12. 和解
互いに相手の存在が許せなかった。私という唯一の存在を脅かしているのが彼であり、彼という唯一の存在を脅かしているのが私であった。だが唯一無二の私という存在が尊いと考えるのであれば、彼の命も私の命も、彼の身体も私の身体も、彼の記憶も私の記憶も、いずれも尊いものに違いなかった。私たちは何度も会って、何度も話し合った。彼が私を憎んでいて、私が彼を憎んでいるのは隠しようがなかったが、彼は私なのだから腹を割って話してみれば、そんなに悪い奴ではなかった。お互いの考えていることも察しがついた。察しがついて当然だろう。私の考えていることなのだから。そして私たちは和解できる方法がないか考えるようになった。意外とすぐにその方法は思い付いたが口にするのは憚られた。だがお互いが納得できる方法は他にはないということもわかっていた。そして妻を呼んで二人が合意した内容を説明した。彼女は行方不明だった私が帰国するという話を聞いた時から思い悩んでいたようだった。
「もう二度と会うことはないと思うが、元気に暮らしてくれ」
「もう二度と会いたくないが、幸せに暮らしてくれ」
そう言って、私たちは別れた。その後、彼とは会っていない。そして私は家族と一緒に暮らして行けるようになった。もちろん彼が譲ってくれた訳ではない。私たちは妻を説得して、妻と子供のコピーを作った。もちろんどちらがオリジナルでどちらがコピーかということはもう区別がつかない。同じ遺伝子を持ち、同じ記憶を持っている。私たち自身もどちらがコピーかはわからない。もしかしたら私の方がコピーかもしれない。でももうそんなことはどうでも良かった。これから先は互いに別々の道を歩んで行くことになるのだから。