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クレイジーホエイル  作者: 社不旗魚
一章:王都編
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4話

 テントウムシは身体の前半分に大きな裂傷を入れられ、そこから移った炎が瞬く間に燃え広がり、最終的にはその死骸すら残さなかった。

 ……おぉ。すげえ、魔鎌は伊達じゃなかったんだな。


「ふぅ、虫なら何万匹と殺ってきたからなぁ。デカくても全然平気だったな」


 そうホッとしながら俺は少女のほうへ振り返って。


「なぁ、助けてもらったばかりで申し訳ないんだが、いっちゃん近くの町まで案内してくれないかな?」

「サンセクトを、一撃で……訳が分からな…………。えっ、それはいいですけど……じゃなくて!! それだけ強いならゾンビィ相手に逃げる必要なかったじゃないですか!」


 だが、その少女は訳の分からないところで怒っていた。……まぁ、たまにいるよな、そういう人。



「えと、あたし、東 氷柱(あずま つらら) って言います。さっきは助けてくださりありがとうございました」

「いやいや助かったのはこっちだよ。ホント。俺は穂村 濯だ。アロウで良い」

「その御供のフレイヤと申しますわ。よろしくお願いしますわ」

「こちらこそ。あたしのこともツララでもなんでもいいですよー。でも、すごいですね。フレイヤさん、いきなり消えたかと思えば炎の鎌になって……いったいどうなってるんですか?」


 うっ。いきなり説明の難しいところを聞かれてしまった。

 俺は目線でフレイヤに助けを求める。

 目が合うと、彼女は。


「それはですねぇ…………実はワタクシ、この男、アロウさんに無理矢理この禍々しい魔鎌に封じ込められ、望まない大きな力を振るわされ、今こうして人間の姿でいられることもこの悪魔のただの気まぐれに過ぎな……痛い!」

「おい馬鹿誰が誇張しろと言った」

「でもアロウさん、こういう極悪人扱いされるの嫌いじゃないはずですわ?」

「……」


 いや、まぁ確かにそうだけど今言うと混乱を招くだろ。


「ははは、き、聞かないほうがよかったですねぇ……それにしても、炎であのサンセクトが焼けるなんて聞いたことがありませんでした。ここは確か国が所有する自然保護林なのでそれだけの炎がもし燃え移ったと思うとヒヤッとしましたよ」

「えっ、マジで!? 自然保護林って燃えたらやばいやつ? だよな? 聞こえ的に」

「えぇ。結構多額の損害賠償を突き付けられますわ」


 マジかよ。

 ()()がなかったらやばかったわけだ、ホント、東さん感謝。


「この炎ってそんなにすごいのか? じゃあツララの日本刀の氷はもっとすごいんじゃないのか? 俺、暑がりだから炎より氷出せたほうがいい、いつでも冷えたジンジャーエールを飲めるし」

「ニホントーとじんじゃーえーるが何かは分かりませんが、一応は魔剣ですからね。あたしの自慢ですよ」


 そう、サンセクトが燃え尽きた直後、森にも火の手が届きそうになった時にツララが持っていた剣を振るうと、なんと冷気が生み出されて辺りの地面ごと凍り付かせて火事を防いでくれたのだ。

 そして、さらに疑問点が二つある。


「魔剣? 魔剣ってそんなにポンポンいろんな人が持ってるもんなの?」


 一つは出会った最初の人からもう既に魔剣を持っていたことだ。

 そっちの答えはすぐに返ってきた。


「そんなことはありませんわ。詳しく数えたわけではありませんが、この世界に魔剣は十本もないかと」


 フレイヤから小声でサラリととんでもないことを聞かされてしまった。

 じゃあ、ツララって世界基準でも相当な強さになるんじゃないか?

