入学初日2
腐った展開(未遂)あります
二人の男の登場で静かだった裏庭は色めきたった。主に取り巻きの令状の黄色い声で。
「セルティル様とシルヴィオ様よ。二人は出来てるって噂よね!」
BとL展開である。
セルティルはそんなこともものともせず縦ロール令嬢を睨みつけ、いつの間にかアイリスを庇うように隣にきたシルヴィオは愉快に笑っている。
「アイリス様だっけ?大丈夫?」心配したフリしてるけどわかってる。展開を楽しんでるだけだ。
「え、ええ。だっ、大丈夫ですわ。ありがとうございます」
カミカミである。心は恋する乙女である。
「教室に居たら、窓の外から君たちが見えたんだぁ!セルシーは生徒会長だから心配して来たんだよ。ね、セルシー」
声を弾ませて愛称で呼ぶたびに令嬢からの悲鳴。
「ああ。アイリス様は殿下の婚約者だからな。何かあったら困る」縦ロール令嬢は萎縮して泡吹いて倒れてしまった。
他に助けを呼んでいたらしくガタイの良い生徒が裏庭を占領する。
「アイリス様は先に帰ってくれ。門までシルヴィオに任せる」
現場検証の様にセルティルはその場から動かずシルヴィオと来た道を戻るのだった。
「聞いてないんだけど?何で宰相の息子と一緒にいるの?」
誰も居ないのを確認し、通り道のガゼボに腰掛ける。
「黙っていた方が楽しい展開になると思って」
「この、愉快犯めっ!」
「アリィは怒ってる顔も可愛いね。クラスがずっと同じだし、一緒に居たら女の子が寄り付かないからいいかなって思って」
変な噂は広まってますが。
「宰相は第三王子支持者よ?」
「彼は中立を貫いてるよ。表向きは第三王子の味方だけどね」
髪をひとすくい取られ、キスを落とされる。
「僕は第一王子以外だったら誰でもいいけどね。君を奪った男なんか認めない。だから少し君が困ればいいなって思ったのもセルティルに近づいた理由でもあるんだけどね」
「ヴィオは性格悪いわね」
「それでも好きでしょ?」
「……知ってるくせに」
唇が触れ合い数秒。静かな時間が訪れた。
何事もなかったかの様に校舎に戻り門まで歩く。
誰かが知らせたのかパリスが馬車の前に立っていた。
「大丈夫か?アイリス?心配したぞ」
アイリスに駆け寄りシルヴィオに牽制するかの様に引き離す。まさかの初日で問題が起きるとは想定外だったのだろう。額に汗が流れている。
「心配をお掛けして申し訳ございませんでした。私の判断ミスでございます。もう少し上手く立ち回れていれば…セルティル様とシルヴィオ様に助けて頂きました」
シルヴィオの方に体を向け軽くお辞儀をする。シルヴィオもパリスに体を向け胡散くさい笑顔でお辞儀と自己紹介をする。
「礼は屋敷に届けたいのだが?」
「寮生活ですので気にしないでください。田舎暮らしの貧乏貴族ですので礼など不要です。返って恐れ多いです。仲裁に入ったのはセルシーですので、礼なら彼に」
一言多い。セルティルとパリスの関係をわかっていっているのか、パリスは頬を引き攣らせながら、アイリスの手を引き馬車に乗った。
「あいつには近づくな」
馬車が出て開口一言目がそれだった。
「それは…学園の中でどんなことがあるかわかりませんので簡単にはお答えできません… 実際近付かれたら逃げるなんてことは出来ませんし」
「あいつはダメだ。俺のことを嫌っている。宰相の息子と手を組んでお前のことを陥れようとしているかもしれない」
「嫌われているのは殿下だけですわ」
「だからこそ、お前が危ない。お前は公では俺の弱みとなっている」
「でも彼はセルティルは派閥を持たず中立を貫いてると申してました。なので、私を彼らは罠に嵌める心配はないかと」
「なんでお前はあいつに肩入れする?確かに顔は良かったが胡散臭かったぞ?お前は騙されているんだ」
珍しく声を荒げ、パリスはアイリスを射抜く。
「…まさか…」
「…そのまさかです。殿下。…胡散臭いですよね。セルティルと仲良いなんて知りませんでしたよ、今日まで」
乾いた空気が馬車を包んだ。