25話
フレイヤを仮面の男に守らせながら、王城に侵入した俺たち一行。先頭に立って銃剣を持ち、一般人は脅し、騎士っぽい者は少人数ならどうにか気絶、大人数ならば威嚇射撃だけしてから逃げて対応しながら回廊を進んでゆく。そこそこ深い所まで来たんじゃないか……?五人目を殴り飛ばした頃、武装した騎士団が明らかに増え始めたように感じるが、未だにツララの居場所にたどり着く気配はない。
「牢屋でも何でも本人じゃなくてもいい、それっぽい手掛かり見つからないか?」
突き当りの角に背を預け、フレイヤの魔法による望遠に一抹の期待を寄せる。
「まだですよ、ただでさえ酔いそうな魔法なのに走りながらで……うぅ」
ここでリバースするのは構わないが、しかしどうするべきか。
「おい!いたぞお!ーー広間から北北西!」
「ヤバい見つかったっ」
また撒いてから探し回っていたらそろそろ事態の収拾がついてしまうな……ここはもう正面突破しかないのか?と、そう思った瞬間俺は遠くから明確な殺意を覚え、咄嗟に前転をして飛び出した。
金属質の音の後振り返るとちょうど俺がいた場所に子供一人収まりそうな幅の広い裂け目が開けられていた。
「おいおい大丈夫かぁ!?」
恐らく今のに反応して動いたのは俺だけだったので他二人は大丈夫だと願いたいが、今度はさらにヤバい殺意を感じ取った。俺が飛び出したのは回廊突き当りで大きく開けた広間につながっている道。その先には見覚えのある全身鎧に包まれた男が一人。
「……お久しぶりって言えばいいかな?勇者くん!」
今のままではフレイヤも巻き込まれうると考え着くよりも直感的に広間へ走り出したと同時に、致命傷を避ける狙いでフルオートに任せて引き金を引いた。
「やはり貴様か化け物め」
勇者はそう言うと持っていた剣を構え、大きく一振り。すると直後に俺が放った弾丸は勇者の肩や腕に当たる前にあり得ない軌道で狙いを逸れた。
「その異常な速さのツブテも厄介だが、僕には無意味だ。……本当に勝ち目があると思っているのか?」
「よくしゃべるな、あぁ!」
俺が目の前に到達するまで一歩も動かなかった彼は俺の勢いのままの銃剣突撃を落ち着いて受け流し、そのまま剣の間合いの闘いに移った。一瞬の気のゆるみ、及び手足に溜まった乳酸が命取りとなると、現役時代の感覚をより鮮明に取り戻していくとともに時間の感覚が変に遅くなったり速くなり続ける。そして火花が散るほどの鍔迫り合いをついに俺が押し返し、即座に潜り込んで銃剣を勇者の脇下に向けて突き立てた。ーー俺が|鉄旗魚《てつかじき》のタッグネームと呼ばれるようになった必勝パターンだった。
昔なら、刃は通ったのだろうか。ようやく現れたチャンスであったが、銃口の先に付いた長刃は相手の鎧のすき間をわずかにずれ、虚しく弾かれた。一度距離をとるものの、俺には有効打がないことは明らかだった。
幸か不幸か、向こうもそれを察したようで。
「決まっただろう、その内応援もここへやってくる。それまでに俺を殺すことはできない。なぜあんな人狼一匹のために単独侵入した来たかは知らないが、ここで死ぬか?」
「果たしてそうかなぁ……俺があの魔鎌を使って大逆転する展開は考えないのか?」
まだ先ほどのハイテンポな動きはできない。ただ、向こうと話していても時間だけが過ぎるだけだ、ここの休息は最低限にと自分の体に言い聞かせる。
「ああ、そうだ。貴様以前は魔剣で背後から不意打ちなどと舐めた真似をしてくれたが、あそこまで大掛かりなのはそう簡単にはできまい。同じ手は二度くわぬ。それとも慣れないまま僕と闘って魔剣ごと奪われるつもりならば是非そうしてくれ。貴様は知らないだろうが魔剣というのは個人よりも国同士の闘いに向いているのだからな……。降伏しろ。さすらば命までは取らない」
「……ちっ」
むかつくほどの余裕だが、ほとんどこちらの考えを見透かされているのも事実である以上、余計に焦って思考の幅が狭まってしまう。
一応降伏の方向で気取られないように後ろを振り返ってみるも、勇者の開けた裂け目からひっそりと顔を出していたフレイヤは全力で(しかし静かに)首を横に振っていた。……もちろん降伏なんてしないがツララの運命もかかっているのだから、せめて自分では覚悟しておいてくれよ!
……ようやく落ち着いた。とりあえずフレイヤを出すのは却下だ。必然的に魔剣も出さない。……というか、出して闘っても向こうが闘い方が変わらない以上鎌を使うのに慣れない俺に勝ち目はなし。本当にまだ選択肢はないのか、どうしてもツララを救う道を貫くことはできないのか?
しばらく続いたその沈黙を引き裂いたのは、聞きなれた声だった。
「アーローウぅさぁん!!」
「!……何だ、お前、貴様は、この侵略行為の中自分の女連れてきたのか?! 我々を冒涜するのもいい加減にしろよ……!!」
「あんな地雷物件、欲しけりゃくれてやるわボケナス!」
一瞬だけ緩んだ空気を再び引き裂くように、勇者めがけて肉薄した俺は銃を逆さ向きに構えた。
銃撃も魔剣の力で弾かれ、鎧の間を縫って銃剣を突き刺すような隙も無い。
そんな鉄壁のフィジカルを持った化け物をどう無力化するか?幸運にも俺はこの直近の経験から強化された体にも響く攻撃手段を知っていた。
跳躍した慣性に任せたまま銃のストックを全力で勇者の兜越しの頭に押し付ける。
「ぐ、何だよ離せ!」
左に握られていた両刃の長剣が俺の横腹を嫌な音を立てて突き抜けてゆく。……きっと急所は外れている。そう信じて俺は攻めに転じてもう片方の腕で勇者の頭を銃と挟んだ。
そして……引き金を引いた。
「あだだがががががggっががーー!!」
通常ならちゃんと構えず受けると肩も外れる一分の隙も無い反動の嵐が、鎧を伝って脳震とうを引き起こしたのだ。契約後の俺でもいい大人に殴られたぐらいの負担を感じるほどなのだ。
普通の人なら死んでもおかしくないが、バケモノ相手には丁度いい。
「どうだわははは、フルオートはバカにならねぇだろ?!あばばばば」
俺のもう何度目かになる命の危機は勇者との馬鹿げたビブラートによって終止符が打たれた。




