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クレイジーホエイル  作者: 社不旗魚
一章:王都編
4/24

3話

 人類が~月面に降り立ってから~250年と~ちょっと。

「……森じゃん」

 俺は今、例の別世界へ空間を引き裂いてやってきていた。

 ここに来て最初の感想は、森、フォレスト、一面森であった。

「一応聞くけど、この世界、俺以外に人はいるんだよな?」

「この森を出たら街があるはずなので絶対いると思いますわ。第一、アロウさんがテキトーな場所斬ったからですわ」

 俺の質問に答えるフレイヤの姿は未だ鎌の姿のままだ。

 ……というか、テキトーな場所斬れって言ったのはフレイヤじゃなかったか?

 俺はフレイヤに方向を教えてもらいながら森の中を進む。

「なぁ、大丈夫か? ここに来てから動物すら全く見ていないんだけど」

「この森はモンスターが出るはずなのですけれど、確かに変、いやでも……大体は地球と同じ生態系ですのよ?」

 そうだよ、この世界にはモンスターとやらが出るんだよ。

 人と同じぐらいの強さまでならいいんだけど……。

「夢ならばーどーれ~ほど一良ーかっただろ~お~……」

 そんな事を考えながら、俺は率直な不安を歌にのせて紛らす。

 そして、 目の前のヤブをかき分けてみたところでーー

 ーー腐った匂いの、俺でも映画で見たことがある化け物。

 俗に言うゾンビとか言う化け物と目があった。


「アゥバァァー!」

「たすけ〜てくれぇええぇ!! おいこの詐欺女神! 人より先に化け物出たじゃん!! あと映画で見たのはこんなに足速くない! ちょっ、やばっ!」

「何をおっしゃいますの、ゾンビィは雑魚中の雑魚ですわ。ワタクシを使えばTO-FUのようにスパァッ!といった感じで」

「生き物をスパァッ! って、それはそれで嫌だな! あと何だゾンビィって、何も可愛くねぇんだよ!!」

「えっ嘘! アロウさん、日本ネタも通じなかったら一体何を見て生きてきたんですの?」

 日本に豆腐のネタなんてねえよっ!

 俺がこうして必死に逃げながら助けを呼んでんのにコイツは何ふざけたこと言ってんだ!


「ゥガァ!」

「ヒィ!」

 ……やばい、一年間のブランクで落ちに落ちた体力で全力疾走しながら叫ぶのは流石にキツイらしい。

「アロウさん、叫び声がゾンビィと大差ないですわ」

「うるせぇ、ハァ……お前が重いから疲れてるんだろうが」

「はあぁ!? ちょっとアロウさん、ワタクシではなく鎌が重いのですわ!! さっさと斬ってしまえばいいものを……」

 かと言ってこの詐欺女神の言う通りにいきなり化け物を使い慣れない鎌で斬れる自信もない。

 とにかく、早く街か人を見つけて助けを求めないと……!

 と、その時。

 なんとか藪を抜け、一本の道に出ると、前方には俺より年下そうな一人の少女が。

 最悪だ、あの人では助けてもらうどころか危険に巻き込むだけだ。


「おいそこ! 逃げろって!……あぁくそ!」

「「!」」

 少女の気付くのが遅かったように見えた俺は、ついに覚悟を決めて翻った。

「っしゃいくぞぉ!」

「どいてください」


 俺がまさに大鎌でゾンビィの胴体をとらえようとしたとき、何故か俺のほうの胴体が押され、俺はバランスを崩して右に倒れる形となった。

「……は?」

 俺は目の前の現象が理解できなかった。少女が俺を突き飛ばしてゾンビィの前に立っていたのだ。

「あれっ。あの子はもしかして……」

 少女は先ほどは外套で見えなかった長い曲刀を繰り出し、次の瞬間、ゾンビィの身体は上下で真っ二つになった。


 えぇっ……!



「……ゼェ、ゼェ……ハァ。ありがとう……ござんます……ハァ、ハァ」

 俺は息を切らしながら、助けてもらった人にお礼を言った。

 近くで見ると、藍くて長い髪で見えなかった顔が見える。鼻が低く、意外にも日本人っぽくて違和感がなかった。

「いいですよ、ゾンビィくらい。……というか、言っちゃなんですけどゾンビィ相手に逃げてるような強さでよくこの自然林に入ろうとしましたね」

 少女は、曲刀(柄があることから恐らくは日本刀)を一度振ってゾンビィの肉片を落としながら言った。

 そんなもん知るわけないだろう、そう言おうとしたが俺がここまで来た経緯を説明するのは面倒なので言葉に詰まってしまった。

「申し訳ありませんわ。ワタクシ達は単なる旅のもので。ついでに言うとこの人はビビりですので。ご迷惑をおかけしましたわ」

 すると、いつの間にやら人の姿に変わったフレイヤがフォローを入れてくれた。……ホントにいつでも戻ることができるんだな。


「いえいえ、本当に大丈夫ですっ……て……ッ!!」

 俺の命の恩人は、フレイヤの言葉に応えるどころか、何やら恐怖の表情で顔を髪色と同じくらいの暗めの藍に変えたので、後ろを見てみると……。


「なんだよ、テントウムシか……ってデカァ!!!」


 軽く像を超える大きさのテントウムシが木々の間からのっそりと出てきたのだ。


 ……俺は一応聞いてみることにした。

「なぁ、こいつはでかくても所詮虫だよな? ゾンビィ倒したお前ならもし襲ってきてもチャチャっとやれるよな? アッもしかして虫嫌いか? じゃあどっちにしろ邪魔だし俺が」

「無理です無理です! 虫ですよ!? しかもこいつ、サンセクトってやつで虫の中でも最上位の種族なんですよ!? ゾンビィやあたしなんかよりよっぽど強いんですから!!」

 んなアホな。ゾンビィとテントウムシでどちらかと戦わないといけなくなったら1も2も無く目の前のこいつと戦う。

 冗談を言うタイプとは思えないんだけどなぁ。

 どうせこの少女が虫嫌いを隠そうと強がっているに違いない。


 ……と、テントウムシことサンセクトがこっちを向き、それと同時に少女が俺の手を引いて走り出した。

「あれはやばいやつですよ! 逃げましょう! 旅のものさん!」

 旅のものって名前じゃないぞ。


 なるほど。分かった。

 この娘頭が緩い人だ。助けてもらったクセして超失礼だけど。

 と、少女に腕を引かれながらどこか安全な場所へ連れて行ってもらおうとしたその時――俺はサンセクトが俺たちに向かって殺気を放ったのを感じた。

 俺は少女の手を振りほどくと同時にフレイヤの手首を掴んで再び鎌の状態にし、サンセクトへ急迫する。

 本人曰くフレイヤは皮膚に薄い部分に俺が触れてやることで無理やり人の姿から鎌にすることもできるそう。


「えっちょ!」


 そして、気色悪い大口を開いたサンセクトの胸部を目掛けて魔鎌を振り上げた!

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