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6. 何事もなかったような日常

 週末に動物園に出掛けた。子供がずっと行きたがっていた。お父さんに肩車をしてもらって機嫌が良かった。

「次は象を見に行こう」

夫も子供も楽しそうにしていた。お昼になると広場にシートを敷いて持参の弁当を食べた。唐揚げとポテトとおにぎりが入っている。夫が作った。ジャンクフードばかりで身体に悪そうだが子供に好きなものを食べさせたかったようだった。子供がつまんだポテトを口に運んでいる。私は平凡な日常が返って来たことに感謝していた。確かに夫の記憶は直近の二年分が欠落していた。でもそれ以前の記憶に間違いはなかった。私たちの出会い。子供の出産に立ち会ってくれたこと。家族で旅行に行ったこと。みんな覚えていた。身体の特徴も同じ。服のサイズも同じ。子供の接し方も同じ。私にはよくわからないが自室でクラシックを聴く習慣も同じだった。子供が喜んでいるから、これで良かったのだと思う。

「お父さんの好きな動物は何?」

「お父さんはコアラが好きだよ」

「どうして?」

「一日中、寝ていられるから」

眩しい陽の光が時間をかけて私たちを温めてくれている。心地良い風が吹いている。平和で穏やかな日曜日。幸せな日常。ふと、夫が死んだとか保険契約で生き返ったといったことは私の記憶違いのように感じられた。今はすっかり元通りになった。本当に何事もなかったのかもしれない。

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