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10. 対面その二

 私のコピーは、私のコピーであることを認めようとしなかった。そして遺伝子も記憶も同じだからどちらがオリジナルでどちらがコピーかを区別する方法はなかった。ただこうなってしまった経緯を上手く説明しようとすると私がオリジナルである方が都合が良いというだけだった。そしてその原因を作ったのは私自身であって彼が悪いという訳ではなかった。私たちはこの世で唯一無二のかけがえのない私が二人いるという現実に直面していた。私の記憶を引き継いでいる彼は、私が死んでいたなら唯一の私だった。彼の記憶が嘘という訳ではなかった。引き継がれていたなら私自身の大切な記憶ということになっていただろう。本来、二人が共有するはずのない記憶。一人だけが持っていることが許される記憶。それが自分の記憶であると主張する権利は彼にも私にもある。そして引き継がれるまでは同一の記憶を共有しているが、そこから先は個別の人生を歩んでいる。このまま別々の個人として生きて行けば良いのか? だが、大切な家族は彼が独占している。妻と子供は彼と共に暮らしている。これでは不公平だ。

「姿かたちも記憶も同じ人間が二人いる。そのことをきちんと説明しようとすると私がいったん行方不明になってしまったという事実が必要になります。私が死んでしまったという判断がコピーを生み出すきっかけになったのです」

「それは私を陥れるためのあなたの作り話ではないのでしょうか? 本当はあなたが私のコピーではないのですか? あなたの目的は何ですか? 何のために私の前に現れたのですか?」

「どちらがオリジナルで、どちらがコピーかを決めるのが目的ではありません。ただあなたに私の置かれている境遇を理解してもらいたいのです。あなたは家族と一緒に暮らしていますが、私は一人なのです。不公平だと思いませんか?」

私たちは本来、二人であってはならなかった。家族と共に暮らせるのはどちらか一人だった。そうすると生きて行けるのは一人でなくてはならないのだろうか? どちらかが消滅してしまわねばならないのだろうか?

「私たちは二人とも幸せになる権利があると思います。でもどちらか一人しか家族と一緒に暮らすことはできないのです。私は家族と共に暮らしているあなたが妬ましいのです。できれば私と入れ替わって欲しいのです」

私のことをコピーだと言う私のコピーらしき彼が言った。話し合いは平行線を辿った。このままでは殺し合いになるかもしれなかった。私がそう思っているくらいだから、私のコピーも同じことを考えているに違いなかった。

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