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クレイジーホエイル  作者: 社不旗魚
一章:王都編
2/24

1話

出来れば毎週金曜日に更新する予定です。

もし気に入っていただけたら幸いです。是非ともブックマーク&レビューお願い致します。


 

 ――気がつくと、そこはまるで海の中のように真っ青な部屋。


 しかし部屋と言っても奥にゆくほど暗くなって壁や天井があるのかさえ分からない。

 よく見ると自分と目の前にスポットライトのような光が上から灯されている。

 そんな不思議な空間の中。

「Hi nice to meet you Mr. Homura Oh, I'm sorry…… あなたは日本国籍でしたの。はじめまして、穂村 濯さん。そして、ようこそ、死後の世界へ。貴方はつい先程、不幸にも亡くなってしまいましたわ。とても考え難いことだと思いますが落ち着いて聞いてください。貴方の人生は終わってしまったのですわ」


 そこには事務机と椅子があり、その椅子に座っている女性はペンを置いた。

 俺より少し年上だろうか。非科学的なものはあまり信じないタイプだが、その容姿はさながら女神でも目にしたようで、可愛いというより美しい、と言った感じだ。はっきりとした存在感を持ちながら、優しい印象を抱かせる赤い髪をかきあげた彼女は俺に向かってそんなことを……そんなこと……

「えっ死んだ!? おま、 お前何言ってんの俺今ここに…… あらぁあー!?」

 驚いて自分の体を見ると、両手が透き通ってしまってなにかに触れようとしても腕が通り抜けてしまって、同時に素っ頓狂な声を上げてしまった。嘘だろ、俺本当に死んじゃったのかよ……。すると、女性が俺が状況を理解するのを見計らうかのように自己紹介をし始めた。

「ワタクシの名前はフレイヤ、イギリスにおいて主に若くして亡くなった人々を導く炎の女神ですの。 貴方のことはアロウさんと呼ばせていただきますのでワタクシのことも呼び捨てでいいですわ。ところで、ホムラアロウ…… なんだか漫画の主人公みたいな名前ですわね。ご両親が中二病だったんですの?」

 こいついきなり失礼だな。

「役所に申告したら、最近の日本は簡単に名前を変えられるんで、そんなに珍しくもないですよ。 ですけども、俺の家は上も下も一回も名前を変えたことはありませんし親も病気じゃない! ……と思いますよ。あと聞いてもいいですか? 俺の死因って何なんですか? 準備が終わってからは何も覚えてなくて。あと、俺の同僚の人たちは無事なんですか?」

「アロウさんの死因は電子レンジ死ですわ。 同僚の山田さんはあなたの缶コーンスープのせいで重症ですが、そのおかげで捕虜として生きていますわ」

 俺は友人の生存を聞いて自分の胸をなでおろし……

「はいっ?」

 思わず本音を漏らしてしまった。

 電子レンジ死ってなんだよ。

 缶コーンスープのせいで重症ってなんだ。

 人生の中でこんな疑問を抱くことになるとは思わなかったと混乱しているとフレイヤは俺の抱く疑問を察してくれたかのようにゆっくりと話してくれた。

「大丈夫ですわ。ほとんどの人は、自分の死因を受け入れることができませんの。よく聞いてくださいね。……電子レンジによる後頭部強打での脳震盪――略して電子レンジ死――、それがアロウさんの死因になりますわ」

 さっきから女神を自称して馬鹿みたいな死因を吹っかけてきたフレイヤだが、実際俺の体が透けていたり、眠って夢を見ているとも思えないので、思い切って信じることに……。

「いや無理だわ!何? 電子レンジで殴られて死んだのかよ!? なんでそんなことが」

 あり得るんだ。そう問うよりも前にその答えは返ってきた。

「殴られたというよりは当たった、のほうが近いですわ。アロウさん、貴方は生前、オンボロの電子レンジに缶コーンスープを入れて温めましたね? その缶コーンスープが爆発して、電子レンジの蓋が吹っ飛び、独身彼女経験なしの貴方の後頭部に直撃、貴方は即死、そのまま電子レンジの蓋はベクトルを変えること無く同じく独身、しかし彼女あり山田武氏の背中を強打。 肋骨骨折や背骨打撲と重症ですが生きておりますわ♪」

 そのセリフを聞いて、俺は絶句した。

「う、嘘だよな……? 『生きておりますわ♪』じゃねえんだよ、 おい。 うそだよなあぁ!?」

 俺は目の前の机をバンバンと音を立てて叩……こうとして、その手が机をすり抜けてしまった。あと、気にしてないけど俺と山田の比較は何なんだ。

「残念ながら全て真実ですの。こんな死因も、少々ヲタクの山田さんに先を越されたことも……フッ」

 この野郎、鼻で笑いやがった。

「わ、笑うなよ、別に愛人がいるいないだけがが全てじゃ」

「貴方は周りにリア充が少ないからそんなことが言えるのですわ!!」

 ええ……。

 言葉を遮られてまでそんなことを言われた俺はさっきとはまた別の感情を持って絶句する。

「ワタクシはしっかり働いているというのに先に報われるのは不真面目でワタクシよりもコンパ慣れしてる同年代の同僚ばかりで」

「お前あれか。自分のこと行き遅れだと思ってるだろ」

 話が長くなりそうなので、今度は俺が話を遮った。そこまで言われて、俺はようやくフレイヤの服装に気がついた。ふわり。彼女が不機嫌そうに貧乏ゆすりをするたびに、彼女のひざと連動してサマードレスが揺れる。ヒールを履いて、スカート丈も膝下ぐらい。今の口ぶりからして、偉い人の主催するパーティにでも行く気満々な服装だった。

