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クレイジーホエイル  作者: 社不旗魚
一章:王都編
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27話

「……で、今朝になってそのツラで帰ってきたのか」

「まあ、そういうことになりますわ。ですわよね、”主犯”のアロウさん?」

「いや……うん。そういうことです」


 ツララの救出を(だいぶ突貫工事ではあったものの)俺たちは無事に遂行した。その後すぐにフレイヤと文字通り逃げるように王都を出たものの、デジーマまで帰って来られたのは三日後の昼過ぎだった。

 というのもジョーとツララが来た時の商会所有の馬車で帰ってきたのに対して俺たちは帰る方法を考えないまま魔鎌の契約を悪用して二人分を瞬間移動させたため、テロリストの箔をつけたまますべて徒歩で帰還しなければいけなかったのだ。もう心身ともに疲れてしまっているので、フレイヤがしれっと責任転嫁している気がしたがツッコむ気力もない。


「結果的にはうまく行ったから今更遅いんだがな……ほとんどの問題は実力行使に発展する前に解決できることに越したことはないんだ。兄弟も傭兵の経験があるなら分かってた筈だよな?交渉もうまくいかないことを想定して時間稼いで部下に潜入、脱出させる作戦も準備していた!だからお前たちが危険を冒す必要もなかったのにどうしてあんな博打打ったんだよ、おい!」

「「……」」

 本当に、ぐうの音も出ない正論である。ジョーがツララの為に無策で突っ込むわけもないし、冷静になって考えたら俺はまだしもフレイヤなら多分分かってたことだ。こういう終わってしまったことに対する説教が一番心を抉るな……。ちらっと横目で見たフレイヤもその何とも言えない表情からしておそらく今は同じことを思っているだろう。


「ああいや……すまない。俺も心配してたから、ついカッとなってしまった。ツララちゃんのことで一刻を争っていたし、事実として兄弟が勇者と闘ってくれたおかげで今俺とツララちゃんは無事だった。こっちの作戦も成功するとは限らなかったしな……」


 と、その時、ジョーの部屋の扉が二回コンコンと叩かれた。まだ何か話そうとしていたジョーは一度視線を俺達から扉の前にいた清掃中の部下へ移した。


「入らせていい。多分ツララちゃんだから」


 ジョーの指示通り扉が開かれると、だいぶ疲れた表情ではあるが健康には問題なさそうな様子のツララが入ってきた。


「お話し中の所、ごめんなさい。フレイヤさんとアロウさんが帰ってきたって聞いたので……どうしてもお礼を言っておきたくて。二人とも、無事……ではないですけど、生きてくれて本当に良かったです」


 そう言って深く頭を下げようとするツララをすかさずフレイヤが止めた。


「そんな、当たり前ですのよ?ツララちゃんには助けてもらっただけでなく私たちと行動を共にした仲間なのですから。そもそも、人狼だからと言って即処刑だなんて許すわけありませんし」

「俺も危うく殺されそうになったけど、正直言って慣れてるからな。ああいうの。フレイヤの言う通り、特別なことはしてないからそんなに感謝する必要もないよ」


 俺は悲鳴を上げている体の各所になんとか鞭打って、ツララを心配させまいと気丈にふるまった。

 ……しかし、種族が違うだけで話し合いを放棄してまで即刻殺そうとするなんて、この国の対魔族への敵意は相当膨れ上がっているようだ。ツララについては過去に人間と直接争ったそうだから特例だとしても、今以上に戦争が激化したらジョーのような亜人や、俗に言う『異形』が国内では生き辛くなってしまう。

 俺もフレイヤとの契約のせいで馬鹿力は得たものの勇者から化け物扱いされてしまい、ゆくゆくは同じ道をたどることになる……この世界で俺のやるべきことが決まったな。と、一人で納得していたところに、ツララは何か言いたげに俺たちの間に乗り出した。


「あのっ!そうは言ってもあたしにも責任ってのがあるんです。もう皆さんにこれ以上の迷惑をかけられませんし、今日限りでこの街を出て故郷へ帰ります。本当に、アロウさんにもフレイヤさんにもジョーンズさんにも、今までお世話になりました」


「そうか……分かった。本当はもう少しここでゆっくりしてほしい気持ちもあるが、王都からの追手がデジーマまでくるのももはや時間の問題だと思う。……言っておくが、お前ら二人も同じだからな?」

「えっ」

「分かってますわ……はい?」


 突然フレイヤとジョーの人を憐れむような視線が油断しきっていた体に突き刺さる。ツララが帰るって……そんな空気だったっけ?