 ……そのツララが顔を蒼白にして恐れたサンセクトに対して俺はいつも通り突撃していたことが今になって血の気が引いてきたことを尻目に、フレイヤは今度はツララに対して普通の大きさの声で。


「ツララさん、魔剣をもっているということは、以前傭兵か、ハンターとして働いていたのですよね? 」

「いや、そういうわけではなくって、実はほとんど実戦経験ないんです。でも、町に着いたらハンターになろうかと」

「そうですのね……でしたら、ここで数少ない魔剣所持者が出会ったのも何かの縁、ワタクシたちもハンターになる予定でしたので、町までなんて言わずに『パーティ』を組んでみませんか?」


 えっ、何言ってんのこの人。

 勝手に俺がハンターとかいう職業になること決めちゃったよ。


「アロウさんは以前、傭兵として雇われていた経験があるので、腕の方はバッチリですわ!」

「いいんですか? でもあたし……いや、多分ばれないよね。大丈夫。

 あのっ。あたしも一人で町で暮らすのは不安だったので、サンセクトワンパン出来ちゃう人が仲間なら心強いです!」


 ツララが前半何をしゃべっていたのかは声が小さくてよく聞き取れなかったが、どうやらフレイヤが早速仲間を作ってくれたようで何よりだ。

 ただ、疑問はまだ一つある。


「あとさ、突然なんだけども、お前の出身地ってどこ?」

「!? えっ、と……それはですね……」

「いやさ、てっきりここら辺の人ってフレイヤみたいに慣れない名前の人が多いかと思っててさ、『あずま』って名前は俺の国でもよく聞くんだよ。日本って聞いたことない?」

「そういうことですか。……うぅん。ないですね、多分おじいちゃんとかに聞けば分かるんですけど、すいません」

「いや。全然良いんだ。こっちこそ変なこと聞いたな」


 いきなり地球とは違うところに行くんだ。他人とかかわるときに、文化とか、常識の違いから問題が起きることを少し心配していたのだが、ここまで礼儀正しい人ならは、ある程度分かり身があるだろう。



 それからしばらく歩くと、森を出て、同時に何に対して造ったのかというほど高い壁が視界の端から端までそびえ建っていた。

 すると、ツララが前に飛び出して両手を広げ。


「着きましたよ! ここがアミル王国随一の港町、デジーマです!」

「いや、壁のせいで海がまったく見えないんだけど」

「とりあえず門を通ってからにしましょう」


 見ると、壁には一か所だけ人が通るので限界くらいの大きさのトンネルが掘ってあり、その入り口を抜けてすぐのところに空港の税関のような人が立っていた。

 俺たちは身分証がないにもかかわらず入ることができたということは、恐らく人であれば基本的に難なく通過することができるのだろう。


「おぉすっげ、フレイヤ、海だぞ! 日本よりきれいなんじゃないか?」

「ワタクシも、海なんて見たの久しぶりですわ」


 門を抜けると、この町は海に向かってきれいな段々坂になっているおかげか、色鮮やかな屋根の住宅地から海の見せる水平線の曲線までを一望することができ、強い日差しがこの上なく似合う絶景が広がった。

 と、一通りこの景色を堪能した後。


「まず最初に金と泊まれるところを見つけたいよな。金を稼ぐには……」

「さっそくハンターズギルドに行きましょう!」


 あぁ、そういえばフレイヤが俺がハンターになる予定だと言ってしまったんだっけ。

 俺はフレイヤに小声で尋ねることにした。


「なぁ、ハンターズギルドって何だ? 俺初めて聞いた」

「簡単に言うと、ハンター組合って感じですわ。モンスターを討伐することが主な仕事ですが、ほかにも様々な依頼があって、依頼通りに仕事をこなせたら御礼金が出る、地球でよく言うハンターよりも何でも屋に近いですわ」

「なるほど、基本は面倒くさいけど根は丁寧だよな。ありがとう」

「褒められてないって、分かってますわよ?」


 身の危険を感じた俺は即座にツララの方を向き。


「それはそうとツララ。早くそこに案内しておくれ、早く!」

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