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クレイジーホエイル  作者: 社不旗魚
一章:王都編
25/27

24話

 粉々に砕かれた城壁のあった付近は数刻前、ギルガリア商会の会長を乗せた馬車が止まっていた。

「会長、ただいま到着いたしました」

 止まると同時にキィと鳴く馬車の車輪の音は、いつもと変わらないはずなのにやけに胸をざわつかせてくる。事前連絡のない突然の訪問だ、いくら今まで積み上げてきた地位があったといえど快い対応が待っていると思っていない。俺は馬車から降りて部下に一言。

「カポネ、ここまででいい。この商談は俺だけで行う」

「……かしこまりました」

 その後、以前からのコネがある第三王子の従者から何とか話をつけることができ、人狼を管理している要人達との交渉の場を設けてもらうことに成功した。

 その割には用意された部屋が妙に仰々しい、うちの食堂ほどもある広さの部屋の真ん中に置かれた巨大なこの円卓は、確か最近は最重要の軍議でもそうそう使わないはずだ。そこに並んだ面々はツララちゃんを連れ去った当人の第二王子、話を通した第三王子に加え、その隣に座しているのは星火教会の幹部だったはずだ……これは誰かが裏で糸を引いているとしか思えん手際の良さだ。

「いやはや、これはこれは。あの『人喰いカルマ』の末裔が顔を出すなんて、珍しいこともあるものですな。今回は一体どんなご用なのか」

 口角の片方をつり上げてそんなことを言ってくる星火教幹部。

「くれぐれも私情を持ち込むな、司祭殿。ここは神聖な円卓議会である」


 ーー星火教会。

 元は光を神聖視する部族から始まったとされ、光を発する星や火を中心に信仰の対象としている多神教であり、同時に多くの国家で国教となっている。他方、多くが夜行性の魔物や魔族を排斥の対象とすることで民を扇動してきた歴史を持つ。


 先ほどから異端審問に関しての異様な程のことの運びの速さは恐らく星火教会の手によるものだろう。

「いえ、事実ですので問題なく……我々は以前より亜人に対する保護を行って参りましたことは皆様もご存知のはず。今回皆様に集まってもらったのは他でもありません。異端審問会が現在、拘束している人狼を、こちらに引き渡していただきたいと思う次第です」

 通常、王都で異端審問にかけられる者は人間にしろ魔族にしろ、騎士団の上層部によって秘密裏に行われる。今回のような表に出るような騒動はむしろ特殊だということが数少ない追い風になってくれるのを願うが……。

「一応言っておくが、我々教会側はそもそもデジーマ以外で君たちの商会の活動を認めていないのだよ。勿論、保護うんぬんのこともだ。自分の立場を理解した上で申しているのだろうな?魔族との戦争が始まった以上、異端審問による刑の公開は魔族排斥運動の助けになるのは明白だ。よって先日王立議会は、異端審問を騎士団と教会が共同して妥当魔族のため運営する法案を提出したのだ。……したがって教会は貴殿の申告に反対する」

「同じく僕も反対の立場とさせてもらう。あの人狼は非常に危険だ。遅かれ早かれ民に死人を出す」

 期待を断ち切ったのは”勇者”こと第二王子。この場にいる連中からして、反対派が多数になるとは思っていたが、予感が当たってしまった。

「あ~……。ギルの言うことだし、日頃の礼という意味でも、もう少し聞いてあげてもいいんじゃないかな。ほら、この国にギルの商会が与えている経済効果も今じゃ無視できない存在なわけだし……と私は思うんですが、ね?」

 唯一寛容な姿勢を見せていただいた第三王子も残念ながら財政以外の分野の発言力はそう強くない。

(くそっーー)

 既に談義の行く末は半ば決まっていた。分かってはいたがやはり亜人とされる俺にはヒトの社会を変えることはできない……。俺はこの話し合いで出来ることを残らず潰すべくこのまま無茶を押し通す覚悟をした。

「その通りです、その利益は保護した難民たちの労働力や航海の知識に由来しております。もしも王国の名の下に人狼が処されては、雇用主としての私のメンツがーー!」

 その時だ、俺がこの城に入ってきた方から次々に地を裂くほどの轟音が石造の壁に繰り返し響いたのだ。

「なんだ、何事だ!」

「司祭殿、伏せてください……。聞こえるか、騎士団を臨戦態勢にしろ!状況によっては場内の者を非難させるか、第二、第三城壁を閉じるのだ!」

 轟音に負けないほどの命令を下したのは勇者。俺が第三王子と司祭を支えながらいっしょに立ち上がろうとしたとき、彼は俺を呼び止めた。

「ギルガリア・ジョーンズ、貴様の仕業か……?」

「違うと誓います、私はここに談話の為に来たのでありまして、断じて私の身内ではございません」

「フン、貴様が一体誰に誓うというのだ……まあ、見ればすぐに分かることだ」

 勢いで言ってしまった手前言い直せないものの、一瞬でも病院で寝ているはずの我が兄弟じゃないかと思ってしまった自分の想像力の豊かさが嫌になってしまった。

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