「アロウさん?まさか追手がここまで来ないとでもお思いで?」

「いやだって、俺とフレイヤはなんとか逃げられるし、これからのためにももう一度勇者のやろうに会って魔族との戦争を考え直させようと思って……」

 俺がやるべきだと納得しきっていた考えに、ジョーは苦笑して、フレイヤはため息をついた。

「理想家の兄弟ならそう言うと思っていたが……もちろん俺だってそうしたい。だがお前たちは顔がバレてる。ある程度ほとぼりが冷めるまでは無理だろうな」

「そうですわ。しかも小心者のアロウさんらしくもありませんわよ、戦争をやめさせるなんて。勝算は一体どこにあると言うんですの?」


 確かに俺は目立ちたがりの割に肝は小さいかもしれない。だが、やはりこいつは悪役の楽しさを分かっていないな。

 いつも通り変わらないこの世界の相棒のツッコミに対し、俺は不敵に笑い答えて見せた。


「ああ、俺は昔から意志を貫くのは得意だったからな。戦争自体を止めたことはないが、時間はかかっても必ずやり遂げてやるさ。無謀な計画を実行に移すのも、立派な悪役のすることだろ?」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 時は三日ほど遡り、アロウ達によって城壁の半壊させられた王城領内。勇者ーー名をシュラウド=ネル=アミルと言うーーは意識を取り戻して間もなく、その凄惨な状況に言葉を失っていた。

(いや、逆にこれだけの被害で死者が出なかった。まずそのことを喜ぶべきだ、落ち着け……)

 そう、辺りは数えきれないほどの亀裂が刻まれた石畳の上を騎士や治療衛生部隊が忙しく往来する、まるで大災害の後の復旧に追われているかのような景色に覆われているが、奴ーー常人とは思えない力を持った黒髪の男ーーは誰一人殺さなかった。

 商会との会談の際に城壁を無理矢理突破してきたのは事前に計画していたのだろうか?ギルガリアと共に人狼が姿を消したことも無関係ではないはずだ。


「シュラウド殿下」


 考えが煮え切らずに身動きが取れなくなっているところに、この状況でも動揺を微塵も感じさせない頼もしい声が後ろから聞こえてきた。


「イーズか。何だ?」


 シュラウドが振り返ると同時に片膝をついて忠誠を示した初老の側近、イーズ・スムースは淡々と要点だけまとめられた報告を始めた。


「半刻後に地下講堂にて今後の対応について緊急会議を行うと陛下からの通達でございます。公爵位以上の貴族並びに王族は皆必ず集まるように、と」

「分かった。僕はすぐに向かおう」

「それともう一つ、中央の広場辺りにこのような書置きが」


 一瞬、イーズの顔が珍しく揺らいだように思われると、彼はそのまま薄いタイルのかけらを取り出した。

 それには何やら文字が刻まれて短文を構成しているようで、走り書きのようだが、問題なく読める。

 曰くーー


『てめぇの飼ってるペットくらいには異民族にも優しくしろ

 ーークレイジーホエイル』


「……一体何だ、これは」

「どうやら現在我が国が魔族との戦争に向けて進めている移民排斥、並びに人類への優遇措置に対する声明発表をしているのだと思われます」

「それは分かっている!問題なのは僕が父上にも言わずにペットを所有していることをなぜ奴が知っているのか だ!」

「……そんなことは知りませんが、これは向こう側のメッセージとして会議に出すべきかと」

「ああ。それと、すぐに適性のある騎士の中で諜報部隊を作らせるのだ。どんなに細かいことでもいい、クレイジーホエイルという奴について情報を集めなければならない」

「かしこまりました」

(あれだけの武力を持ちながら、何が目的なのだ……)


 要件を済ませるとすぐに落ち着きを取り戻して颯爽と去っていったイーズを見届けながら、シュラウドは一人呟いた。


「クレイジーホエイル か……」

ここまで読んでいただき心より感謝申し上げます。

第一章と書いてありますが、次の章いつ書くかはちょっとまだ決められません。

気長に待ってて貰えたら幸いです。

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