 いや、そんなことより俺が話を遮ったことでこいつが切れた。俺が言葉を発した瞬間からフレイヤは眉をピクつかせ、2、3秒ほどの沈黙が続いている。そして、彼女はゆっくりと拳を上げ……。

「おおっと! おい待て、無言で殴りかかってくるのはやめろ!? 悪かったって、行き遅れって言」

「ワタクシのことはフレイヤでいいですわ」

 ヤバい、これはもう確実に地雷踏んだ。

 何がヤバいって、 言い方は優しいが目が笑ってないし拳も止まらない。だが、俺もコイツの顔を見てとある理由から少し仕返しをしたくなって煽ることにした。

「なぁ、図星だったんだな?そうなんだろ? ……フッ。いいからとりあえず落ち着けって行き遅れ」

「ワタクシのことは! フレイヤで! いいですわ!」

 同じ事言ったってことは相当気にしてたんだな。可哀想な女神様の振るう暴力も激しさを増していく。

 とは言え、俺も軍人の端くれだ。今まで避けるだけだったが今度はその拳を受け止めようと俺は自分の手を前に出したとき――

 ――フレイヤの拳が俺の透明な手のひらを突き抜けて空を切った。


 さらに続いて5秒ほどの沈黙。


 ……そういえば、自分の体が半分透けていたんだった。

 双方とも空振り、これ以上やってもお互いにむなしくなるだけだと思って俺は。


「……なっ? 一回落ち着こう」


 手をおろしながら、今度は俺が諭すように言った。

 ◇ ◇ ◇ ◇

「えぐっ。えぐっ……このドレスはっ、 男ウケがいいって、たまぼよに載っててっ、ひぐっ。今日のため、にっ、でも……アロウさんがこのタイミングで死んだから、もう、時間が…………わあぁぁ! 」

「悪かったです。ごめんなさい。本当に。だから泣き止んで?マジで。ね?」

 たまぼよってなんだ。恐らくは婚活関係のものだろう。と、言うか、なんで俺が死んだタイミングについて謝る必要があるんだ。……俺は先ほどまでのことを思い出してみる。

 お互いに落ち着いた結果、フレイヤが泣き出した。と言うのも、神様というものは、一般的に寿命が長い、又はそれ自体無いと地球ではよく言われるらしいが、実際には死後の世界での時間の流れが遅いだけらしい。

 それで何も気にせず仕事を続けた結果が彼女の現状を作った。『時間の流れが遅いのだから、まだまだチャンスはありますの!』を言い訳にして今に至ってしまったのだそう。

 とにかくこいつは絵に描いたような行き遅れだったのだ。

「――そして、その時もまた上司の天照大神がいきなり仕事追加したことによって時間が伸びてコンパを逃してしまったのですわ! そして本人は先月寿退社!! あんな【自主規制】 上司、【自主規制】んでしまえばいいのですわ! こんな仕事辞めてやりますの!


 F●ck her!」


 そうして彼女の哀しみはいつの間にか怒りに変わっていた。……なぜ俺はコイツの愚痴を聞いているんだ? 初対面だよな?

「落ち着けよぉ! いくらなんでも日本人の前でそこまで言うことないだろ!? ……ったく、泣き止んだ途端これかよ。 お前忙しいな。終わったなら説明してくれよ、俺これからどうすればいいんだよ? これからずっと何も触れないワケ?」

「え? ああ、そうでしたわね。えーと……」

 遂に泣き止んだフレイヤは、何やら机の下から分厚い本を取り出した。

「アロウさんは、まず地獄で323年の労役を終えてから『天国プラン』で永遠に老人たちのお世話をするか、記憶をすべて消去して赤ん坊からやり直す『人生もう一度プラン』のみですわ」

「おいちょっと待てよ! 地獄で323年ってなんだ!……あと、よく考えたら天国プラントやらもさあ、説明からして何も楽しそうじゃないんだよ! なんだよ、俺、これでも前科はないからな!!」

「前科になってないからこそ、償うのですわ」

 即答した彼女の顔は、ある意味冷酷ともいえるほど真剣であった。

「アロウさん、貴方は生前、虫や犬猫などを私的な理由で殺めていますので、殺生の数が罪となり、生前償った分だけ死後の労役も減る地獄の規則にのっとった正当な審判ですわ。こればっかりはどうしようもありませんの。自業自得ですわ」

 確かにそんなことをやった覚えは、ある。


 突然の自分語りだが、色々こじらせていた小学生の頃俺は、テレビの特撮ヒーローに憧れた。

 だが、中学校時代から、戦争が始まったこともあって倫理観が麻痺し、より自分の目的に合理的な悪役の方に惹かれるようになり、兵士になってからは人間以外を傷つけても悲しまないくらい余裕がなくなってしまっていた。

 今でも俺は悪役のほうが好きなのだが、俺も言い訳をした彼女と同じように、やってしまったことを戦争のせいにして逃げてきていたのだ。

 しかし、どちらにしろ地獄で300年以上過ごしてから、天国でつまらない生活で精神を削るか、また戦時中の世の中で精神を削るか。

 と、俺が苦悩オブ苦悩していたその時。


「ですがアロウさん、一つ、良い提案がありますの」

 フレイヤは不敵な笑みを浮かべながらそんな事を言ってきた。

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