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2. 満月を数える子供

 海外赴任中の夫が行方不明になったと連絡があった。赴任先が危険だという認識は夫にも私にもながったが、瞬く間に内戦になったということだった。直ちに邦人を帰国させるよう政府から現地で事業を展開している企業に通達があったということだが、その翌日には夫の会社が営業拠点としていたビルが砲撃を受けて倒壊したということだった。夫の会社の社員が何人も亡くなったということだった。夫の遺体は見つかっておらず、行方不明ということだった。販売網の整備のために社員が交代で現地に赴任するのだと言っていた。三年勤めたら帰れると言っていた。三年くらいなら、私と子供は国内に留まった方が良いと思って一人で行かせてしまった。でも私たちが一緒に行っていたとしたら子供まで巻き添えになっていた。

「お父さんはいつ帰って来るの?」

子供はいつも言っている。

「お父さんは外国でお仕事しているから、しばらく帰って来られないのです。お月様があと三十六回まん丸になったら会えます」

それから子供は毎晩月を眺めるようになった。そして月の形を絵日記に書き込んでいた。

「お母さん。今日のお月様はまん丸だよ。あと三十回でお父さんが返って来るね」

子供は満月が訪れる度にそう言った。そしてまた満月がやって来た。夫が行方不明になってからもう二年経つ。本当ならあと十回少しで帰って来るはずだが、今となってはあと百回満月がやって来ても帰って来ないような気がした。

「お父さんはもう死んじゃったの! もう帰って来ないの!」

イライラしていてそう言ってしまったこともある。子供は死がどういうものなのかよくわかっていないようで、翌日にまた同じことを聞かれた。私はこれから一人でこの子を育てていかなければならないのだと覚悟を決めた時に、夫が生前『新しい形の生命保険』と言っていた契約のことを思い出した。もし自分に何かあったとしてもこの保険があれば大丈夫だと言っていた。その時には何のことだかよくわからなかった。契約書を見て内容を確認してみる。『記憶のバックアップ一式』と書いてあるが、何のことだかよくわからない。とりあえず明日、連絡してみよう。

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