」


 嫌がりながらもフレイヤは、状況を察して息をしているかも心配になるほどの数の刺し傷から流血する盗賊二人を運ぼうとする。

 ……ていうか、さっきからツララの言っているお兄ちゃんってのはひょっとしなくても俺のことか?


「ねぇねぇ、お兄ちゃん、褒めてよ。あたしね、頑張ったんだよ。」


 ツララは、自分が傷つけた人を運ぶフレイヤを尻目に俺に向かってそんなことを言ってきた。


「お前なぁ、人殺してしまったらもう戻れないんだからな? 今は自分でやったことを認識できないかもしれないけど ……おい、フレイヤ、運べそうか? もし無理そうで手遅れになったら麻袋でも買ってきてくれ、ってこの時間じゃもう人も出歩いてないから店が開いてるわけないか。どっかからパクってきてもいいからさ」


 危機的状況は本人の潜在能力を引き出すとよく言われるが、それは同時に本来存在しない記憶を植え付けるほどに不安定な精神状態にしてしまうことを意味する。

 特に、初めて殺人を行った時には十分な訓練をされた兵士であってもしばしば起こる。

 その状態に現在のツララが陥っていると考えた俺は盗賊よりも先にツララを病院に連れていくべきと判断した。


「……酷い、お兄ちゃんに嫌われないように触りたくもない奴ら殺したのに。フレイヤさんの心配ばっかり! 今持ってるその銃だって、他の女の匂いがするし……お兄ちゃんは結局その女の人が忘れられなかったんだね」


 ほら、このように不安定な状態の精神はすぐに激高を起こす。

 ……にしても、俺のことをお兄ちゃんと呼ぶのはどうにかならないのだろうか。まぁそこも何か彼女の経験がもととなっているのかもしれない。


「いや、確かにフレイヤとの付き合いは長い方だが、アイツは性格(なかみ)がアレだからな。嫌うかどうかも置いとくとして、そんなことよりさ……」


 こういったときは俺の経験上から話題自体をずらすことが有効だ。

 話題をずらす……ずら……ん?


「あれっ、お前なんかこう、変だぞ? 何というか、胸のあたりがずれている……」


 深夜の中の宿から少しだけ漏れている灯光でもはっきりわかる、ツララの身体、主に上半身から感じる謎の違和感。


「あっ。お前、もしかして上げ底パッd」

「お兄ちゃんちょっと黙ってこっちに来て」


 俺の言葉を遮ってツララが表情を変えないままそんなことを言ってきた。


「行くわけねぇだろ。俺はこれでも元兵士だからな。パッドっつっただけで殺気が」

「お兄ちゃんとあたしが一緒にいられないなら、あたし死んだほうがマシ。ねえ、山と海どっちがいい?ま、どうせどこでもゾンビィ相手に逃げ回ってたんで、しょ!!」


 すると、どこからともなく取り出した赤いナイフを持ってツララがこちらへ踏み込んできた!

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