6話
雲一つない晴れ渡った空の下。
「フアッハハハ‼ 見ろぉ虫がゴミのようだ!!! フハハハハハ!!!」
俺は、依頼対象のサンセクトとかいう巨大テントウムシの討伐をハイになった勢いで全力疾走しながら行っていた。
火事防止と討伐の証明の遺骸を残すために炎を出している魔鎌は使わないようにしている。
依頼の内容を厳密にいうと、サンセクト一匹の討伐につき十万ドルク。
図体がデカいとはいえ、虫を一匹殺すだけで十万円なんて夢のような話だ。
事実、もう既に十匹は倒しているはずなので、報酬は100万円である。
魔鎌の代わりに銃を使っているので、この図体に何発も撃ち込む必要があるが、それでも確実に楽だ。
逆に、楽過ぎてとある違和感を覚えた。
「なぁ、フレイヤ、ここに来てから力が強くなってる気がするんだけど、お前、何か知らない?」
先ほど、俺がサンセクトに銃弾を撃ち込む作業が面倒くさくなって肩がオシャカになることも忘れて両手で二丁拳銃のようにしてライフルの射撃をしてしまっていたのだが、不思議なことに反動を一切感じないのだ。
「あたりまえでしょう? アロウさんがワタクシと契約して、ワタクシの加護によってアロウさんの寿命と引き換えに身体能力を爆発的に上昇させたのですのよ?」
「……え? 寿命と引き換えに?! そんな話、聞いた覚えがないぞ? ……説明してないだろオイコラ。今すぐにでも捨ててやろうか」
と、俺は鎌の姿のフレイヤを前方へ投げた。
「それは無理ですわ。契約内容の代償の一つに、鎌の状態のワタクシは所有者と二メートル以上離れることができませんもの」
しかし、魔鎌が地面に着くスレスレのところで明らかにおかしな軌道で俺に向かって真っすぐ魔鎌が突っ込んできた。完全に油断していた俺は、顔面に魔鎌の柄の直撃をもらってしまう。
「痛っ!」
「ほら~言わんこっちゃありませんわ。人の話は最後まで聞くべきでしてよ?」
最後に必要のない侮辱をされ、さすがの俺もカチンときた。
「うるせぇな、お前ふざけんなよ嵌めやがって! おいもう一度人間の状態に戻れよ、そして一発殴らせろっ!!」
「はい? ……アロウさん、やはり貴方はワタクシへの敬意が足りないと思いますわ。ワタクシ神様なんです。敬われ、愛されて当然のことなのですわっ!……上等です、態度を悔い改めなさい!」
「……ハァ、ハァ。二人とも速いですって、勝手に先に行かないでください……って、ええぇ! ちょっ、何してるんですか! やめてくださいよ!」
フレイヤが人の姿になり、口喧嘩も取っ組み合いに発展したころ、息を切らしたツララがやって来た。
子供に諭されて、さすがにお互いに冷静になった。
……説明が足りないのは絶対間違ってないはずなのだが、まずフレイヤが、俺と二メートル以上離れると俺の方に引き寄せられるほど自由を縛られてまでこの提案をしてこなかったら、俺は今頃地獄だったんだよな。
人の姿になってから一言もしゃべらないフレイヤは現在そっぽを向いて俺の方すら見ない。
さすがに離れることができない相手とこのまま絶交ってのは嫌だ。
……こういう時は男の方から折れるべきだと山田も言っていた気がする。
「……あぁもう……ゴメンな? 俺がキレて悪かった。早う報酬受け取って、今日のとこは美味いもん食って寝ようぜ、夕飯奢るから黙り込むのはナシな? なぁ、悪かったって!」
「……本当に奢るんですの? 言質取りましたからね? ……ツララさん、今日のご飯はアロウさんの奢りですわ!」
「本当ですか! って言うかたった今喧嘩してたのにもう仲直りしたんですね? やっぱりお二方、仲良いですねぇ」
「ニヤニヤしながらそんなことを言わないでほしいですわ。ツララさん、『時は金なり』という言葉をご存知ですの? 仲直りに要する時間を金銭で買ったのですわ!!」
とりあえず、フレイヤの機嫌が戻ったことに俺はホッとため息を吐き、先ほどの言葉を思い出す。
『寿命と引き換え』かぁ……。
具体的にどれほどの寿命になってしまうのかは知らないが、どれだけ短いとしても、その分密度の濃い人生を送ればいいだけだ。
――こうして俺の別世界での初任務は終わった。